ひとくちに奨学金といっても、給付型と貸与型の2種類があります。このうち「貸与型」の奨学金には返済の義務があります。

そのため、「社会人になってからも返済に四苦八苦している」「奨学金が残っていると結婚ができないかも……」など不安を持つ人もいるかもしれません。

そこで今回は、貸与型奨学金の返済に関する注意点や、効果的な返済モデルを紹介したいと思います。詳しく“知る”ことで、少しでも奨学金への不安を解消しましょう。

貸与型奨学金を利用する前に 知っておくべき2つのこと

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(画像=One/stock.adobe.com)

貸与型奨学金と聞くと、「借金なの?」とネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。

しかし経済的に余力がない家庭では、子どもが進学して適切な学びを得るためには必要な借入です。住宅ローンが自宅を手に入れるための借り入れで、それをネガティブに感じる人は少ないのと同じでしょう。

不安を払拭するためにも、貸与型奨学金に対する正しい知識をつけるようにしましょう。そこで貸与型奨学金を利用する前に知っておくべきことを2つ紹介します。

  1. 返済義務がある
  2. 返済が滞ると督促がくる

それぞれ詳しく解説します。

1.返済義務がある

繰り返しになりますが、貸与型奨学金には返済義務があります。借りたのはいいものの返済義務があることを知らず、返済を滞らせてしまっているという人もいるようです。

「返済しなければならないもの」としっかり認識した上で利用するようにしましょう。

貸与型奨学金には返済を延滞する人も多く、問題になっています。
例えば「独立行政法人日本学生支援機構」の平成29年度統計によると、返済を要する奨学金(貸与型)の回収額は87.7%。1割強が未回収、つまり延滞していることを意味します。しかもその総額は854億円(!)と、巨額の奨学金延滞が続いているのです。
出典:独立行政法人日本学生支援機構/返還金の回収状況及び平成29年度業務実績の評価について
加藤隆二(銀行員ライター・2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

2.返済が遅れると督促される

返済が遅れると督促されます。

例えば日本学生支援機構の場合、機構からだけではなく、委託を受けた債権回収会社からも連絡が来る場合があります。

聞いたことのない債権回収会社からの連絡だからと言って無視していると、督促がさらに厳しくなる可能性もあります。遅れがあるときなど心当たりがあれば、必ず奨学金の事業者に連絡をしてください。

また連帯保証人を立てて奨学金を借りていた場合は、保証人にも連絡がいきます。

日本学生支援機構の場合、奨学金の返済は月々指定した金融機関口座からの引き落としが一般的なので、引き落とし日前日までに口座に残高があるかどうかを把握しておきましょう。
また、返済の遅れ(延滞)は個人信用情報に登録されます。さらに延滞が長期化すると「異動」といって、個人信用情報にネガティブな記録がのこることになり、新しい借り入れやクレジットカードの申し込みで審査落ちになってしまうなど、今後の借入が制限される場合もあるので注意が必要です。
加藤隆二(銀行員ライター・2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

毎月いくらの返済で何年かかる?奨学金返済シミュレーション

奨学金を借りた場合、具体的な返済金額とスケジュールがどのようになるのか、知っておきましょう。日本学生支援機構による奨学金の例で考えてみます。

日本学生支援機構の貸与型奨学金には、借入利子の有無で次の2種類があります。

第一種奨学金 利子がつかない 成績の優れた学生や
経済状況が困難な学生が対象
第二種奨学金 利子がつく 広い範囲の学生が対象

日本学生支援機構で貸し出してくれるのは、国公立大学で200万~250万円程度、私立大学で250万〜300万円程度です。

この金額をそれぞれの奨学金で借りた場合、「どのくらいの金額」を「どのくらいの期間」で返済するのか、目安を示します。

【第一種奨学金(4年制)の場合】
・月に1万~1万5,000円程の返済額
・13~18年にわたって返済

【第二種奨学金(4年制)の場合】
・月に1万~3万程の返済額
・13~20年にわたって返済

第二種奨学金の場合は利子がつきます。利率は「固定方式」と「見直し方式」を選ぶことができ、変動しますが、0.5~3%の間で決まります。

月々の返済は第一種奨学金と変わらず1万~2万円であっても、利子がつくので完済までには15年〜20年かかる見込みとなります。40歳近くまで返済を続けるというのは、思った以上に長いのではないでしょうか。

親と子どもどちらが借り入れるべき?教育ローンと奨学金の違い

学費を用意するための方法は、「貸与型奨学金」以外に「教育ローン」があります。

では貸与型奨学金(子どもが奨学金を借り、子供が返済していく)と教育ローン(親が教育ローンで借り、親が返済していく場合)を比較すると、どちらがいいのでしょうか。

それぞれの特徴と違いを簡単に表にまとめてみました。

借り入れ先 借入上限金額 金利 返還年数
奨学金 日本学生支援機構 864万円 0.5~3% 13~20年
日本政策金融公庫 450万円 1.68% 15年以内
教育ローン JAバンク 1,000万円 2~3%
(地域によって異なる)
借入金額によって異なる
民間銀行 銀行によって異なる 2~4%ほど
(銀行によって異なる)
借入金額によって異なる
※日本学生支援機構は6年制

表のうち、「日本学生支援機構」のみ、子どもが借りることになりますが、「日本政策金融公庫」、「JAバンク」、「民間銀行」は親が借りることになります。

・子ども名義で借りるもの……日本学生支援機構
・親名義で借りるもの……日本政策金融公庫、JAバンク、民間銀行

親が借りることのできる教育ローンの金利は高めです。しかし「安定した収入」を前提に借り入れをするため、返済期間を短縮することもできるでしょう。その分、返済に大きな負担はかからないかもしれません。

一方で、子どもが奨学金を借りた場合、働き始めの収入は親に比べて少ないので最初は資金のやりくりに苦労するでしょう。しかし、子どもにとっては、お金に向き合ういい経験と捉えることもできます。

「子どもに金銭的な負担をかけずに他のことに集中してもらいたいのか」「子どもの自立心を育てたいのか」、こうした観点によって、どちらにするか決めるといいかもしれません。

奨学金の返済方法3つ

貸与型奨学金の返済方法は、ひとつではありません。地道にコツコツ返すこともできますが、資金に余裕があれば早く返済して完済時期を繰り上げることもできます。

特によく使われている返済方法を3つご紹介しましょう。

1.月賦返還

毎月固定の金額を返還する、奨学金返済の基本的な方法です。

日本学生支援機構の返済方法は、原則として口座からの引き落としのみです。1回目は貸与期間が終わった翌月から7ヵ月目の27日に引き落とされるので、3月卒業であればその年の10月から月々の引き落としがはじまります。

毎月27日には返済するだけの余裕が口座に残っているのを確認する必要がありますが、月々同じ金額が引き落とされるので、お金の計算や貯金の計画がしやすいでしょう。

2.月賦・半年賦を一緒に返還

毎月返済するのと半年分をまとめて返済するのを併用して返還する方法です。

通常どおり月々の返済はおこない、加えて半年ごとに半年分の金額を返済します。多少資金に余裕があるのであれば、この方法をとれば返還年数を縮めることができますし、利息も少なく済ませることができるでしょう。

3.繰上返還

貸与期間が終了した後、つまり卒業した後はいつでも繰り上げ返済できます。

今月分の支払いに翌月分の支払いを合わせて支払うことができますが、ひと月分先に支払っても翌月は同様に支払いがおこなわれるので注意しましょう。

しかし、繰り上げ返済をした分は利息がつかず、その分完済期日も早まるので、資金に余裕があるならばおすすめです。

貸与型奨学金は自分次第で早く返せる可能性もある

貸与型奨学金には返済の義務がありますが、民間の教育ローンなどと比べれば金利負担は軽く、自分のやりくり次第では早く返し終えることも可能です。返済が終わることを楽しみに、前向きに繰り上げ返済をするのも一つの考えです。

文・Saki Yamamoto(フリーライター)
商社や外資系企業に勤めながら、ライターとして活動をスタート。金融系・ビジネス系の記事を中心に幅広く執筆活動しています。「わからない人でもわかる」読者目線の記事を書くことを心がけています。

監修・加藤隆二(銀行員ライター)
地方銀行に30年間勤務する銀行員ライター。2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級、個人資産相談)、生保損保代理店資格、その他銀行業務検定資格複数保有。事業資金から、住宅ローンやカードローンなど借入全般の相談を数多く対応。返済が困難なお客様の、いろいろな相談を聞き、一緒に考え解決してきた一方、倒産、自己破産や一家離散、あるいはもっと不幸なケースにも関わって、お金の素晴らしさと怖さを、イヤと言うほど知っています。こうした経験を活かし、読者の役に立つ文章を書いていきたいと思います。