特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

2016年に創業した株式会社FORTは、他社によくある住宅建築のシリーズ展開をしていない。敢えて型にはまったシリーズを作らないのは、個別の顧客に向けたソリューション展開を心がけたいからだ。「設計士とつくるデザイン住宅」をコンセプトに、設立から5期目を迎える株式会社FORT。営業マンを置かず、社員の多くが設計士というビジネススタイルを貫きながら、事業拡大を続けているトップに話を聞いた。

(取材・執筆・構成=長田 小猛)

株式会社FORT
(画像=株式会社FORT)
中村 亜樹(なかむら・あき)
株式会社FORT代表取締役
1972年岡山県岡山市生まれ。
大学の経済学部を卒業後、母親が始めた園芸店を手伝ったのが社会人のスタート。その後、かつて倉敷市にあった「倉敷チボリ公園」の植栽管理を請け負う会社に入社。コースの管理を行うためゴルフ場に出向し、フロント業務や集客の営業でビジネスの基礎を学ぶ。ゴルフ場の顧客であった不動産業者に営業の手腕を見込まれ、2年間不動産仲介業務を経験。2012年に独立し花菱不動産を設立、4年後の2016年には住宅建築部門を独立させる形でFORTを立ち上げた。

学び続ける設計集団でいたい

――会社設立当初から、デザイン住宅を中心に事業を展開されています

私たちは、住宅をシリーズ化してお客様にアピールするというビジネススタイルではありません。デザイン住宅、つまり注文住宅にこだわっています。私たちが住宅づくりで大切にしている「FORT」が、4つあります。「堅固性(FORT)」、「快適性(comFORT)」、「企業努力(efFORT)」、「資産性(FORTune)」です。

堅固性は耐久性のある家づくりです。たとえば中世ヨーロッパのお城は現在でも美しく、頑強な状態で残っていますよね?しかし日本では、家は30年で建て替える印象が強いと思います。お城は少し極端かもしれませんが、欧米では最低でも60〜70年住み続けるのが普通です。不動産取引も、日本は85%が新築、欧米は85%が中古住宅の取引です。

次に快適性です。FORTの住宅は気密性と断熱性に優れています。たとえば気密性の度合いを示す数値には「C値」が用いられますが、その数値が低いほど高い気密性を示し、一般的な住宅の最低基準値は「5」。対してFORTの標準値は「0.5」です。私たちの職人の技術と工法を工夫することにより、最低基準値の10倍もの気密性を達成できているのです。気密性が「すきま風を家の中に入れない性能」を表すのに対し、断熱性能は「家の中の熱を逃がさない」性能を指します。私たちの設計する住宅はこちらも優れていて、夏は涼しく、冬は暖かい。住む人が過ごしやすい家になっています。

3つ目は企業努力です。日本の住宅のレベルは世界的に見るとまだまだ低いものです。日本に合う精度の高いものを、コストパフォーマンス良くお客様に提供したい。これは我々がいかに努力するかにかかっています。

最後は資産性。堅固性でも申し上げましたが、30年で作り替えなければならない住宅に資産性があるとはいえません。ただし耐久性を上げようとして材料にこだわるだけでは、コストが上がってしまいます。たとえばデザインを工夫し、住宅に湿気を滞留させない工法を採ることで耐久性は50年、60年と高まっていくといわれています。家を建てるときに売ることを考えて作る人や会社はまずありませんが、私たちは耐久性の高い家を作って手放されるときも資産として評価される住宅を作りたいのです。

株式会社FORT
(画像=株式会社FORT)

これらを高次元で満たすには、シリーズではなく個別のお客様に向けたソリューション提案が欠かせません。

――貴社のスタッフは建築士やデザインコーディネーターなど、設計に携わる方が多いですね?

実は当社には、いわゆる営業マンがいません。必要なのは営業との会話ではなく、家づくりに取り組む前の人生設計や適正な資金計画です。購入後に70%の人が何かしらの後悔をしてしまう注文住宅の世界。少しでも後悔する人を減らす為に、後悔するポイント第1位の「断熱・気密」、第2位の「お金」のところから説明します。私たちは毎回違う個別のケースを学びながら、成長し続ける設計集団でいたいと思っています。

目標はプリウスのような家づくり

――貴社の強みにはどのようなものがありますか?

先ほど申し上げた「堅固性」、「快適性」、「企業努力」、「資産性」を実現できる、技術者と設計士の集団であることです。またスタッフに女性が多いことも強みの一つです。社員は現在20名ほどですが、女性の目線を大切にするため、女性の比率はかなり高いです。家づくりの中心は家庭の中では奥様であることが多く、そのお気持ちを察することが大事です。またこの業界は女性が活躍できる業界なので、頑張ってほしいとも思っています。

株式会社FORT
(画像=株式会社FORT)

私自身が宅地建物取引士やファイナンシャルプランナーの資格を持っていますので、当社ではお客様のライフプランに踏み込んだアドバイスができます。私は花菱不動産を設立する前の2年間、不動産仲介業を経験しています。そこでは家を建てたあとにローン返済などに苦しみ、ご家族が不幸になるケースも見てきているのです。当社のお客様にそのような思いはしてほしくありません。家づくりでは「デザイン」、「性能」「コスパ」のバランスを重視し、特にお金の話を最初にちゃんとするのが大切です。ちなみにファイナンシャルプランニングでは、料金をいただいてはおりません(笑)

FORTの建築設計は、設計士がお客様と相談を重ねながら、そのお客様のご要望と経済状況に合った家を設計します。気密性、断熱性能に優れた家は、光熱費を抑えられる家でもあります。建築時は少し費用がかかるかもしれません。ですが、カローラよりは高いが、ランニングコストで得できる、そんなプリウスのような家を提供していきたいと考えています。

――コロナ禍は事業にどのような影響を及ぼしましたか?

業界全体では大きな影響はないと思います。逆に都会だと移住ビジネスが盛んなこともあり、建築業界自体では横ばいか少し上がるくらいではないでしょうか。私たちも大きな影響は受けていません。普段から行っている無料相談会も続けていますが、これをオンラインに変えたところ、ここ岡山では需要がありませんでした。感染者数の多い県と違うところかもしれませんが、直接ご来店をいただくことが圧倒的に多いですね。当社では支店を「スタジオ」と呼んでおり、単なる打ち合わせの場所ではなく、お客様が心安らげるショールームとしても使える場所にしています。そんなことも影響しているかもしれません。

ただしテレワークや家で家族と過ごす時間が増えているのも事実でしょうから、設計ではより家族で過ごしやすい空間づくりを心がけていきたいと思います。

――今後はどのように事業を発展させていきたいとお考えですか?

1、2年後までには社員を倍にし、新築だけではなく不動産やリフォーム、相続やお金の困りごとなども解決していくサービスを展開していきたいです。

たとえばコロナ後の生活様式として、玄関を入ったらすぐ手洗いができるようにリフォームするなどの需要もあるでしょう。また岡山の中心部では駅前にさまざまな店舗が建ち、人の流れが変わってきています。住居のエリア(生活圏)も若い人たちが集まるエリアと、昔ながらのエリアが分かれはじめています。リタイア後の充実した生活のためのリフォームや、心が安らぐリフォームなどの分野も今後は増えていくのではと考えています。