ガーナにあるスラム街の貧困問題と環境問題をアートで解決しようと、廃棄物を使ったアート作品を発表し続けている長坂 真護氏。全国各地に専属ギャラリーを出店し、展示された作品が2000万円を超える価格で販売されるなど、アート業界のみならず各方面で注目を集めている。長坂氏の提唱する「サステイナブル・キャピタリズム」の意図や最近の活動内容について伺った。

長坂 真護 氏
長坂 真護 氏
MAGO CREATION(株)代表取締役美術家
サステイナブル・キャピタリズムを合い言葉にガーナのスラム街に先進国が投棄した、電子廃棄物を再利用し美術品を制作。2017年にガーナのアグボグロシー地区にあるスラム街に単身初渡航。世界中の電子機器のゴミが集まる最終墓場と称される地で、目の当たりにした惨状(深刻な電子機器のゴミ、環境悪化、健康被害、貧困)を何とかしたいと立ち上がり、アート製作の傍ら、ガスマスクを2020年までに累計で850個現地へ運び配布。自身で教師も雇いスラム街の子供たちが無償で通える学校を設立。2019年には、同スラム街に電子廃棄物美術館を開館。いずれこの地にリサイクル工場を建て、ゴミを資源にし、新たな産業を生み出そうという試みをしている。

持続可能な資本主義「サステイナブル・キャピタリズム」を提唱

「100億円集めて、スラム街を健全化したい」アートで世界の貧困問題を解決する起業家の野望
(画像=THE OWNER編集部)

――活動内容について教えてください。

長坂 電子機器廃棄物の世界最大の集積場であるガーナのアグボグブロシーで集めた廃棄物を使ってアートを作成し、ギャラリーや大手百貨店を通じて販売しています。それらの売上は、ガスマスクや教育施設としてガーナに還元しています。

――「サステイナブル・キャピタリズム」を掲げて活動しています。その概念をご説明ください。

長坂 「文化」「経済」「社会貢献」の3つの歯車が持続的に回る状態を指しています。僕が現地のゴミを使ってアートを作りますよね。そのアートが先進国で高額な値段で売れます。そこで得たお金を、スラム街で貧困問題解決のために投資しています。

この活動が広まって僕がもっと有名になれば、アート作品はもっと高く売れるようになり、スラム街のゴミは減って現地の人も地球も喜ぶ。作品の価値も上がるので所有者も喜ぶ。こんなふうに発展していくのが「サステイナブル・キャピタリズム」の考え方です。

この活動のそもそもの発端は、スラム街で圧倒的な貧困を目の当たりにしたことでした。問題を抜本的に解決しようかと考えたら、必要なのはお金でした。だから資本主義のレールの上にひとまず乗っかってお金を稼ぐ必要がある。お金を稼ぐためにはどうしようと考えた時に、今のような活動にたどり着きました。

「100億円集めて、スラム街を健全化したい」アートで世界の貧困問題を解決する起業家の野望
(画像=THE OWNER編集部/ガーナの電子機器廃棄物の集積場から持ってきた素材を手にする長坂氏)

――実際に作品はどれくらい売れているのでしょうか?

長坂 MAGO CREATION株式会社としてアート作品の販売を行っていますが、2017年に会社設立した当初の売上は500万円でした。2期目に1億円、3期目に1.5億円、そして4期目の2020年の売上は約3億円と、右肩上がりに伸びています。2020年だけで625点の作品を作りました。

アート界の常識を無視したら、絵が売れた

――専属ギャラリーの「MAGO GALLERY」も多数出店されていますね。

長坂 現在(取材時の2021年2月2日時点で)、国内に5店出していますが、今後も青山、横浜、香港、ニューヨークなど、2021年には10店ほどまで出店する計画です。

MAGO GALLERYは直営ではなく「ボランタリーチェーン」という形態をとっています。フランチャイズチェーンとは違い、各店舗のオーナーが独自性を出して運営するかたちです。自由に運営してもらい、売上はオーナーと折半。在庫のアートは買ってもらうのではなく消化仕入れ、つまり売れた分の金額だけ支払ってもらう仕組みです。

このような面白い仕組みですから、オーナーは頑張って売ってくれます。例えば百貨店に営業に行き、展示会の開催を決めてきてくれたりもします。オーナーは画廊を運営している美術界の人ではなく、異業種の人ばかりです。ビジネスとしても魅力的だからこそ協力してくれるのだと思います。

――美術界においては珍しい仕組みなのでしょうか。

長坂 そうですね。いわゆる画商が運営するギャラリーで絵を売ろうとすると、作家よりも画廊の方に多くの収益が入ることが多いです。新たな仕組みを作りたいと思い、自分でボランタリーチェーンを募集したら、やりたいという人がたくさん手を挙げてくれました。

こんな非常識なやり方で、当初は「アート界から干されるよ」「百貨店に呼ばれなくなるよ」と心配してくれる人もいました。でも、全然気にしません。マーケットを自分で作った方が楽しいですからね。

それで実際にどうなったか。絵は売れるし、百貨店からは次々に呼ばれる。2020年10月は、阪急うめだ本店にて約700平米のスペースで個展を開催し、2万人が来場してくれました。今後もコンスタン

「100億円集めて、スラム街を健全化したい」アートで世界の貧困問題を解決する起業家の野望
(画像=THE OWNER編集部/アトリエには数々の異なるテーマの作品が並ぶ)

――なぜ百貨店は長坂さんの作品に注目するのでしょうか。

長坂 百貨店は文化の担い手としてアーティストを支援する役割を持つ一方、商売ですから儲ける必要もあります。また、SDGsなどのトレンドも押さえなければならない。そんなニーズに応えつつ、1000平米の巨大な催事場を使って人を呼べるコンテンツは、まだ他にないんです。唯一無二のことをやっているから、僕みたいな新人作家でも百貨店に呼んでいただく機会を得られています。

アートは1000年後でも残る。だから尊い

――長坂さんの作品はなぜ高額で売れるのでしょうか?

長坂 スラム街のゴミには負のエネルギーが溜まっていて、先進国に持ってきた時に正のエネルギーに変換されます。負のエネルギーが大きければ大きいほど、先進国では作品は高く売れます。経済格差と時間を利用して作品にレバレッジをかけているから高く売れるわけです。

僕の作品をガーナで売ったら5000円くらいかもしれません。あるいは日本のゴミで作って日本で売ったら、せいぜい200万円くらいでしょう。でもガーナのスラム街のゴミで作り先進国で売ることで、2000万円の価値が付きます。これがレバレッジをかけるということです。

先日は『真実の泉Ⅱ』という大きな作品を2,200万円で買ってくれた方がいました。その方は後日、「自分が持っているのはもったいない。無料で貸すのでどこかに展示してください」と申し出てくださいました。だからギャラリーなどで展示させてもらう予定です。

「100億円集めて、スラム街を健全化したい」アートで世界の貧困問題を解決する起業家の野望
(画像=THE OWNER編集部/2,200万円で売れた長坂氏の作品『真実の泉Ⅱ』)

――ご自分の報酬をオープンにされていますね。

長坂 売上の5%が僕の報酬です。去年は売上3億円だから今年の報酬は1,500万円。どうして5%かというと、ボランタリーチェーンとMAGO CREATIONで売上を折半して、そのうち僕自身の技術で稼いでいるのは10分の1くらいと考えるからです。

僕は自分の技術だけでなく、ガーナのスラム街に稼がせてもらっているから、5%以上の報酬は受け取りません。そして残りのお金は全部ガーナのために突っ込んでいます。

脱アートもビジネスも次々と

――長坂さんにとってアートの魅力は何でしょうか。

長坂 作家が死んだ後も残り続けることです。人間はもちろん会社だって、100年生き残ることは難しい。でもアートは千年後にも残ります。レオナルド・ダ・ビンチの500年前の絵だって、今も輝いていますよね。アートは生き続けるんです。

書物を残したとしても、それは文字情報が残されているだけ。音楽家だって残せるのは楽譜と録音した音声だけ。それに対して絵画などのアートは、作家の肉筆がそのまま残ります。それがすごいところ。そういう意味ではゴミを利用したアートって好都合なんですよ。プラスチックは劣化しにくく保存性が高いですからね。

千年後に僕のアートは、「ゴミを処理できなかった恥ずかしい時代の象徴」として美術館などに展示されるはずです。そんな未来を想像するとワクワクします。だからアートはやめられない。これ以上に自分の魂を代弁できるツールはないと思います。

――長坂さんのビジネスを継続させるには、作品を作り続ける必要がありますね。

長坂 そうですね。今のところこのビジネスは僕が死んだら終わりです。だからMAGO CREATIONの会社としての価値は低いと思います。ただ最近では、スラム街で地元の人にアート制作を教え、その作品を先進国で販売することも行っており、徐々に僕以外のアーティストも育っています。彼らは僕も敵わない、本当にすごい絵を描きます。今後は彼らがどんどん成長してくれることを願っています。

また一方で、脱アート依存として新しいビジネスの立ち上げを準備しています。発表前なので詳しいことは言えませんが、廃プラスチックを使った新しいビジネスです。アニメやSDGsコンサルなどの事業も検討しています。

最終的には、100億円集めてガーナにリサイクル工場を建設します。そして3万人が住む街に、健康で健全な雇用をたくさん生みます。そんなふうにスラムでお金を使うことが僕にとっての贅沢でありモチベーションです。

「100億円集めて、スラム街を健全化したい」アートで世界の貧困問題を解決する起業家の野望
(画像=THE OWNER編集部/アトリエにある長坂氏の作品)

(提供:THE OWNER