新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、日常生活は大きな変化を余儀なくされました。
それは住宅も同様で、住まいに対する新しいニーズが生まれ、ハウスメーカー・デベロッパーなどの住宅の供給者はそのニーズの取り込みを目的としたさまざまな新商品を市場に投入しています。
この記事では、コロナ禍で生まれた新しい住まいのトレンドが賃貸住宅の入居者ニーズにどのような変化を与えているのかを検証し、不動産投資におけるポイントについて解説していきます。
住まい探しのトレンド①「立地重視から快適性重視へ」
2020年11月に発表された株式会社リクルート住まいカンパニーの「コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査」によると、1回目の緊急事態宣言前と宣言後でテレワークの実施率を比較すると、首都圏が33%から62%、関西圏で24%から47%となり、実施率はほぼ倍となりました。
<住宅購入・建築検討者のテレワーク実施率>
緊急事態宣言以前 | 緊急事態宣言中 (2020年4月7日~5月25日) | 2020年7月~8月末 | |
---|---|---|---|
首都圏 | 33% | 72% | 62% |
関西 | 24% | 53% | 47% |
東海 | 25% | 51% | 41% |
札幌市 | 20% | 50% | 38% |
仙台市 | 20% | 52% | 36% |
広島市 | 22% | 47% | 32% |
福岡市 | 25% | 57% | 39% |
※働いている時間の内、テレワーク(リモートワーク)にて実施している/いた割合
参照:株式会社リクルート住まいカンパニー「コロナ禍を受けた『住宅購入・建築検討者』調査」をもとに編集部作成
在宅勤務の増加によって自宅にいる時間が長くなり、これまで意識していなかった住まいへの不満が出てきて、住み替えニーズは高まる傾向にあります。また、手指の消毒や換気など、ウィズコロナならではの新しい生活スタイルも住み替えの活性化要因の一つとなっています。
コロナで変化した生活スタイルと入居者ニーズ
テレワークを中心とした在宅勤務の増加は、アフターコロナにおいても一定数が継続の見込みで、都心のオフィスに回帰する動きは限定的とみられています。企業によっては在宅でフルリモートワークが標準というケースも増加しており、今後の住宅の設備・仕様においては、テレワーク・リモートワークを前提とした間取りなどが標準化されるものと考えられます。
また、自宅で過ごす時間が増加したことで、インターネットの回線速度や住宅の遮音性、日当たりや省エネ性能などに関しては特に入居者ニーズが高まっています。加えて、帰宅したら手指を消毒する、定期的な室内換気など、家庭内のルーティーンにも変化が生じており、こういったトレンドへの対応も必要となるでしょう。
コロナ禍で生まれたニーズへの対応
ここでは、コロナ禍でニーズが高まる以下の賃貸設備・仕様について、対応のポイントを解説します。
- インターネットの回線速度
- 住宅の遮音性
- 衛生環境
以下、順を追って解説します。
・インターネットの回線速度
インターネットの回線速度については、テレワークに加えて、動画配信サービスやオンラインゲームなどの利用頻度が増加したことで高速回線へのニーズが高まっています。
回線速度の改善については接続環境によって異なりますが、配信や通信方法を確認し、費用対効果などを見ながら設備刷新などを検討しましょう。
・住宅の遮音性
近隣の声や音などが気になって業務に集中できない、またオンライン会議で自身が発する声が近隣に漏れることが気になるといった意見が増加しています。
遮音性については建物の構造に依存する部分が大きいので、床や壁の遮音性を確認することが重要です。また、内窓の有無で遮音性に違いが出ますので、こちらも費用対効果をみながらリフォームなどを検討してもいいでしょう。
・衛生環境
室外については、在宅中のデリバリー利用の増加に加えて、非接触の「置き配」ニーズが高まっています。従前よりネット通販ニーズの高まりもあり、宅配ボックスは積極的に導入を検討してみても良いかもしれません。
室内では、手指消毒・換気の徹底のほか、できるだけ菌やウイルスを持ち込ませないことへの関心が高まっています。タッチレス水栓の設置は、比較的安価・手軽に設置ができ、非接触に加えて節水効果も得られて一石二鳥です。積極的に導入を検討しても良いかもしれません。
住まい探しのポイント②「働き方の変化」と住みたい街ランキング
テレワークの普及によって、職場の所在地に縛られない住まい探しが可能になったことで、都心・郊外の居住ニーズが二分されることとなりました。
借りて住みたい駅ランキング(上位10駅を抜粋)
順位 | 駅名 | 順位変動 |
---|---|---|
1 | 本厚木 | 4位→1位 |
2 | 大宮 | 5位→2位 |
3 | 葛西 | 2位→3位 |
4 | 八王子 | 7位→4位 |
5 | 池袋 | 1位→5位 |
6 | 千葉 | 14位→6位 |
7 | 蕨 | 11位→7位 |
8 | 三鷹 | 17位→8位 |
9 | 柏 | 16位→9位 |
10 | 川崎 | 3位→10位 |
参照:株式会社LIFULL「2021年LIFULL HOME'S住みたい街ランキング〈首都圏版/関東〉」をもとに編集部で作成
上の表はLIFULL HOME’Sの「2021年LIFULL HOME'S住みたい街ランキング〈首都圏版/関東〉」で上位10駅を抜粋したものです。東京および周辺三県の郊外エリアの人気が高まり、東京23区の葛西駅・池袋駅の人気が下落する結果となっています。
この結果を踏まえると、都心まで1時間程度、1時間半圏内のニーズが高まっていることがわかります。結果を詳細に見ていくと、さらに傾向を見出すことができそうです。
1つ目は、郊外でありながらある程度人口が集積している中核駅が散見されることで、具体的には八王子駅(4位)千葉駅(6位)などがそれに該当します。いずれも居住環境・交通利便性の良さに加えて、手頃な家賃相場が特徴のエリアとなっており、それらのバランスの良さが好感されているものと考えられます。
もう一つは、上位10位圏外ではありますが、41位の木更津(前回141位)、62位の茅ヶ崎(前回134位)などは増加幅が大きく、コロナによって上位に進出してきています。いずれも自然が豊かなリゾート郊外とも言える駅で、オンとオフの切り替えを楽しみたい層に人気を得ているようです。
不動産投資におけるポイント
コロナ禍における郊外需要の高まりは一過性のトレンドか、コロナ禍をきっかけとした働き方改革・テレワークやオンライン授業の本格導入・都心一挙集中の緩和が進むのかどうかは、今後も引き続き動向を注視していく必要があります。
郊外需要については、広域集客でそのエリアにあまり詳しくない層を集客することとなりますので、当該エリアの魅力をしっかりと訴求できることが重要になります。その一方で、都心のニーズが大幅に落ち込むということは考えづらく、アフターコロナにおいても一定の需要を維持するものと思われます。
都心への流入は若年層が多いことを踏まえると、物心がついたときからスマホに触れてきた“スマホネイティブ世代”への対応として、高速インターネット回線の整備、スマートロックやスマートスピーカーを装備したIoT設備の導入なども検討してみるとよいでしょう。
新たなニーズをチャンスととらえよう
ここまで、コロナ禍で生まれた新しい住まいのトレンドが賃貸住宅の入居者ニーズにどのような変化を与え、それに対してオーナーはどのように対応する必要があるのかについて検証・分析しました。
ポイントは以下の通りです。
- コロナ禍によって在宅時間が増加したことで、立地重視の住まい探しから快適性重視の住まい探しにトレンドが変化した
- 具体的にはインターネットの回線速度、住宅の遮音性、衛生環境関連のニーズが高い
- テレワークの普及により、職場の所在地にとらわれない暮らし方が広がっており、郊外物件のニーズが高まっている
- 郊外物件の特徴は、八王子・千葉のような利便性の高い郊外と、木更津・茅ヶ崎のようなリゾート郊外に二分される
コロナ禍によって新しいさまざまな居住ニーズが生まれていることをご理解いただけたかと思います。市場環境を俯瞰すると、コロナ禍が収束した後も少子高齢化・人口減少といった課題は残ります。新たなニーズをチャンスととらえて、こういった課題・懸念に対処していくことで新たなビジネスチャンスを生み出すことができるでしょう。(提供:Incomepress )
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