テレワークは「サテライトオフィス」と「在宅勤務」どちらを選ぶべき?
柔軟な働き方の整備を進める上で「在宅勤務とサテライトオフィス、どちらを重視するべきか」。こんなお悩みを持つ経営層や人事関係者も多いのではないでしょうか。ここでは選択する際のヒントになるよう、在宅勤務とサテライトオフィスのメリット・デメリットを比較していきます。
「テレワーク」「在宅勤務」「サテライト」「コワーキング」の定義とは?
さて比較をする前に、最近では柔軟な働き方を表す言葉として、「テレワーク」「在宅勤務」「サテライトオフィス」「コワーキングスペース」などがビジネスシーンでよく使われます。そもそもこれらの言葉の違いは何でしょうか? 定義は以下のようになります。
テレワークとは?
テレワークとは、「tele(離れた場所)」と「work(働く)」を組み合わせた造語です。日本テレワーク協会では、テレワークを「情報通信技術を活用して場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義しています。なお、下記で紹介する「在宅勤務」「サテライトオフィス」「コワーキングスペース」などは、すべてテレワークに含まれます。
在宅勤務とは?
4つのキーワードのなかでは、在宅勤務がもっともイメージしやすいでしょう。一般社団法人 日本テレワーク協会では在宅勤務を「自宅を就業場所とする働き方」と定義しています。自宅のリビングや部屋などでパソコンを利用して働くのが代表的なスタイルです。
サテライトオフィスとは?
総務省では、サテライトオフィスのことを「企業または団体の本拠から離れたところに設置されたオフィスのこと」と定義しています。つまり、企業が本社や支社などとは別にオフィスを設置するようなイメージです。本社・支社で働くわけではないものの、会社が用意した空間で働くことには変わりありません。
コワーキングスペースとは?
コワーキング協同組合では、コワーキングスペースの主な対象者を個人事業者と小規模法人としています。その上で「オープンなワークスペース」、すなわち対象者が自由に使える場と紹介しています。
さらに、「自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有」するという特徴も加えています。つまり、仕事ができるという機能面だけでなく、そこで行われるコミュニケーションも含めてコワーキングスペースということになります。
この項目で解説してきた内容をまとめると、次のようになります。
【テレワーク】
・場所や時間にとらわれない柔軟な働き方 ・下記の3つはテレワークに含まれる |
||
<在宅勤務> ・働く場所は自宅が基本 |
<サテライトオフィス>
・本社や支社とは別のオフィス空間 |
<コワーキングスペース>
・オープンなワークスペース |
「在宅勤務」と「サテライトオフィス」のメリット比較
上記のうち、今回は「在宅勤務=自宅勤務」と「サテライトオフィス=会社が用意した別オフィス」の比較をしたいと思います。情報のもとになるデータはザイマックス総研「首都圏オフィスワーカー調査2020」です。
在宅勤務のメリットBEST3:導入しやすい、通勤時間ゼロ、負担軽減
導入しやすい
これは導入企業のメリットです。両者の実施率を比較すると、在宅勤務58.6%に対してサテライトオフィス勤務は15.3%です。約4倍の差があることから。在宅勤務が圧倒的に実施しやすいことがわかります。導入しやすい理由としては、「オフィス契約の手間やコストが不要」という部分が大きいでしょう。
通勤時間をゼロにできる
これは働く人のメリットです。移動時間ゼロで仕事が始められるのは在宅勤務をする人の最大のメリットです。在宅勤務の経験者の実に92.1%がメリットとして「移動時間・通勤時間の削減」を挙げています。
在宅勤務のメリット | 割合(%) |
---|---|
移動時間・通勤時間の削減 | 92.1 |
感染症の感染リスク低減 | 57.8 |
肉体的な負担軽減(健康増進、疲労軽減) | 39.2 |
ストレス軽減 | 38.5 |
集中して仕事ができる | 37.8 |
家族との時間が増える | 36.1 |
残業時間の削減 | 28.9 |
自分の趣味や余暇などの時間が増える | 25.6 |
育児・介護などに充てる時間が増える | 10.0 |
仕事の成果が向上する | 9.9 |
いいアイデアが出せる | 6.7 |
その他 | 0.8 |
集計対象:在宅勤務経験者でメリットを感じている(n=1,459)/複数回答
出典:「首都圏オフィスワーカー調査2020」 (ザイマックス不動産総合研究所)を基に編集部にて作成
肉体的、精神的な負担が減る
このほか、在宅勤務の経験者がメリットとして挙げたのは、「肉体的な負担軽減(39.2%)」「ストレス軽減(38.5%)」です。これらはもちろん、働く側から見たときの大きなメリットであると同時に、会社側から見ても従業員の健康状態が好転することで効率性向上につながると考えられます。
※「感染症の感染リスク低減(57.8%)」も在宅勤務のメリットですが、コロナ感染収束後に結果が大きく変わる可能性もあるため、BEST3から除外しています。
サテライトオフィスのメリットBEST3:集中できる、オンオフの切り替え、安定した通信環境
サテライトオフィスのメリットでも「通勤時間の短縮」を挙げる人が多数いました。しかしこれは自宅勤務のメリットが上回るため、BEST3から除外しています。自宅勤務よりもアドバンテージのある「サテライトオフィスだからこそのメリット」は次の通りです。
集中して仕事ができる
これは企業側と働く側の両者にとって、大きなメリットでしょう。「集中して仕事ができる」をメリットに挙げたテレワーク経験者は全体の59.1%です。サテライトオフィスは、本社や支社などとは別の場所といっても、一般的なオフィスとほぼ同じ環境で仕事ができます。
サテライトオフィス勤務のメリット | 割合(%) |
---|---|
移動時間・通勤時間の削減 | 59.1 |
集中して仕事ができる | 44.2 |
自宅から移動することでオンオフを切り替えられる | 23.3 |
通信環境が安定している | 22.4 |
ストレス軽減 | 22.1 |
肉体的な負担軽減(健康増進、疲労軽減) | 19.4 |
モニター等の機器が揃っている | 18.8 |
コピー機がある | 18.2 |
感染症の感染リスク低減 | 14.5 |
家族を気にせずに働ける | 13.6 |
いいアイデアが出せる | 12.1 |
残業時間の削減 | 12.1 |
仕事の成果が向上する | 11.2 |
費用負担がない | 10.0 |
近くの施設で買い物や趣味を実現できる | 7.6 |
情報セキュリティが保護される | 7.3 |
家族との時間が増える | 7.3 |
自分の趣味や余暇などの時間が増える | 5.5 |
顧客対応時間の増加 | 5.2 |
顧客訪問回数の増加 | 4.8 |
育児・介護などに充てる時間が増える | 4.2 |
その他 | 0.6 |
集計対象:サテライトオフィス勤務経験者でメリットを感じている(n=330)/複数回答
出典:「首都圏オフィスワーカー調査2020」 (ザイマックス不動産総合研究所)を基に編集部にて作成
オンオフを切り替えやすい
これは「職場に行かないとスイッチが入らない」というタイプの従業員のメリットです。「自宅から移動することでオンオフを切り替えられる」を挙げているのは23.3%、約4人に1人です。
通信環境が安定している
自宅勤務の人にありがちなのは、zoomなどのオンライン会議で通信が不安定な人がいるというものです。たとえ自宅にネット環境があったとしても、回線が不安定であればビジネスには不向きです。 22.4 %がメリットに挙げています。
「在宅勤務」と「サテライトオフィス」のデメリット比較
テレワーク経験者は、「在宅勤務」と「サテライトオフィス」のデメリットをどのように感じているのでしょうか。
在宅勤務のデメリットBEST3:運動不足、オンオフの切り替え、コミュニケーション減少
運動不足になりやすい
運動不足をデメリットに挙げている割合は56.0%です。在宅勤務は通勤時間がまったくないわけですから、運動する習慣のない人はたちまち運動不足になってしまいます。そのため、在宅勤務を積極的に取り入れる企業は、福利厚生でフィットネスクラブが使えるよう整備したり、勤務時間中にカラダを動かす一定の時間を確保したりするなどの工夫が必要でしょう。
オンオフを切り替えづらい
自宅だと仕事モードにならないという従業員も一定数いるでしょう。「オンオフを切り替えづらい」を不満に挙げている割合は50.7%と半数を超えます。気になるデータもあります。日経MJではテレビ視聴に関するデータの変化から「テレビを見ながら在宅勤務をする中年男性が増えている」と推測しています。これが事実なら、仕事の効率性に悪影響がありそうです。
社内コミュニケーションが減る
社内コミュニケーションが減ることを不満にあげている割合は45.3%です。ただ最近ではバーチャルオフィスのサービスや社内コミュニケーションツールが多数ローンチされているため、これらを活用すれば解消できる問題といえます。
サテライトオフィスのデメリット:情報漏洩リスク
サテライトオフィスの従業員側のデメリットは、ほぼないと考えられます。なぜなら、勤務場所が最寄りのオフィスになっただけで、本社や支社と同じようなオフィス環境で働くことができるからです(ザイマックス総研の調査でも、サテライトオフィスのデメリットには触れていません)。
一方、企業側のデメリットとしては、情報漏洩リスクが考えられます。ただ、これについてはセキュリティー環境の高いサテライトオフィスを準備すれば解消できる問題です。もうひとつ考えられるデメリットは、オフィスの賃料や使用料の負担ですが、これは従来オフィスの縮小で調整できます。
この項目で解説してきた内容をまとめると、次のようになります。
在宅勤務 | サテライトオフィス | |
---|---|---|
メリット | ・導入しやすい ・通勤時間をゼロにできる ・肉体的、精神的な負担が減る |
・集中して仕事ができる ・オンオフを切り替えやすい ・通信環境が安定している |
デメリット | ・運動不足になりやすい ・オンオフを切り替えづらい ・社内コミュニケーションが減る |
・情報漏洩リスクがある ・賃料や使用料の負担 |
在宅勤務とサテライトオフィスの併用も一案
ここでは、柔軟な働き方を進める上で「在宅勤務とサテライトオフィス、どちらを選ぶべきか?」をテーマに解説してきました。
それぞれの特徴を明確にするため対立軸で比較しましたが、実際にはどちらもメリットがあるため併用していくのも一案です。ただ、在宅勤務とサテライトオフィスの割合に関しては、それぞれの企業の規模・体質・財務状況などによって変わってきます。テストを繰り返して、ベストな割合を見つけるのがよいでしょう。
(提供:spacible)