世界的にSDGsへの関心が高まる中、経営戦略や社会貢献の一環として、フェアトレードに取り組む企業も増えてきている。フェアトレードの意味や背景となった問題を知ることで、ビジネスに生かす道が見えてくるだろう。企業が取得できるフェアトレードの認証ラベルも紹介するので、ぜひ参考にしてほしい。
目次
フェアトレードとは?
フェアトレードとは、発展途上国と適正価格で取引することだ。まず、フェアトレードの考え方が生まれた背景と、日本で急速に注目度が高まっている理由を見ていこう。
フェアトレードの考え方
私たちが手にする食料品や日用品の中には、驚くほど安い商品がある。不思議に思ったことはないだろうか。このような商品は、開発国に負担を課すことで低価格を実現している可能性がある。
たとえば、開発国が発展途上国の場合、生産者に対して正当な報酬が支払われていないケースや、環境や健康に悪影響を及ぼす薬が使用されたり、労働環境が劣悪だったりするケースが挙げられる。
このような現状を問題視し、生まれたのがフェアトレードの考え方だ。フェアトレードは、直訳すると公平な貿易という意味であり、日本語では公正取引と呼ばれる。
現在は、開発国に負担をかけないフェアトレードの考え方が広まり、フェアトレードに取り組む企業や個人を認証する仕組みもスタートしている。
フェアトレードの国内市場規模は157億8,000万円
フェアトレードジャパンによると、2021年の日本国内のフェアトレード認証製品の推計市場規模は157億8,000万円だった。2020年の131億3,000万円と比較して20%増加しており、国内でも急速にフェアトレードへの関心が高まっていることが見てとれる。
1990年代中盤以降に生まれた世代をZ世代と呼ぶが、これからの時代はZ世代をいかに取り込むかが事業の成否を左右するとも言われている。Z世代は、ほかの世代と比べて社会貢献に対する意識が高いことで知られており、フェアトレードへの関心も高い傾向だ。
今後も、企業としての社会的責任を果たすという視点や、消費者向けのブランディング戦略の視点で、ますますフェアトレードに取り組む企業は増えていくだろう。
フェアトレードの背景にある商品5つ
フェアトレードが広まった背景を知るには、不公平な取引が行われていた実態を理解しておく必要がある。続いては、具体的な商品(食品や素材、製品など)を取り上げながら、かつて行われていた不公平な取引の問題点を解説していく。
商品1.コーヒー
コーヒーを消費するのは主に先進国だが、多くのコーヒー豆が生産されているのは発展途上国だ。
発展途上国の小規模農家は、中間業者に頼らないとコーヒーを販売できない。その結果、正当な報酬を受け取れず、子どもの学費を払えなくなる。困窮した結果、農園を手放すケースまであるそうだ。
コーヒー豆をめぐる問題点は、2006年公開のドキュメンタリー映画「おいしいコーヒーの真実」に描かれている。同作は全世界に衝撃を与え、フェアトレードの考え方が浸透するきっかけにもなった。
商品2.カカオ
発展途上国では、1,400万人がカカオの生産で生計を立てているという。
カカオの生産では、貧困を要因とする児童労働が問題視されている。2001年のとある事件をきっかけに、子どもたちがカカオ栽培のために人身売買されていることも明らかになった。
IITA(国際熱帯農業研究所)の調査では、農園経営者の親戚ではない子どもたちが、カカオ農園で労働していると報告されている。同調査によると、西アフリカのカカオ農園で働く子どもの64%が14歳以下であった。
農薬の塗布や刃物の使用などは、子どもたちにとってリスクの高い労働作業だ。多くのNGO団体が発信を続け、フェアトレードの実現を目指している。
商品3.茶
スリランカやインド、東アフリカなどにある多くの茶園は、植民地時代に造られた歴史を持つ。大規模な茶園で問題となっているのは、低賃金や劣悪な労働環境だ。
スリランカの紅茶生産においては、多くの女性が農園労働に従事している。炎天下で山の急斜面を歩き、裸足で茶葉を摘む作業は、体力的な負担が大きく健康リスクをともなう。
それにもかかわらず、女性の労働は評価されず、昇進の機会は与えられていない。
フェアトレードを推進する団体は、労働者が適正な報酬を受け取り、安全に働ける環境の整備を進めている。
商品4.コットン製品
コットン生産に従事する世帯は、およそ1億といわれている。コットン生産でも、劣悪な環境での児童労働が問題視されている。
コットン生産には、多くの殺虫剤や農薬が用いられているという。環境破壊につながる薬品や、生産者に中毒死をもたらす薬品まであるそうだ。
現在、危険な農薬を禁止するとともに、オーガニック栽培を促進するため、生産者に正当な報酬を支払う取り組みが行われている。
商品5.サッカーボール
発展途上国では、サッカーボールが手縫いで作られている。サッカーボールも児童労働の温床として問題視されてきた。
2001年には、5歳からサッカーボールを縫う仕事をしてきたインド人少女の記者会見が行われた。少女は貧困が理由で学校に通えず、1日10時間近くサッカーボールを縫っていたという。
サッカーボール縫いに携わる子どもたちの多くは、視力の低下、背中や首の痛みに悩まされている。ひどいときには、指を切断してしまったり、指が変形してしまったりする。そうなっても、適切な治療が受けられるとは限らない。
問題点が明るみになって、スポーツ業界が打撃を受けたのは言うまでもないだろう。
フェアトレードの10指針
フェアトレードは、環境破壊や児童労働といった社会的な問題の解決につながる考え方だ。
フェアトレードを推進する団体WFTO(世界フェアトレード連盟)は、次のフェアトレードの10指針をかかげている。
➀生産者が経済的に自立できる機会を創出する。
②透明性維持と説明責任を果たす。
③公平な取引を実践する。
④生産者に適正な報酬を支払う。
⑤児童労働や強制労働をなくす。
⑥差別をなくし、男女に等しく機会を与え、結社の自由を認める。
⑦安全かつ健康的な労働条件を整える。
⑧生産者の能力向上と市場へのアクセスを支援する。
⑨フェアトレードの啓発を行う。
⑩環境に配慮する。
これからの時代、企業として社会的責任を果たし、消費者にもその取り組みを伝えていくという視点が大切だ。フェアトレードに取り組む上で、10指針を心にとどめておきたい。
フェアトレードの認証2つ
フェアトレードを証明する認証はいくつかあるが、代表的なものを2つ紹介する。認証ラベルを取得することは、企業のブランディング戦略としても効果的だ。
認証1.国際フェアトレード
国際フェアトレード認証ラベル(The FAIRTRADE Marks)は、認知度の高いフェアトレードの認証マークだ。
個別の製品に付与され、基準を遵守した生産、売買を行うと、認証ラベルの配布が許可される。
認証や監査を行っているのは、国際フェアトレードラベル機構だ。活動内容は、国際フェアトレード基準の設定、フェアトレード市場の開拓や促進、生産者への支援など多岐にわたる。
世界30ヵ国以上にラベル推進組織を展開しており、日本ではフェアトレード・ラベル・ジャパンが活動している。フェアトレード・ラベル・ジャパンの設立は1993年で、2004年にはNPO法人になった。
国際フェアトレード認証ラベルには、いくつかの種類がある。
たとえば、フェアトレード認証原料100%からなる製品のラベル、コットンのフェアトレードに関するラベル、複合材料製品に使用できるラベルなどだ。
認証2.WFTO(世界フェアトレード連盟)
フェアトレードの10指針を定めたWFTO(世界フェアトレード連盟)の認証ラベルもある。
WFTOは1989年に発足した団体で、2003年にWFTOの名をかかげた。企業や事業者が加盟するネットワークである。WFTOには、フェアトレード商品の売上が収支全体の50%以上を占める団体が加盟できる。
加盟している企業や事業者がフェアトレードの基準を順守しているかをモニタリングしている。
2014年からは、指針を守った製品の一部に認証ラベルをつけられるようになったが、すべての製品に認証ラベルがついているわけではない。
フェアトレードの取組事例
安全安心な食を世界に届けるゼンショーホールディングスは、現地の生産者と直接コミュニケーションをとり、公正な価格で商品を購入している。生産に必要な技術指導や生活向上にも取り組んでいる。
世界的に成功を収めたコーヒーチェーンのスターバックスは、いち早くフェアトレードに取り組んだ企業の1つだ。2015年には、フェアトレード等の基準を満たす方法で調達したコーヒー豆の割合が99%となった。
そのほか、土壌管理や農作物の専門家による技術支援センターも設立し、現地の生産者と直接関わってコーヒー豆の品質を向上させている。
ショッピングモール大手のイオンは、プライベートブランドのコーヒーやお菓子で使用するカカオをすべてフェアトレードで調達することを目標とし、すでにコーヒーやチョコレート、ジャムなどの国際フェアトレード認証商品を展開している。
各社の継続的な支援が実を結べば、少しずつでも格差が解消され、開発国の自立へとつながるだろう。
フェアトレードの問題点
世界的に関心が高まるフェアトレードだが、企業がフェアトレードに取り組むときに注意しておくべき点がある。
それは、フェアトレードを行うと、商品価格が高くなることだ。フェアトレードの取り組みを評価し、積極的に購入してくれる消費者へとしっかり情報を届けないと、市場競争に負けてしまう恐れがある。
フェアトレードに取り組むときは、消費者にどのように商品をブランディングするかをあわせて考えておくことが重要だ。
フェアトレードで社会の問題点を解決する
何気なく口にしている食品や、意識せずに使っている日用品が、誰かの犠牲によって成り立っている。大切なのは、その事実に目を向けて自分なりの行動を選択することだ。
人間社会にはさまざまな問題点がある。格差や不公平な取引は、氷山の一角かもしれない。しかし、フェアトレードにもとづく製品の購入者が増えれば、問題の解決に向けて一歩近づくだろう。
フェアトレードが大切だと感じるなら、フェアトレード認証ラベルを確認することはもちろん、フェアトレードを推進する団体や、個別企業の取り組みにも注目していきたい。
また、企業経営者の立場から、フェアトレードに取り組み、どのように社会的責任を果たしていくかを考えることも重要だ。これからの時代、フェアトレードに取り組むことが、企業や商品のブランディングにもつながるだろう。
フェアトレードでよくある質問
Q.フェアトレードとはどんな取り組み?
A.フェアトレードとは、発展途上国と適正価格で取引することだ。驚くほど低価格の商品は、開発国に負担を課すことで低価格を実現している可能性がある。
たとえば、開発国が発展途上国の場合、生産者に対して正当な報酬が支払われないことがある。また、環境や健康に悪影響を及ぼす薬が使用されたり、労働環境が劣悪だったりするケースもある。このような問題を解決するのがフェアトレードの取り組みだ。
Q.フェアトレードは何がいい?
A.先進国と発展途上国の間で農作物や製品を売買するとき、先進国の立場が強くなり、不公平な取引になることが多い。結果的に、開発国では、児童労働や環境破壊などの問題が生じていた。
フェアトレードが広がることで、開発国の劣悪な労働環境が改善されたり、環境破壊につながる薬品の使用が制限されたりといった、社会問題、環境問題の解決につながることが期待できる。
Q.フェアトレードはなぜ普及しないのか?
A.フェアトレードが普及するには、消費者、企業ともに関心が高まる必要がある。日本でもフェアトレードの市場規模は拡大しつつあるが、まだ十分とはいえない。フェアトレードの商品は価格が高くなるため「高くてもフェアトレードの商品を購入したい」と考える層に情報を届けることが重要だ。
Q.フェアトレードを知らない人の割合は?
A.2019年の日本フェアトレード・フォーラムの調査によると、フェアトレードを知らない人の割合は46.2%、見聞きしたことはあるが内容までは知らない人は26.1%だった。見聞きしたことがあり内容も多少は知っている人は22.0%、見聞きしたことがあり内容もよく知っている人は5.7%にとどまっている。
Q.フェアトレードはSDGsの何番?
A. フェアトレードは、SDGsの17の目標のうち目標10「人や国の不平等をなくそう」や目標12「つくる責任つかう責任」ととくに強く関連しているといえるだろう。そのほかにも目標1「貧困をなくそう」や目標8「働きがいも経済成長も」といった項目もフェアトレードによって実現できる可能性がある。
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