株式投資ではさまざまな指標を見て、銘柄選定をしたり売買のタイミングを判断したりします。その際に重要になる指標の1つに、「時価総額」があります。時価総額を株式投資に活用すると、投資家にどういった利益があるのか、時価総額の計算方法なども合わせて紹介します。
目次
時価総額とは?時価総額の計算方法について
時価総額とはそもそもどういった指標なのでしょうか。まず時価総額に関する基本知識から、計算方法までを紹介します。
時価総額は「株価×発行済み株式数」で計算
時価総額とは漢字のまま読み解くと、「そのときの価格の合計額」です。株式における時価総額は、株価×発行済み株式数で計算されます。いたってシンプルな計算式なので、株式投資初心者でも計算しやすく、投資判断に用いやすいでしょう。
時価総額で企業規模の大きさがわかる
企業の株価と、その企業が発行している株式数を使って計算するので、時価総額を見ればその企業規模の大きさがわかります。また、日々刻々と変化している株価を計算に使っているので、企業規模の大きさだけでなく株式市場における企業価値も判断できるでしょう。
株価は投資家の需給によって変化します。そのため、企業に投資するメリットがあれば株式が買われて株価は上がり、マイナス面があれば株式が売られて株価は下がる仕組みです。つまり、同じ銘柄の時価総額を日々チェックするだけでも、市場でその企業がどのように判断されているのかが確認できます。
株価が順調に上がり、発行済み株式数が多い企業はどんどん時価総額が大きくなります。つまり時価総額が大きければ、市場の信用度が高く投資家に人気の企業とも読み解けるでしょう。
同じ業界内の企業の時価総額を比べることで、それぞれの企業価値の目安がわかります。例えば、株価だけ見ると、A社のほうが高くB社が低いとしても、B社の発行済み株式数が多ければA社の時価総額を上回る可能性があります。株価だけを見て企業規模を考えるのは難しいので、時価総額で比較することも大切です。時価総額は、国内企業を比べるだけでなく、海外の企業と日本の企業規模を比べる際にも利用できます。
さらに、時価総額が大きいということは、発行済み株式数が多いという可能性もあります。発行済み株式数が多ければ、株主になれる人が多くなるので企業としては資金調達がしやすくなります。株主が多ければ、株式の売買も頻繁に行われる可能性があるので、株主が流動的になり企業買収されにくくなるという傾向もあります。
証券取引所全体の動きを知るためにも時価総額が使われる
ここまで紹介したのは、各企業の個別銘柄についてですが、証券取引所の規模を時価総額で比べる場合もあるので知っておきましょう。例えば、東京証券取引所市場第1部や市場第2部の時価総額は、日本取引所グループの公式ホームページなどから確認できます。
一般的には、上場企業の時価総額を合計していますが、なかには発行株式数と上場株式数が異なる企業もあるため、株価と上場株式数をかけることで算出する場合もあります。市場の時価総額の変化をみることで、日本経済の大きな流れを読み解くこともできます。
TOPIXは浮動株で計算されている
市場全体の大きさや変化を知る手がかりとなる指数がTOPIX(東証株価指数)です。よくニュースの最後のほうで日経平均株価と一緒に紹介されます。日経平均株価とは、日本経済新聞社が発表している株価指数で、東証1部に上場している株式のうち代表的な225銘柄を使って平均株価を算出したものです。
一方、TOPIXとは「Tokyo Stock Price Index」のことで、東証1部に上場している普通株式の時価総額加重平均型株式指数をいいます。TOPIXの算出に使われる株式は、市場に流通している株式のうち「浮動株」が対象です。浮動株とは、特定の安定した株主に保有されず、市場に流通しやすい株式のことです。
浮動株と対比されるものが「特定株」や「固定株」と呼ばれるもので、発行済み株式数にカウントされます。特定株や固定株は、創業者一族や企業の役員など大株主が保有しているものなので、市場には流通しにくくTOPIXの算出には使われないのが特徴です。
TOPIXは東証一部全銘柄が対象なので市場全体の動きがわかりやすい
TOPIXは、1968年1月4日の時価総額を100と表現し、東京証券取引所が公表しています。日経平均株価と比べると、東証1部の全部の銘柄を計算対象にしているため、市場の変化がわかりやすいでしょう。しかし、全銘柄が対象なので、時価総額の大きい株式に大きな変化があった場合に、その影響を受けやすい特徴もあります。
時価総額の数値感を身につけよう
時価総額を知れば、企業や市場の規模や価値がわかりますが、ある程度の数値感を身につけていなければ、その数値が大きいのか小さいのか判断できないでしょう。そこでここでは、時価総額の数値感を身につけるために、実際の東証1部全体の時価総額の規模や時価総額上位銘柄にはどういったものがあるのか紹介してきます。
東証1部、2部全体の時価総額の規模
下表が東証1部と2部の時価総額、上場銘柄数の比較です。
▽東証1部、2部時価総額・上場銘柄数比較
市場名 | 時価総額 | 上場銘柄数 |
市場第1部 | 約650兆6,162億円 | 2,176 |
市場第2部 | 約6兆7,675億円 | 481 |
※本記事の情報は2020年11月16日12:00時点のものです。実際の投資にかかわるテーマや銘柄検討においては最新の情報をご確認ください。
東証1部の時価総額と2部の時価総額を比べただけでも、1部の市場規模の大きさがわかることでしょう。また、「いまの日経平均で、東証1部ではこのくらいの時価総額があった」などと、数値の基準が自分のなかにできれば、市場の変化が起きたときにどのくらい増減したのかわかりやすくなります。
時価総額は日々変化するものなので、数値感を身につけるためにも、株式投資初心者は毎日記録をとったり、インターネットで確認したりするのがおすすめです。
国内の東証1部、時価総額上位銘柄10社を紹介
次に東証1部の時価総額上位銘柄10社をピックアップしました。株式の時価総額上位銘柄や株価など、株式にまつわる一般的な情報は、インターネットで検索すれば簡単に見つかります。どういった銘柄が上位を占めているのか確認してみるといいでしょう。
▽東証1部時価総額トップ10
順位 | 銘柄名(銘柄コード) | 時価総額 |
1 | トヨタ自動車株式会社(7203) | 約24兆3,876億円 |
2 | ソフトバンクグループ株式会社(9984) | 約14兆1,877億円 |
3 | 株式会社キーエンス(6861) | 約12兆9,046億円 |
4 | 株式会社NTTドコモ(9437) | 約12兆5,722億円 |
5 | ソニー株式会社(6758) | 約11兆9,687億円 |
6 | 日本電信電話株式会社(9432) | 約9兆6,837億円 |
7 | 株式会社ファーストリテイリング(9983) | 約9兆1,191億円 |
8 | 株式会社リクルートホールディングス(6098) | 約7兆9,540億円 |
9 | 中外製薬株式会社(4519) | 約7兆7,690億円 |
10 | 第一三共株式会社(4568) | 約7兆4,552億円 |
※本記事の情報は2020年11月16日17:40時点のものです。実際の投資にかかわるテーマや銘柄検討においては最新の情報をご確認ください。
時価総額上位銘柄を確認すると、どれも知名度が高く誰もが知っているような企業ばかりです。時価総額が大きくなると、信用度も知名度も高い企業に成長できることがわかるでしょう。
マザーズ銘柄の時価総額上位10社
次に、マザーズ銘柄の時価総額上位10社を紹介します。その前に、マザーズとはどういうものなのか特徴を押さえておきましょう。マザーズとは、東京証券取引所が設けている今後の成長が見込める新興企業を対象にした市場です。
正式名称は東証マザーズで、1999年に開設。「Market Of The High-growth and EmeRging Stocks」の頭文字をとってマザーズと呼ばれます。マザーズでは、成長企業の資金調達に重きを置いているため、マザーズに上場する企業には規模や業種などの制限を設けていません。高い成長性が期待できるかが上場申請のポイントです。
マザーズに上場した企業の多くがその後、東証1部に上場しているので、今後の成長を期待して投資するのもよいでしょう。東証マザーズにおいてTOPIXのような役割を担うのが、東証マザーズ指数です。マザーズ市場に上場している国内株式を対象にした、時価総額加重平均指数となっています。
新興企業ばかりなので株価の変動が大きく、日経平均株価と比べると、東証マザーズ指数は比較的変動率が大きいのが特徴です。新興市場は東証マザーズ以外にも、東京証券取引所のJASDAQ(ジャスダック)、札幌証券取引所のアンビシャス、名古屋証券取引所のセントレックス、福岡証券取引所のQ-ボードなどがあります。
▽東証マザーズ時価総額トップ10
順位 | 銘柄名(銘柄コード) | 時価総額 |
1 | 株式会社メルカリ(4385) | 約6,874億円 |
2 | 株式会社ラクス(3923) | 約4,245億円 |
3 | フリー株式会社(4478) | 約3,955億円 |
4 | AI inside株式会社(4488) | 約3,507億円 |
5 | 株式会社JMDC(4483) | 約2,747億円 |
6 | 弁護士ドットコム株式会社(6027) | 約2,736億円 |
7 | BASE株式会社(4477) | 約2,381億円 |
8 | 株式会社マネーフォワード(3994) | 約2,255億円 |
9 | Sansan株式会社(4443) | 約2,042億円 |
10 | アンジェス株式会社(4480) | 約1,849億円 |
※本記事の情報は2020年11月16日17:40時点のものです。実際の投資にかかわるテーマや銘柄検討においては最新の情報をご確認ください。
マザーズ銘柄の時価総額上位10社を紹介しましたが、上位銘柄になると新興企業であっても知名度の高い企業もあります。ただ、時価総額を東証1部上位銘柄と比べると、規模には大きな差があり、その違いに驚くでしょう。
投資家目線から時価総額をより知ろう
最後に、株式投資で時価総額を判断材料にいれるとどんな効果が期待できるか紹介しましょう。また、時価総額ばかり見ていては、企業を正しく判断することはできません。時価総額を判断材料にいれる場合の注意点なども紹介します。
投資のプロには「時価総額を最初に見て、最後に時価総額を見る」人が多い
長年、株式投資をしている人のなかには「時価総額を最初に見て、最後に時価総額を見る」といった人も多いようです。
時価総額を最初に見ることで、どの株式に投資しようかと、銘柄をいくつか絞り込むきっかけになるでしょう。次に、絞り込んだ銘柄を株価やさまざまな指標を活用して、「投資に向いている銘柄なのか」「売買のタイミングはいつなのか」を考えていきます。そして最終的に、選定に迷ったときや確認のときに、時価総額の確認にいきつくといったものです。
時価総額は、株式投資初心者向けの基本的な指標ではあるものの、投資のプロもチェックする指標ともいえます。
さらに1歩踏み込んだ情報収集を
時価総額の数値を探すのはとても簡単です。Yahoo!ファイナンスや各証券会社の株価検索機能を活用すれば見つけられます。しかし、時価総額だけを見て投資判断するのはおすすめできません。
例えば、時価総額が大きくなっている企業があったとします。過去のデータと比べても時価総額が増えているため、成長しているのだと考える人もいるかもしれませんが、新株が発行されている可能性も考えなければなりません。じつは株式には普通株式や優先株式、劣後株式などいくつかの種類があります。
優先株は普通株式に比べて配当を優先的に受け取れ、万一企業が破綻した場合は優先的に残余財産を受け取れる権利を持っています。その反面、議決権に一定の制限がかけられていたりします。そのため、一定の利益を確保できますが、優先株は流動性が低いため値上がり益を狙いにくいのが特徴です。
自己資本比率をアップさせるために優先株を発行している可能性があるので、一見すると企業価値が上がっているように見えるでしょう。この状態で普通株式を購入してしまうと、見せかけで引き上げられた株価で購入してしまう可能性があるので注意してください。
一方の劣後株式は、普通株式よりも条件が劣る株式です。一般投資家にメリットがないので、主に経営者などに発行されます。既存の株主への利益を薄める効果がないので、基本的に一般投資家は気にしなくてもよいでしょう。
一般的な投資家が購入しているものは普通株式ですが、新規に株式を発行した場合は、その株式も発行済み株式数に加えないと正確な比較はできません。また増資による新株発行があった場合、発行済み株式数が増えるために1株あたりの価値は下がります。これを株式の希薄化といい、企業の株価は一時的に下がるのが一般的です。
ただ、増資がプラス要因となれば株価も上昇するので、どういった目的での発行なのかを判断する必要があります。増資の手続きは証券会社でおこなわれるので、詳細情報は目論見書と呼ばれる新株発行にまつわる説明書に記載されています。こちらを確認することで、株式の希薄化で一時的な下げがあったとしても中長期に見れば意味のある増資なのかが判断できるでしょう。
このように、時価総額だけでなくそのほかの要因を探るための情報収集が、株式投資には欠かせないのです。これらの株式投資に必要な情報は、有価証券報告書やニュースサイト、新聞などで発表されるので要チェックです。
「時価総額と企業価値」は異なる?
時価総額で企業規模の大きさや信用度、人気度合いなどをざっくり把握することは可能でしょう。しかし時価総額はあくまで価格であることを忘れてはいけません。
時価総額だけを見て、その企業に眠っている成長性や保有する資産価値に気づかなければ、投資のタイミングを失ってしまいます。時価総額は1つの判断材料として活用し、さまざまな方面から銘柄選定をしましょう。
時価総額とあわせて銘柄選定に使える指標「PER」
購入予定の株式が割安かどうか見る指標がPER(株価収益率)です。株式時価総額と純利益を使って算出するので、時価総額を確認したときにいっしょにチェックしてほしい指標です。
PERの計算式は、時価総額÷純利益または、株価÷1株あたりの利益(EPS)です。計算式を知っておけば、PERから時価総額を算出したり、手元にある数値で必要な情報を導きだすことができるので、銘柄選定や目標株価を決めるのに役立つでしょう。
PERの数値が低ければ株価は割安、高ければ割高と判断しますが、基準となる決まった数値はありません。業種内でPERの水準を確認して、比べるのが一般的です。
時価総額を深く知ることで見えてくること
時価総額を見て株式を分析する力がつけば、「これくらいの規模の業種で、これだけの利益があれば株価の適正水準はこのくらいだろう」と判断できるようになるかもしれません。
また、時価総額と銘柄選定に使える指標を活用することで、「株価はこのあたりまで上がるだろうから、売却のタイミングは株価が〇円になったときにしよう」などと予測ができるようになります。時価総額を深く知れば、自分なりの成長株を見つける見立てがつけられるようになるかもしれません。
時価総額は投資に役立つ重要指標となり得る
時価総額の計算方法を知れば、投資対象の企業規模がわかります。また、銘柄選定に使える指標と合わせて考えれば、今後の株価の分析ができるようになるでしょう。そのためには、正しく企業価値を見極める必要があるので、さまざまな指標と合わせて総合的に考えなければなりません。
そういったときに便利なのが、ネット証券の分析ツールです。各証券会社のホームページで、一般的な情報収集はできますが、口座開設して専用画面にログインすることでさらに詳しく分析できるようになります。そのため、ネット証券の口座を何社か持っておくと便利でしょう。
SBI証券や楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券、松井証券などの大手ネット証券では、銘柄選定に必要な情報をスクリーニングしやすくなっています。ぜひ活用して、投資に役立ててみてください。
文・山村 望愛
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