ナンバー2のポジションが力強くサポートしてくれると組織のリーダーは非常に心強い。会社経営も然り、適切な人物を副社長に就かせてその役割と権限を明確にすることで、円滑な組織運営が可能となる。
目次
「経営者の右腕」として副社長にどう活躍してもらうか
従来型の日本企業においても社長の右腕的なポジションは存在していた。会社の業務全般を監督する専務と、日常業務の執行を管理する常務だ。もっとも、多くの企業においてはそれぞれの役割があまり明確になっていないのが実情ではないだろうか?もともと、専務や常務は法律によって定義されている役職ではなく、むしろそれらを廃して副社長を据えて、ナンバー2のポストということを際立たせるほうがわかりやすいと言えそうだ。
また、最近導入している企業が増加している「チーフオフィサー制度」では副社長であるナンバー2の役割は主にCOOが担っている。COOは「Chief Operating Officer」の略で「最高執行責任者」という意味である。COOは組織内におけるナンバー2という立場が明確で、 CEOの強力なサポート役を果たす。例えば、CEOが経営方針の決定を行い、COOはCEOが決めた経営方針に沿って実際に業務を執行するといった具合に役割が明確になっている。
副社長の役割を明確にする
実際にナンバー2のポジションを設けている組織においても、その役割や権限が曖昧になっていると社長との連携がなかなかスムーズにいかない。ましてや、専務に常務・副社長の役職がすべて存在し、各自の責務が社内で周知されていないと、まさに「船頭多くして…」という諺のようになりかねない。前述した「チーフオフィサー制度」を導入する企業が増加しているのは、それぞれの役割や権限、責務を明確にしたいという意味があるのだ。
逆に言えば、その役割と権限がしっかりと定められているナンバー2を据えると、経営者の右腕として存分に力を発揮してもらえる可能性が高い。事実、ビジネスの歴史を振り返ってみても、ナンバー2が組織の飛躍を支えたケースが数多く見受けられる。
歴史が証明するナンバー2の重要性。旧財閥の隆盛は「大番頭」が支えた
幕末に英語のCompanyが「商社」と訳されたように、企業が営むビジネスは結局のところ商いであり、ビジネスパーソンとは商人であるとも言えよう。そして、江戸時代の商いにおいて大きな存在感を発揮したのが大番頭で、言わばCompanyのナンバー2という存在である。現に、江戸時代に勃興して近代化とともに繁栄を遂げた旧財閥においても、大番頭が優れた手腕を発揮していた。
三井財閥の大番頭の逸話
幕末から明治維新にかけて三井の大番頭として敏腕を振るったのが三野村利左衛門という人物である。浪人となった父と放浪生活を送るなど厳しい環境で育った利左衛門(当時の名は利八)江戸で奉公を始め、やがて商才が認められて小栗家(後に勘定奉行を務める上野介忠順を排出する旗本の名門)に召し抱えられた。
古くから豪商として名を馳せていた三井家だが、幕末には幕府から巨額の御用金(財政不足の補てん)を求められ、破産の危機に瀕していたという。しかしながら、資金提供を拒めば、財産没収の咎めを受けるのは必至で、困窮した三井家は小栗家で奉公する利左衛門に一縷の望みを託した。御用金の減額について、勘定奉行の上野介忠順と交渉してもらうよう依頼したのだ。すると、利左衛門は御用金拠出の免除を成し遂げたうえ、「江戸勘定所貸付金御用」という新たな業務まで受託し、三井家から絶大なる信頼を獲得。40代半ばにして破格の厚遇で三井家に迎えられることとなる。
三井両替店の番頭となった利左衛門彼は、明治新政府の中核を担っている長州の要人と太いパイプを築いで業務を受託するとともに、三井越後屋(三越)の分離・独立や銀行業への進出、商社(三井物産)の創設などの施策を次々に進めた。こうして、大番頭となった利左衛門が主導して三井財閥の基盤が固められていったわけである。
住友財閥の大番頭の逸話
一方、三井家のライバルであった住友家の飛躍も大番頭的な存在が牽引したと言えよう。明治時代に住友家の総理代人(当主に代わって事業を監督・遂行する役職)を務めた広瀬宰平がその人物で、全幅の信頼を得て範囲を限定されない無限の代理権を有していたという。
当時の住友家は愛媛県の別子銅山で棹銅(銅のインゴット)を生産し、幕府はそれをオランダや中国に輸出することで財政を賄っていた。広瀬はこうして国策を支える中で幕府の衰退をいち早く察知するとともに、大政奉還後に別子銅山の接収で赴いた土佐藩の要人に真っ向から抗議した。「別子銅山は幕府領とはなっているものの、住友家が発見して発展させてきたものであって、むやみに没収してノウハウのない事業者に運営を委ねてしまうことは生産性の悪化を招き、むしろ国益に反する行為である」といった趣旨の答弁を行ったのだ。土佐藩の要人は広瀬の主張に同意し、新政府から正式に別子銅山の継続経営が許可され、住友財閥が発展を遂げる原動力となった。
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経営者が副社長に与えるべき役割・権限とは?
社長や副社長といったポジションは、あくまで社内規定によって設けられている役職名で法的な定義はない。ただし、社長は会社法によって定められた代表取締役を務めるケースが多い。
そうなると、責務と権限が代表取締役社長に集中し、副社長の存在意義が曖昧になってしまうことも危惧される。そこで、副社長にも代表取締役を務めてもらうことも可能である。実際「代表取締役副社長」という肩書を持つビジネスパーソンは存在するし、会社として複数の人が代表権を持つことは法律的にも認められているので、代表取締役社長と代表取締役副社長がともに存在していても差し支えはない。こうした人事に伴って、副社長の責務と権限も明確にすることができる。
あるいは、代表取締役には就かずとも社内規定の改訂や組織のレポートラインを定め、トップに次ぐ責務と権限を副社長に与えるのも一考だろう。また、前述した「チーフオフィサー制度」を会社に取り入れてCOOとしての役割を担ってもらうことを検討してもいいかもしれない。旧住友財閥の総理代人のように、ナンバー2に厚い信頼を寄せて大きな権限を与えると、その人物のリーダーシップを導き出しやすい。
副社長に据えるべき人物は5つの資質に基づき選考する
副社長が組織のナンバー2として大いに存在感を発揮してくれれば、社長としては会社のマネジメントが随分と楽になるだろう。副社長がトップの理想と現場の業務の乖離を埋めるバランサーとしての役割を担って業務を推進できれば、社長はトップとしての手腕を発揮すべき場面に的を絞って全神経を集中させることができる。
とはいえ、その一方で素養のない人物に副社長を任せてしまうと、かえって会社の運営が迷走しかねない。そこで、ここでは副社長の適任者を選考するうえで決め手となってくる5つのポイントについて考えてみたい。
1. つねに根底にあるのはポジティブ思考
特にワンマンで強気の経営者に対しては、慎重なスタンスに徹するナンバー2が適任者であるように思われるが意外とそれは誤解かもしれない。社長が楽観論に終始している場合には悲観的なシナリオを提示する必要が生じるものの、あくまでその根底に存在すべきはポジティブ思考。社長と同じ方向を見据えながら、読み違えが生じた場合は新たな方策へと導いていくようなサポートが望ましい。
2. 誰に対しても冷静かつ客観的に評価
けっして主観的な見方はせず、つねに他者を冷静かつ客観的に評価できる人物であるからこそ、ナンバー2として全幅の信頼を寄せられる。また、自分自身に対しても客観的に評価でき、むやみに楽観・悲観しないことも重要であるだ。
3. 多様な意見に耳を傾け、対人受容力が高い
トップの意向や心情を察しつつ、同時に部下から発せられる様々な意見に対しても広く耳を傾ける姿勢がナンバー2には求められているだろう。社内の反対意見を押し切って豪腕を振るう必要に迫られるケースとも直面するのがトップの立場だが、そういった場面では副社長が緩衝材の役割を担うことになる。社内の異論を受容したうえで、あえてトップがそういった決断を下した経緯について代弁することも必要である。
4. 組織内に敵を作らず、誰とも等距離で接する
組織が大きくなればなるほど、派閥のようなものが生じがちになるが、経営サイドからすればこれほど厄介なものもないはずだ。ナンバー2に据える人物においても、特定のメンバーと親密であったり敵対したりせず、誰とでも等距離をも保っていることが重要だ。
5. 経営のトップに就く素養がある
社長の右腕と言えば、軍師や参謀をイメージしがちかもしれない。だが、最初からそういったポジションを求めている人物から発せられる言葉は助言の範疇にとどまり、経営者的な観点から一歩踏み込んで考えた見解ではないケースも多い。
だからこそ、経営のリーダーとしての素養がある人物をあえて副社長に据えるのが理想的だと言える。実際、超有望な新興企業の中には起業で成功を収めた人物を自社の経営陣に招き入れているケースも見受けられる。
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自分の後継者を見つける観点でナンバー2を選んで育成する
チームプレイのスポーツはもちろん、企業という組織においてもリーダーに次ぐナンバー2のポジションが果たす役割は極めて重要だ。優秀な人物をその立場に選ぶことが大前提だが、能力を十分に発揮してもらうにはその役割と権限を明確にすることも不可欠となる。
さらに、本編の終盤でも述べたようにナンバー2の適任者は優秀なリーダーにもなりうる人物だ。その意味では、スティーブ・ジョブズが現アップルのCEOを務めるティム・クックをかつてCOOに据えたように、自分の後継者となりうる人物をナンバー2に選んで育成していくという発想が求められるだろう。
文・大西洋平(ジャーナリスト)
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