ある不動産一括査定サイトを運営する企業が、「不動産を売却した際に後悔したことは?」というテーマでアンケートをとっていました。宅建士として日々、仲介業務にいそしむ立場から見てもなかなか興味深い結果が出ていました。

ただ、この調査結果を見ていると、不動産売却をした人を後悔させることになった諸悪の根源はやはり「アレ」だと結論付けざるをえませんでした。REDS「不動産のリアル」のみなさまにはぜひ、後悔のない売却活動をしていただきたく、「アレ」とは何かを解説してみたいと思います。

目次

  1. スケジュールで後悔した人が最多
  2. 後悔は不満の表れ。何が不満なのか?
  3. あれ? 一括査定サイトは、高く売るための方法と広告しているのに?
  4. 「一括査定サイト」は不動産を早く・高く売る魔法のランプ?
  5. 不動産一括査定サイトの不都合な真実
  6. 適正価格の意味を知れば「後悔は無意味」と分かる

スケジュールで後悔した人が最多

不動産売却で後悔しないために、アレだけは使ってはならない
(写真はイメージです)

調査は過去に不動産を売却したユーザー男女100名にネット上で行ったアンケートです。

「不動産売却で後悔したこと」の1~3位は以下のようになっていました。

1位:余裕のある売却スケジュールを立てなかったこと
2位:売出価格を低めに設定してしまったこと
3位:念入りな情報収集を怠ったこと

こうした後悔は、どういったことが原因だと考えられるのでしょう。

後悔は不満の表れ。何が不満なのか?

売却の際にもう少し余裕をもてばよかった、売出価格を低めに設定しすぎた、念入りに情報収集を事前にするべきだったなど、多くの人が売却時に後悔しています。こうした後悔は、どれもこれも「ちゃんと準備すればもう少し高く売れたかもしれない」という後悔だといえるでしょう。

「余裕がなく急いで売ってしまった」という後悔は、「余裕があればもう少し高く売れたのではないか」という不満の裏返しです。同様に、「売り出し価格を低めに設定した」という後悔は、「もっと高めに売り出せばもう少し高く売れたかもしれない」という不満、「情報収集を怠った」という後悔は、「もっと勉強してから売ればもう少し高く売れたのではないか」という不満の表れといえます。

要するに「もう少し高く売れたのではないか」という不満を持っており、それがいろいろな後悔として心に残っている、といえるのです。

多くの一般の方にとって、土地・建物といった不動産の売却は一生に何度も繰り返すものではありません。経験のないままに売却をしてしまった人が圧倒的に多いことでしょう。ましてや不動産は同じものは二つとありません。不動産の売却をした人がその経験を生かして、もう一度同じ不動産を売却する機会に恵まれることなど起こり得ないでしょう。二度とやり直せないがゆえに、もう少し高く売れたのではないか、という後悔は永遠に残ってしまうのかもしれません。

あれ? 一括査定サイトは、高く売るための方法と広告しているのに?

でも、ちょっと待ってください。なんだかおかしくありませんか? アンケートを取った会社は不動産価格査定一括サイトを運営していて、ユーザーが後悔している内容が「もっと高く売却できたかのもしれない」ですよね。一括査定サイトの多くが「高く売るために」「もっと高く売れる」と広告しているのに。看板に偽りあり、ってことなのでしょうか。

ほかの一括査定サイトでも、不動産を高く売る方法として一括査定を推奨しています。「『高く』『早く』売ってくれる不動産会社が見つかる」「査定額を比較するから高く売れる」……。キャッチコピーはさまざまですね。

その言葉どおりならば、一括査定サイトを利用すれば、高く売ってくれる不動産会社が見つかり、後悔なんてするはずがないのに、なぜ利用した方は「もっと高く売れたかもしれない」という不満を抱えてしまうのでしょうか? 答えは簡単です。一括査定サイトを利用したからといって、不動産が高く売れるわけがないからです。

「一括査定サイト」は不動産を早く・高く売る魔法のランプ?

一括査定サイトは、不動産の売却を検討する人にとっては確かに便利なサービスです。一般の人々にとって不動産の販売が一生に何度もあるわけではない、ということは、不動産会社と良好な信頼関係を築いている一般の人々などほとんどいないわけです。ただでさえ地上げだ、地面師だ、とあまりいい印象のない不動産業界です。どこに相談していいのか途方に暮れてしまうのも仕方がありません。そんな時に、不動産会社を紹介してくれるだけでも一括査定サイトの価値はあるといえます。

また、ネットから簡単な入力をすれば、無料で複数の不動産会社から不動産の査定額を短時間で連絡してもらえて、一番高い不動産会社を選べる、というのは、不動産の相場を詳しく知らない一般の方には魅力でしょう。みすみす安い価格で販売してしまうことがなくて、安心なように思えます。

多くの一括査定サイトも「複数査定から一番高い査定を選べる」ことを「早く」「高く」売れるポイントとしてアピールしています。しかも「無料」です。まるで魔法のランプのように、一括査定サイトを利用しさえすれば、不動産を早く高く売れる、と思わせてくれます。

もちろん世の中には、そんなに簡単なことはあまりないのですけどね。

不動産一括査定サイトの不都合な真実

不動産の価格査定は、一括査定サイトでなく普通に不動産会社に頼んでも無料です。不動産会社の売買の仲介にかかる手数料は契約締結となったときに支払われる成功報酬である、と宅地建物取引業法で定められています。また査定は合理的な根拠を提示するよう法律で定められています。したがって、査定や物件調査について、不動産会社は、媒介契約が締結されない限り無料で実施しなければいけないのです。

また、査定価格とはあくまで、「その不動産会社が一般的に販売できるであろうと予測する価格」であって、「買取価格」でも「販売保証価格」でもありません。もし査定価格で販売できなかったとしても、不動産会社にはなんの責任も発生しないのが一般的です。

査定価格は、そもそも合理的な根拠を提示しなければならないので、本来はどのような不動産会社が査定しようとも、経験や考え方の差はあれど、おおよそ合理的な価格の範囲に収れんするのが普通です。極端に他の会社に比べて高い査定価格は、極端に安い価格と同様に、疑ってかかったほうがいいでしょう。

さらに査定サイトは不動産会社が運営しているわけではなく、不動産会社が利用料を支払うことで成り立つ広告会社が運営しているのです。不動産会社は利用客を紹介されるたびに1万~2万円程度の紹介料を支払っています。

査定を依頼する客は、当然キャッチコピーの通り、複数の査定を見て一番高い査定の会社が一番高く売却してくれるだろうと期待して、その会社に売却を依頼することになります。対応をする不動産会社が全て誠実に査定をすれば、そうした期待が報われることになります。

一括査定サイトを利用する不動産会社は、競合他社がいることは分かっています。安い査定価格を出していては販売の依頼を勝ち取ることはできません。売主はみな、1円でも高く売りたいわけですから。そして、どれだけ誠実な価格査定をしたところで、販売の依頼を勝ち取らなければ、仲介手数料はおろか、投入した広告費を回収することすらできないのです。

幸いなことに高い査定価格を提示し、その価格どおりに売れなかったとしても責任は問われません。さて、そこでは何が起こるでしょうか?

そうです。売却を任せてもらいたいがために、本当は売れそうもない相場よりも高い査定価格を出す不動産会社が出てくるのです。

そうした無理な(というかウソだらけの)査定価格を出した不動産会社でも、依頼者にとっては一番高い査定価格を出してくれた良心的な不動産会社に思えてしまいます。私のために努力してこんな高い価格で売ってくれるのだと。きっと資本力も営業ノウハウも販売ルートも確かな会社なのだろうと。

しかし現実には不動産は相場というものがありますから、ぶっ飛んだ価格では売却は進むわけがありません。長い間売れずに不動産会社から値下げを提案されたり、つるんでいる買い取り業者に安く買いたたかれたりすることが多くなります。そういう経験をした人が「やり方を間違えなければもっと高く売れたのではないか」という後悔を生むことになるわけです。

私は、このアンケート結果を見て、「こんなに後悔にさいなまれる人たちがいるのだな、そして本当の理由にまだ気づけてないのだな」と嘆息してしまいました。

適正価格の意味を知れば「後悔は無意味」と分かる

不動産は相場商品です。その地域や物件の特性、市場の需要と供給量、金融情勢などさまざまな要因から価格動向が決まっていきます。なので、そもそも「もっと高く売れたのではないか」と考えること自体がナンセンスなのだと思います。

本来的に合理的な査定を実施して算出された価格には大きな違いなど起こり得ません。そこから多少の振れ幅を想定して売り出しを始め、反響を見ながら価格を決定していくわけですから、そこで売主と買主が合意できる価格があれば、それがその時点における適正価格と割り切るしかないのでしょう。

そうした割り切りができれば、たとえ一括査定サイトの査定価格でも、依頼を取るためだけの不自然な査定価格を見抜くこともできるでしょうし、上手にサイトや不動産会社を活用することも可能になることでしょう。

もっと高く売れたのではないか、という考えに囚われるのは「百害あって一利なし」、後悔は無意味なのです。

プロフィール


早坂 龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング代表取締役。北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。