証券取引所が動いていない時間帯であっても株式取引ができることをご存じでしょうか。東証の場合、開場時間は9時から11時30分、そして12時30分から15時です。これはつまり、15時をすぎるとその日の株式取引はすべて終了となるわけですが、15時以降も株式取引ができる市場があります。それが、PTSです。

PTSは取引時間がとても長く、深夜でも取引ができるなど多くのメリットがあります。当記事ではPTSについて、実際に取り扱いのある証券会社の取引時間をはじめ、さまざまなメリットについて解説します。

目次

  1. PTS取引とは?
  2. PTS取引のメリット、デメリット
  3. PTS取引ができる証券会社は3社
  4. ネット証券3社のPTS取引の手数料は?
  5. まとめ:リスク分散の観点からもPTSでの取引は有効

PTS取引とは?

金融
(画像= Hortensia/stock.adobe.com)

PTS取引のことは名前くらいしか聞いたことはないという方のために、PTS取引の基本についておさらいをしておきたいと思います。

PTS(Proprietary Trading System)取引の概要

PTSとは「Proprietary Trading System」の略で、そのまま「ピーティーエス」と読みます。この「Proprietary Trading System」には「独自の取引システム」といった意味合いがあるため、PTSは私設の取引所と訳されています。

通常、投資家が株の取引をするのは証券取引所ですが、PTSは東証や大証といった取引所とは異なる、取引所運営会社が提供している私設の取引所です。私設の取引所なので、PTSでは東証などの証券取引所を介することなく株式取引が行われています。

PTSには「デイタイム・セッション」と「ナイトタイム・セッション」と呼ばれる、2つの取引時間があります。デイタイム・セッションはおおむね取り扱い各社ともに8時台から16時台、ナイトタイム・セッションは16時台から23時59分までとなっており、証券取引所と比べるとかなり長いことがわかります。

PTS取引の注意点

証券取引所だけに依存しない新たな取引環境ということで、夜間取引ができることや証券会社によっては手数料がとても安いことなどもあって、PTS取引は人気を集めています。

しかし、その一方でPTS取引には注意点もあります。最も注意するべき点は、流動性です。証券取引所とは規模が大きく異なるため、市場参加者の数にもかなりの開きがあります。そのため株を売りたくても買い手がいない、買いたくても売り手がいないといったように流動性が低いことから売買が成立しないこともあります。東証と同じ感覚で取引をすると思い通りに売買が成立しないと感じることが多くなるので、これは注意しておくべきでしょう。

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PTS取引のメリット、デメリット

PTS取引は多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。それぞれについて解説します。

PTS取引のメリット:安い手数料、長い取引時間、小さい呼び値

PTS取引をすることによって得られるメリットは、主に3つあります。

・メリット1:手数料が安い

証券会社によって手数料体系は異なりますが、例えばSBI証券では取引所取引よりもPTS取引のほうが手数料は安く、特にナイトタイム・セッションでは手数料が無料になる点も目を引きます。デイタイム・セッションでは大部分の取引時間が証券取引所と重複していますが、PTS取引のほうが手数料は安いので、日中時間であってもPTSを利用する価値があります。

・メリット2:日中に忙しい人でも取引ができる

PTS取引のメリットとして最もよく知られているのが、取引時間の長さでしょう。夜間取引は各証券各社で23時59分まで取引可能なので、日中の証券取引所が動いている時間帯に株式取引がなかなかできない人であっても夜間取引の時間帯であれば、じっくりと相場に向き合う時間も取りやすくなります。

・メリット3:小さい呼び値のため取引所と比べて有利な取引ができる可能性がある

株価には、変動の最小単位があります。この最小単位のことを呼び値といいます。PTS取引は株価変動の呼び値が小さい(つまり小刻みな値動きで取引ができる)ため、取引所取引よりも精度の高い取引ができます。仮に東証の呼び値と比べてPTSが10分の1の呼び値である場合、細かい呼び値を利用して小刻みに利益を取っていくこともできます。

PTS取引のデメリット:取引が成立しない場合がある

メリットに続いて、PTS取引のデメリットについても見てみましょう。注意点の項でも指摘した流動性に関わるものです。売買板が薄いので、取引が付かないことが多い点はデメリットとして理解しておきましょう。

売買板とは、株式取引をする際に買い注文と売り注文が一覧表示される画面のことです。例えば、下図はSBI証券の取引画面で見ることができるソフトバンク(東証1部)の売買板です。平日の売買板ではないものの、出来高ランキングでは常に上位にあるソフトバンク株の売買板なので、多くの売買注文が入っています。

次に、同じタイミングのPTS市場の売買板をご覧ください。

売買ともに注文の数が明らかに少ないのが見て取れます。出来高ランキングで1位になることも多いソフトバンク株であっても、PTS市場だと注文の量が少なくなってしまいます。なお、投資の世界ではこのように売買注文が少ない状態のことを「板が薄い」といいます。

板が薄いことによって、「思い通りの株価でなかなか約定しない」「そもそも売買そのものが成立しない」ということが起こりえます。株式取引は売りたい人と買いたい人の両方がいないと成立しないので、板が薄いと取引相手を見つけにくいのです。

この例ではソフトバンク株なので板が薄いといっても一定量の注文数がありますが、出来高が少ない銘柄や不人気な銘柄だとPTS市場で売買を成立させるのに苦労することになるかもしれません。

PTS取引ができる証券会社は3社

PTS取引ができる証券会社は、2020年12月現在で、SBI証券、楽天証券、松井証券の3社です。ここではそれぞれの証券会社の特徴やPTS市場についての概要を解説します。

PTSサービスの提供は「ジャパンネクストPTS」と「チャイエックスPTS」

PTS取引はPTS市場で行われていますが、そのPTS市場を運営しているのは「ジャパンネクスト証券株式会社(ジャパンネクストPTS)」と「チャイエックス・ジャパン株式会社(チャイエックスPTS)」の2社です。PTS取引サービスを提供している証券会社はいずれも、この2社のサービスのうち1つ、もしくは両方を採用することでPTS取引を実現しています。

なお、PTS市場2社それぞれの取引時間は以下の通りです。

▽ジャパンネクストPTS:

  • 8:20~16:00(デイタイム・セッション)
  • 16:30~23:59(ナイトタイム・セッション)

▽チャイエックスPTS

  • 8:20~16:00

この2社が提供しているPTS取引サービスをどのように採用するかによって、証券会社のPTS取引時間が異なります。一覧にまとめると、以下のようになります。

▽PTS取引のできるネット証券の取引時間

PTSサービス 取引時間
SBI証券 ジャパンネクストPTS 8:20~16:00(デイタイム・セッション) 16:30~23:59(ナイトタイム・セッション)
楽天証券 ジャパンネクストPTS
チャイエックスPTS
8:20~16:00 17:00~23:59
松井証券 ジャパンネクストPTS 8:20~15:30(デイタイム・セッション) 17:30~23:59(ナイトタイム・セッション)

ネット証券3社のPTS取引の手数料は?

取引時間の次はPTS取引サービスを提供しているネット証券3社の手数料もチェックしておきましょう。

▽PTS取引のできるネット証券の手数料

手数料(税別) ※楽天証券のみ税込 提供している取引方法
SBI証券 (現物)
~5万円:47円
~10万円:86円
~20万円:100円
~50万円:238円
~100万円:462円
~150万円:553円
夜間取引:無料
(信用)
~10万円:86円
~20万円:128円
~50万円:171円
50万円~:333円
現物
信用
楽天証券 (現物)
~5万円:55円
~10万円:99円
~20万円:115円
~50万円:275円
~100万円:535円
~150万円:640円
(信用)
~10万円:99円
~20万円:148円
~50万円:198円
50万円~:385円
現物
信用
松井証券 (現物)
~50万円:無料
~100万円:1,000円
~200万円:2,000円
現物

この一覧表を踏まえて、ネット証券3社のPTS取引について特徴を解説します。

SBI証券

ネット証券のなかには新しいサービスに対して意欲的な会社が多いですが、SBI証券もそんなネット証券の一角としてPTS取引にいち早く参入し、今も力を入れています。

PTS市場を運営している2社のうち「ジャパンネクストPTS」はSBI証券と同じグループ企業ということもあってサービス内容も充実しており、昼間、夜間ともに最も取引時間が長いことがメリットです。

ジャパンネクストPTSは手数料についても細かい価格設定になっているため、取引額に応じて無駄のない手数料負担となっています。特にナイトタイム・セッションでは手数料が無料になるのはSBI証券だけなので、「ジャパンネクストPTS」が同じグループの企業であることの強みが大いに発揮されています。

楽天証券

「チャイエックスPTS」はデイタイム・セッション(昼間取引)のみなので、夜間取引を実現するために「ジャパンネクストPTS」も併用しているのが楽天証券の特徴です。口座利用者は取引時にどちらかのPTS市場を選択できるため、証券取引所の開場時間内であれば東証と合わせて3つの市場で取引ができることになります。手数料面ではSBI証券に対抗していることがうかがえ、ほぼ同水準と見てよいでしょう。

松井証券

松井証券は「ジャパンネクストPTS」を採用していますが、他の2社と比べるとわずかに取引時間が短い点と取引方法は現物のみ(信用取引は非対応)であることに注意が必要です。

しかし、その一方で手数料体系は独自性が強く、50万円までなら手数料が無料というのが目を引きます。約定代金が50万円以下と思われるPTS取引であれば松井証券を優先的に利用するのもひとつの手です。

まとめ:リスク分散の観点からもPTSでの取引は有効

すでに取引所で株式取引をしている投資家にとってのPTSは取引の選択肢を広げてくれる存在で、日中時間であれば株価が有利なほうを選んで取引ができることなど、夜間取引以外にも魅力は十分です。

また、2020年10月1日に発生した東証の大規模なシステム障害を受けて、1つの取引所だけに依存することにリスクを感じた投資家も多かったのではないかと思います。東証が売買停止になっていたときもPTSは通常の取引ができていたので、取引市場のリスク分散という意味でもPTS取引の選択肢を持っておくことには意義があります。このリスク対策については金融庁も証券会社に対して私設取引所の利用を推奨しています。

2020年12月現在、PTS取引ができるのは当記事でご紹介したネット証券3社です。50万円以下の手数料では圧倒的に松井証券が安いものの、50万円以上の取引額になるとSBI証券に軍配が上がります。取引時間についても最も長いのはSBI証券ですが、楽天証券は2つのPTS市場が使えることなど選択肢が広く、また取引額に応じて楽天ポイントが貯まることなど、それぞれにメリットがあります。当記事の情報を参考にネット証券を選んでいただき(もちろん3社に口座を開設するのも有効)、PTS取引の扉を開いてみてください。

文・田中タスク
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、自らの投資スタイルを確立。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中