業績や成果主義など各企業の規定にもよりますが、多くの企業では年一回の定時昇給を採用しています。働き手にとって嬉しいはずの昇給です。ただし、報酬の増額は、社会保険料や税の負担に影響を与え、手取り額には反映されないケースも多くみられます。支給額から差し引かれる健康保険料や厚生年金の金額はどのように決められるのでしょうか。算出の基準となる「標準報酬月額」「等級」について解説します。
目次
給与明細を確認するクセをつけよう
企業にお勤めの会社員のみなさんは、給与支給日には「給与明細」を受け取ることでしょう。もしお手元にあれば、ぜひ給与明細を確認してみてください。一般的には、以下の項目が記載されているはずです。
- 【勤怠】出勤日数、欠勤日数、残業時間、有給取得日数(残日数)
- 【支給】基本給のほか残業手当や各種手当
- 【控除】健康保険料、介護保険料(40歳以上)、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税
- 【振込額】支給額-控除額
「支給額に対して控除額の多さに愕然とする」という声には共感するところですが、見るべきポイントはそれだけではありません。【支給】に含まれる家族手当や住宅手当など各種手当は、企業ごとに異なり、社員に対する慰労や経営者の想いが込められている部分でもあります。ほかに【控除】に含まれる社会保険料(健康保険や年金保険料)の負担額などは、ぜひ確認しておきたい部分です。
「Web明細のログインが面倒くさいので見ていない」「振込金額しか見ない」「銀行で残高を確認するのみ」という方も多いようですが、給与明細には知っておきたい情報が多く記載されていますので確認するようにしましょう。
社会保険の算定基準、「等級」「標準報酬月額」を知る
残業時間などにより月々の支給額は変動するのはご存知のとおりです。一方、社会保険料は事業主があらかじめ提出した届出書(算定基礎届)に基づき健康保険組合、日本年金機構(年金事務所)が決定します。
社会保険料の算定基準として対象になるのは、基本給・家族手当・職能手当・通勤手当・住宅手当など名称に関係なく継続して支給される「報酬」です。報酬とは、基本給だけでないことに注意が必要です。
この報酬をもとに、どのように保険料が決まるのでしょうか。カギとなるのは「標準報酬月額」と「等級」です。
「等級」による区分で社会保険料が決まる
社会保険料は、報酬の月額を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」によって「等級」が決まり、等級に応じて社会保険料の額が計算されます(下図参照)。賞与については、税引前の賞与総額から千円未満を切り捨てた標準賞与額から設定します。
健康保険と厚生年金では、等級の上限と下限が異なります。健康保険は1等級(5万8,000円)から50等級(139万円)までですが、厚生年金は1等級(8万8,000円)から32等級(65万円)に区分されています。なお、厚生年金は全国同額、健康保険は都道府県で保険料率が異なります。
▼東京都の健康保険・厚生年金保険の保険料額表(2021年3月分から)
等級を決める「標準報酬月額」の算定方法は?
標準報酬月額の算定方法には、主に次の3つがあります。
①定時決定
4月・5月・6月の3ヵ月における報酬の平均額(報酬月額)を報酬月額等級区分にあてはめて「標準報酬月額」を決定します。
上記の保険料額表は公表されている保険料です。実際は事業者の届け出の後、決定通知に金額が記載されています。健康保険料(40歳以上は介護保険料含む)と厚生年金保険料は、事業者と折半(2分の1ずつ)で負担し、その年の9月から翌年の8月まで支払います。
②随時改定
報酬の額が著しく変動したために、保険者が必要と認めた場合には、標準報酬月額の改定を行うことができます。
③入社(資格取得)時
新たに資格を取得した場合には、基本給に通勤手当などの手当を含めた総額を報酬月額として「資格取得届」を提出します。
事例で検証。等級が変わると何が変わる?
東京都に住むAさん(45歳)を例にみてみましょう。前年の4月~6月の平均額(報酬月額)が51万3,000円だった場合、48万5,000円~51万5,000円に該当するため、30等級(カッコ内は厚生年金の等級で27等級)、標準報酬月額は50万円です。
保険料額表を見ると、Aさんの介護保険含む「健康保険料」は負担額2万9,100円(30等級)、「厚生年金」は負担額4万5,750円(27等級)でした。いずれも9月から1年間の負担金額です。
このAさんが、4月の定時昇給により3,000円増額したとしましょう(手当等は変更なし)。
4月から6月までの報酬月額は51万6,000円となります。これによって、健康保険料・厚生年金でそれぞれ1等級上がり、標準報酬月額は53万円となります。等級が変わったために9月からの健康保険料(介護保険含む)は31等級で3万846円、厚生年金は28等級で4万8,495円となります。
つまり、3,000円の昇給により負担額は4,491円増加し、手取り額はマイナス1,491円です。
上記の図のとおり、標準報酬月額のベースとなる報酬月額には幅があるために前年度に該当等級の上限に近い金額であった場合には、僅かな昇給でも等級アップとなり負担額が増えることになります。一方で報酬月額区分のなかでの昇給であれば等級の変動なく負担額も変わりません。
パートでも社会保険の加入対象になる?
パートタイマーやアルバイトなど“短時間労働者”にあたる方が社会保険に加入する場合、標準報酬月額は、継続した3ヵ月(いずれの月においても報酬の支払基礎日数が17日以上必要)から算定します。加入対象となるのは「年収130万円」を超える短時間労働者、あるいは「年収106万円以上」かつ下記の5つの条件をすべて満たす方です。
▼年収106万円以上で社会保険の加入対象となる条件
①1週間あたりの労働時間が20時間以上
②1ヵ月あたりの決まった賃金が8万8,000円以上
③雇用期間の見込みが1年以上
④学生でないこと
⑤従業員数が501人以上の事業所(500人以下であっても労使合意があれば加入可)
社会保険料負担の対象者をわける106万円は「社会保険の壁」といわれています。社会保険の加入者となると、最低でも概算でひと月に1万3,000円※の社会保険料を負担することになります。
※内訳:厚生年金保険料8,052円、健康保険4,329円、介護保険料792円(協会けんぽ・東京・40歳以上)
⑤については、大企業以外に勤務する人は該当しないケースが多いでしょう。ただ、現時点では「従業員501人以上の事業所」という要件ですが、今後範囲が拡大されることもあり注意が必要です。
配偶者が短時間労働者である場合は、「働き方」をよく考える必要があります。もし配偶者が昇給して社会保険料の負担が生じた場合、手取り額が減るケースが起こりうるのはもちろん、世帯主の収入基準により配偶者特別控除の対象から外れてしまい、結果として所得控除額が減額するといった税金面での影響が考えられるからです。ちなみに、世帯主が配偶者特別控除を受けるには、配偶者である自身の年間の合計所得金額が「48万円超133万円以下」に収まっている必要があります。
一方で配偶者自身の老齢厚生年金の増額などメリットもありますので、長期的な観点で配偶者の働き方を考えたいものです。
社会保険料の負担額は、将来的には年金として還元される
昇給は嬉しいものの社会保険料の負担は、私たちの生活に重くのしかかります。子どもの成長に合わせて生活費や教育費が膨らみ続け、何のために働いているのか悩む時がかもしれません。
節約や節税、損得勘定も大切な考え方ではありますが、もしも悩んでしまうときは社会の一員として、できる社会貢献として負担すると発想転換をするのも有効ではないでしょうか。
また、等級があがることで「今」の負担は増えますが、現在のしくみや制度が継続したならば、「将来」受け取る年金額が増えることになります。なぜなら、老齢厚生年金の年金額における「報酬比例部分」は、被保険者期間の平均標準報酬額をベースに計算されるからです。
老齢基礎年金、厚生年金のメリットは「生涯年金」であることです。少しでも多くの年金を受け取り、将来にわたって豊かに暮らしていきたいものです。
老後を見据えて働き方を考えたい
社会保険の負担はマイナス面に捉えがちですが、負担額の増加は、老後の年金にプラスに働きます。自営業者など第1号被保険者は国民年金保険料(2020年度は1万6,540円)を負担し、不足分は別途準備する必要がありますが、会社員は厚生年金があることで老後を見据えた自助努力による資産形成の必要性が軽減されているわけです。
自分自身そして配偶者の「働き方」について考えるきっかけとなれば幸いです。(提供:JPRIME)
ゆめプランニング URL:https://fp-yumeplan.com/
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