シェアオフィスやコワーキングスペースは、ここ数年来の働き方改革の波に加えて、コロナ禍におけるテレワークの推進によって、一気に利用者が増加しました。こういった変化に伴って、シェアオフィス・コワーキングスペース市場に続々と新規参入が続いており、今後も市場規模の拡大が当面続くマーケットと言えるでしょう。

この記事では、シェアオフィス・コワーキングスペースの市場規模を人口動態などの各種統計から分析し、投資対象としてのシェアオフィスについて検証します。なお、シェアオフィス・コワーキングオフィス・レンタルオフィスなど、用途や事業者によって呼称が異なりますので、本記事では以下「フレキシブルオフィス」で統一して記載します。

人口減少下においても転入超過が続く大都市圏の人口動態

人口動態から考えるシェアオフィスの市場規模
(画像=RomixImage/stock.adobe.com)

人口減少下において、多くの自治体が転出超過(転入者よりも転出者が多い状態)となっている中、2020年の1年間で転入超過(転出者よりも転入者が多い状態)となったのは大都市圏を中心とした8都府県のみとなりました。

2019/20年転入超過数の比較(単位:人)

2019年 2020年
東京都 82,982 31,125
神奈川県 29,609 29,574
埼玉県 26,554 24,271
千葉県 9,538 14,273
大阪府 8,064 13,356
福岡県 2,925 6,782
滋賀県 1,079 28
沖縄県 695 1,685

参照:総務省「住民基本台帳人口移動報告 2020年結果」をもとに編集部作成

2019年・20年のいずれも東京を中心とした首都圏と大阪を中心とした近畿圏といった大都市圏が上位を占めています。しかし、2019年と20年で比較すると、東京都を中心とした首都圏は転入超過数が減少傾向にあり、大阪府や福岡県といった東京以外の都市圏で転入超過数が増加する傾向にあります。

これは、コロナ禍におけるテレワークの推進によって、居住地が職場の所在地に縛られることなく決められる人が増加したことで、生活環境や居住環境の良い場所を求めて移住する人が増加したことなどが背景にあると考えられます。

長らく東京への人口の一極集中が続いていましたが、コロナ禍をきっかけに人口の多拠点化が緩やかに進むことが考えられ、東京以外の都市圏においてもフレキシブルオフィスのニーズがさらに高まることが期待できます。

労働者人口の推移とフレキシブルオフィス市場の今後

次に、転入超過8都府県の中から東京・大阪・福岡の都市圏の労働者人口からフレキシブルオフィス市場の今後の展開を考えてみたいと思います。

東京・大阪・福岡の就業者人口

以下の表は、各都府県の就業者数と失業率の動向をまとめたものです。

2020年7月〜9月期の就業者数(単位:万人)

就業者数 前年同期比
東京都 802.2 99.62%
大阪府 458.0 98.54%
福岡県 258.5 100.15%
全国 6,733.5 99.05%

出典:総務省統計局「労働力調査結果」(総務省統計局)

2020年7月〜9月期は、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とした緊急事態宣言(2020年4月〜5月)が明けて最初の調査となりますが、東京・大阪ともに就業者人口が減少しているものの全国平均並を維持し、福岡県は就業者数が微増となりました。

転入超過の自治体においては、全国的に失業率が悪化する状況においても一定の就業者数を確保することができ、一定の労働力を確保しやすいと言えるでしょう。

ニューノーマルにおける暮らし方・働き方

コロナ禍によって生まれた「ニューノーマル」が新たな住み替えニーズを生み出し人口動態に影響を与えたように、働き方にもワークスタイルの多様化という形で影響を与えています。

ランサーズ株式会社が実施した「ランサーズ フリーランス実態調査(2020年度)」によれば、2015年から2020年の5年間でフリーランスは121万人増加し、2019年から2020年の1年間で新たにフリーランスとして活動を開始した人は、前年に比べて25万人増(8%増)となりました。

フリーランスの方は、自宅で作業をするという方も多いでしょうが、集中できない・家族が気になるなどの理由でフレキシブルオフィスを活用したいというニーズがさらに高まっています。

副業の解禁なども含めた働き方の多様化が進むと、働く場所の多様化も自ずと変わっていきますので、それぞれのニーズに合ったフレキシブルなオフィスが今後さらに増加するでしょう。

各都府県のフレキシブルオフィス数の推移

2020年に転入超過となった東京・大阪・福岡に所在するフレキシブルオフィスの数を見ていきます。

拠点数は東京が最多も、その他エリアも同程度の増加率

下の表は、東京都・大阪府・福岡県それぞれの2015年・2019年・2021年(3月24日時点)におけるフレキシブルオフィスの数をまとめたものです。

東京・大阪・福岡のフレキシブルオフィス数

2015年 2019年 2021年
(3月24日時点)
東京都 132 320 477
大阪府 32 81 137
福岡県 6 17 53

参照:(一社)大都市政策研究機構「日本のコワーキングスペースの現状と展開」をもとに編集部作成

三都府県で見ると、フレキシブルオフィスが圧倒的に多いのは東京となっていますが、東京・大阪は2015年から21年にかけてフレキシブルオフィスが3〜4倍、福岡においては約9倍となっており、需要が高いことが分かります。

まとめ

ここまで、大都市圏におけるシェアオフィスの市場規模を人口動態に関する各種統計から分析し、投資対象としてのシェアオフィスについて検証しました。

ポイントを以下にまとめます。

・2020年に転入超過となった都道府県は全国で8都府県のみで、上位は大都市圏が占める。しかし、コロナ禍によるライフスタイルの変化によって、首都圏への人口一極集中に変化の兆しも見てとれる

・コロナ禍で失業率が上昇傾向にある中でも、転入が超過している都市圏の就業者数は微減・横ばいにとどまっている

・働き方の多様化(起業・副業など)によって、フリーランス人口が増加しており、働く場所の多様化も今後さらに進むと考えられる

・フレキシブルオフィス数は、現状、東京一極集中となっているが、今後は人口・就業者数の増加が見込める都市圏においても需要が高まっていくと思われる

コロナ禍によって、人々の働き方や暮らし方に変化が生じてきており、フレキシブルオフィス市場に新たなビジネスチャンスが生じていることがお分かりいただけたかと思います。

その一方で、市場の黎明期ということもあって、ニーズの移り変わりが激しいことから常に情報収集を怠らずに企業やワーカーのトレンドを先読みしていく必要があります。加えて、エンドユーザーの動向だけでなく、フレキシブルオフィスの市況(エリアごとの利用者属性・賃料帯など)、競合オフィスの動向などマーケットを幅広く理解する必要があります。

昨今では、こういったフレキシブルオフィスの最新動向を解説する不動産会社主催のセミナーなども行われていますので、上手に利活用しながら理解を深めていくようにしましょう。

(提供:spacible