投資信託は効率的な分散投資が可能なため、投資初心者にも向いている投資商品といわれています。ただし、税金などの「運用コスト」には注意が必要です。ここではコストを理由に投資信託に後ろ向きだった方のために、税金についての詳細と軽減方法について解説します。

目次

  1. 投資信託にはどのような税金がかかるのか?
    1. 購入時にかかる税金
    2. 保有時にかかる税金
    3. 売却や償還時にかかる税金
    4. 特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要
  2. 投資信託に掛かる税金を合法的に「無料」にする方法がある
    1. NISA制度
    2. iDeCo制度
  3. 実際の税金計算をやってみよう!投資信託で100万円儲かったケース
  4. 実際の投資信託の始め方
  5. 特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告をしたほうがよい場合
    1. 特定口座を複数所有している場合
    2. 配当以外の所得が少ないとき
  6. 税金は運用上のコスト!賢く節税して、運用効率を高めたい

投資信託にはどのような税金がかかるのか?

投資信託は、購入時、保有時、売却時に税金がかかります。それぞれについて詳細を見ていきましょう。

購入時にかかる税金

多くの投資信託は、購入時に販売手数料がかかります。これは販売会社に支払うもので、申し込み手数料ともいいます。その額は商品によってさまざまですが、一般的に購入金額の数パーセントです。現在はこれに10%の消費税がかかり、販売手数料に上乗せして支払うこととなります。

ただ最近では、販売手数料が無料の投資信託(ノーロード・ファンド)も増えてきています。そのようなファンドを購入する場合には、当然消費税もかかりません。

保有時にかかる税金

投資信託には、分配金が支払われる分配型と、支払われない無分配型があります。

分配金とは、投資信託があらかじめ定められたタイミングで行う決算に合わせ、純資産の中から投資家すべてに出資額に応じて支払われる資金をいいます。

無分配型では、運用途中で収益があがっても投資家には支払いを行わず、売却、あるいは償還まで収益分についても運用を行っていきます。また、形式上では分配型となっていても、実際には分配せずに再投資を行う方針を取る投資信託もあります。

分配金には「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の2種類があり、税務上の扱いが異なります。前者は、実際に運用上で出た利益の中から支払われるもので、分配金支払い後も投資信託の価格である基準価額は下がりません。

一方、特別分配金は、投資家の元本分の一部支払いに相当し、その結果、支払後には基準価額が下がります。このため、普通分配金には課税される一方、特別分配金は非課税となるという違いがあります。普通分配金には源泉徴収が行われます。

投資信託は、株式投資信託と公社債投資信託に分かれ、さらにそれぞれ公募と私募に分かれます。国内で販売されているものの大半を占める公募株式投資信託については、普通分配金にかかる源泉徴収税率は、20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)です。上場株式の配当と同じ税率となります。

MMF(マネー・マネージメント・ファンド)やMRF(マネー・リザーブ・ファンド)などといった、株式が組み入れられない公募公社債投資信託の普通分配金については、利子所得としての課税となります。しかし源泉徴収税率は、株式投資信託と同じ20.315%(内訳も同じ)です。

公募の株式投資信託でも公社債投資信託でも、その普通分配金は申告分離課税によって、上場株式の譲渡損などと損益通算することができます。

私募の場合は、株式投資信託、公社債投資信託ともに、多少扱いが異なります。

私募株式投資信託の普通分配金については、20.42%(所得税および復興特別所得税20.42%、住民税なし)の源泉徴収が行われます。ただし、少額配当を除き、確定申告による総合課税が基本です。

私募の公社債投資信託の場合の源泉徴収税率は、同じく20.42%(内訳同じ)ですが、申告をすることはできません。

売却や償還時にかかる税金

投資信託には運用期間があらかじめ定められているものもあり、その期間が終了すると、償還となって信託財産が投資家に返還されます。また、運用期間の定めがなかったり、運用期間終了前でも、運用効率が下がったなどの理由で償還が行われることがあります(繰り上げ償還)。

これらの償還の際、購入したときの投資信託の価格と償還時の価格の差で利益が出ていれば、その利益に税金がかかります。売却した場合も同様に、購入時と売却時の価格差で利益が出ていれば、課税されます。

公募投資信託の売却時や償還時における利益については、株式投資信託であっても、公社債投資信託であっても、譲渡所得として扱われます。源泉徴収税率は、ともに20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)で、申告分離課税によって上場株式などの損失などと損益通算が可能です。

特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要

購入時の販売手数料にかかる消費税を除き、分配金や譲渡益にかかる税金にはいくつかの種類があり、その計算は複雑です。投資信託だけでなく、株式などでも売買の回数が増えてくれば、損益通算の計算もそれだけ労力が必要となります。しかし、特定口座を利用すれば、そのような労力を回避することができます。

証券会社や銀行で口座を開設する際、一般口座か特定口座を開設する必要があります。ほとんどの人にとって、金融機関が年間の取引の損益を計算してくれる特定口座のほうが便利でしょう。

さらに特定口座には、「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があります。「源泉徴収あり」を選択すると、証券運用にかかる納税は金融機関が行ってくれるため、確定申告をする必要がなく、さらに大きく手間を省くことができます。

ただし、源泉徴収ありの口座を選択していても、確定申告をしたほうがよい例もあります。以下の項で詳細を解説します。

投資信託に掛かる税金を合法的に「無料」にする方法がある

自分にあった賢い課税方法を選択したとしても、やはり税金は少なからぬ負担です。しかし、老後に向けて国民の自助努力による資産形成を求めている政府は、個人向けに税制優遇のある資産運用制度も設けています。それがNISA(ニーサ)とiDeCo(イデコ)です。順に、それぞれの制度の概要と、メリット・デメリットを見ていきたいと思います。

NISA制度

NISA(少額投資非課税制度)とは、株式や投資信託への投資で得られた利益が、一定条件のもとで非課税となる制度です。一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAの3種類があり、未成年者はジュニアNISAを、成年者は一般とつみたてのどちらかを選んで利用することができます。

ただし、NISA制度は2024年に改正される予定であり、これに伴いジュニアNISAは2023年で廃止されます。一般NISAとつみたてNISAについては継続されますが、改正後は、原則としてつみたてNISAを行っている人が一般NISAも利用できるという2階建ての制度となります(投資経験者は一般NISAのみの活用も可能)。

一般NISAとつみたてNISAにはいくつかの大きな違いがあります。主な違いは、非課税で運用できる期間とその金額、買い付けの仕方、そして運用対象商品などです。

2023年までの現行の制度では、一般NISAで最大5年間(ロールオーバーで延長可)、つみたてNISAでは最大20年間、非課税で運用することができます。拠出できる金額は、一般NISAが年間120万円まで、つみたてNISAは年間40万円までとなります。

さらに、定期的に積み立てる方式で買い付けを行うつみたてNISAでは、運用対象を指定された投資信託の中から選ぶ必要がある一方、一般NISAではより広範な投資信託や上場株式に投資することができます。

NISAのメリットは、非課税となる運用期間内であれば、配当や分配金にも、また売却益にも税金はかからないことです。

ただし、デメリットもあります。その一つは、損失が出た場合に別の特定口座の利益などと損益通算ができないことです。また、非課税の期間中に売却しなかった場合、保有資産は通常の特定口座や一般口座に移管されますが、その際に購入価格は移管時の価格に置き換わります。このため、購入時より移管価格が値下がりしていた場合には、最終的に売却したときに利益が実際より多く出て、課税額も膨らむ可能性があります。

また別のデメリットとしては、特につみたてNISAにおいて、投資対象が金融庁の選択した投資信託に限定されているため、自身の自由な相場観で運用しづらいということもあります。

制度の詳細は金融庁のサイトで分かりやすく説明しているため、興味のある人は一度チェックしておくといいでしょう。

iDeCo制度

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的な個人年金の1つとして位置づけられる制度です。加入は任意ですが、非常に強力な税制優遇があるため、可能であれば利用したい制度です。

具体的には、資金を拠出したとき(拠出金額を所得控除)、運用益が出たとき(利益に非課税)、年金として受け取るとき(退職金控除や公的年金等控除)の3段階で優遇があります。

iDeCoは、企業型確定拠出年金に加入している会社員の一部を除く、20歳以上60歳未満の多くの人が加入できます(2022年5月には、条件付きで65歳未満の人にまで拡大予定)。年間の拠出額の上限は、14.4万円から81.6万円で、他の年金制度への加入状況によって異なってきます。

iDeCoは税制面でのメリットが大きいものの、こちらにもやはりデメリットもあります。最大の注意点は、拠出した資金は最低でも60歳までは引き出せないということです。運用期間が10年未満の場合は、その期間に応じて受給開始年齢はさらに最高65歳まで遅くなります(国民年金の保険料免除者になるなどの一定の要件をすべて満たした場合には、例外として引き出しが認められます)。

iDeCoは自身の年金の原資を形成するための制度であるため、それ以外の目的のために使いたいと考えてもあてにすることはできないのです。また、つみたてNISA同様、運用対象はiDeCo用に金融機関が用意する投資信託に限定されています。

実際の税金計算をやってみよう!投資信託で100万円儲かったケース

では、実際に投資信託で運用して利益が出た場合の税金のシミュレーションを簡単に見てみたいと思います。

  • 購入額:100万円
  • 購入手数料:3.3万円(消費税込み)
  • 売却額:200万円
  • 譲渡益:200万円-(100万円+3.3万円)=96.7万円

この譲渡益にかかる源泉徴収税は、以下の通りとなります。

96.7万円×20.315%=19万6,446円

100万円儲かったと思っていても、実は手元に残るのは80万3,554円です。一方、NISAやiDeCoを活用すれば、非課税期間中の売却であればこの税金(19万6,446円)は発生しません。

実際の投資信託の始め方

投資信託にかかる税金とその軽減方法を理解したところで、実際に投資信託への投資を始めるにはどうすれば良いのでしょうか?

具体的には、以下の手順を踏んでいくこととなります。

(1)投資方針、投資金額、リスク許容度を把握する
(2)購入する商品を選択する
(3)証券会社を選ぶ(普通口座、NISA、iDeCo口座)
(4)証券口座開設
(5)購入する

(1)においては、自分の投資方針やリスク許容度を把握することは簡単ではないかもしれません。しかし少なくとも、いつまでに、そしてどのくらいの金額を運用したいのかは考えておく必要があります。それによって、どの金融機関で、またどの種類の口座で運用するかが決まってくるためです。

一般的には、税金面での有利性を考えて、NISAやiDeCoの口座で運用することがおすすめです。どちらを選ぶかは、60歳まで運用したいか、または、できるかによって変わります。もちろん、併用することも可能です。ただし、どちらもそれぞれ一つの金融機関でしか開設することができないことには注意が必要です。

(3)については、金融機関によって運用対象となる商品が異なります。最初から運用したいものが決まっているなら、それを扱っている金融機関で口座を開設すればいいのですが、決まっている人は少ないと思います。もし個別の商品からの選択はしづらいというのであれば、取引手数料の低い証券会社や品ぞろえの豊富な証券会社を選択するのがよいでしょう。

一般的には、ネット証券のほうが取引手数料は安くなっています。またiDeCoでは、加入時などの費用以外にも金融機関に毎月手数料を支払う必要があり、その金額は100円台から600円台までと金融機関によって幅があります。この手数料もネット証券のほうが安いという傾向があります。

特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告をしたほうがよい場合

これには、主に以下の2つのケースが考えられます。

特定口座を複数所有している場合

先に書いた通り、特定口座では年間の損益を計算して納税まで行ってくれます。ただし、計算してくれるのはあくまでもその口座を使って行った取引のみです。複数の口座を利用している場合、金融機関は別の会社の特定口座との損益通算までは行うことができません。

このため、損失をそのまま無駄にしたくなければ、確定申告によって自分で損益通算を行う必要が出てきます。

また、損益通算をしても損が残ってしまった場合、その損失を翌年以降3年間、課税対象となる売却益から差し引くことが可能です。「譲渡損失の繰越控除」といいますが、これを適用するためにも確定申告は必要となります。

配当以外の所得が少ないとき

公募株式投信の普通分配金は、確定申告をして「総合課税」を選択することができます。総合課税とすれば、他の所得と合算したのち、その所得金額に応じた累進課税の率が適用されます。つまり、合算後の所得税率が、15.315%という源泉徴収税率(所得税と復興減税)よりも低い人なら、総合課税の選択により税の還付を受けられることになります。

また、総合課税を選択すると、配当控除を受けることもできます。配当控除とは、株式などの配当金額の一定率が、所得税・住民税から控除されるというものです。

この配当控除は、国内株式投資信託の普通分配金にも適用されます。その投資信託の資産内容によって控除率は異なるものの、最大で5%が所得税から、また1.4%が住民税から控除されます。

ただし、国内投信であっても外貨建て資産が75%超組み入れられているものには配当控除はありません。

先に、所得税率がもともと低い人には総合課税がおすすめであると書きました。ただ、総合課税の住民税は10%であり、配当控除を考慮したとしても、住民税については源泉徴収税率の5%を上回ってしまいます。

しかし、2017年度の税制改正で、上場株式などの配当については所得税と住民税で別の課税方法を選択できることになりました。つまり、所得税では総合課税を、そして住民税では申告不要を選択することにより、所得の多くない人は最大限の節税メリットを受けることができる可能性があります。

税金は運用上のコスト!賢く節税して、運用効率を高めたい

資産運用を行ううえで、投資信託は利用価値の高いものです。ただし、投資信託の運用にかかる手数料や税金というコストを理解しておかないと、運用効率が下がり、最悪の場合には利益が飛んでしまうといった事態にもなりかねません。同様の商品ならなるべく手数料の安い金融機関で購入し、またNISAやiDeCoといった制度を賢く使って節税することが重要となります。

最後に、投資信託という商品や、NISAやiDeCoといった制度は、本来長期保有で効果が発揮できるように作られたものです。頻繁に売買を行っていると、無駄なコストがかかったり、税制優遇の枠を無駄に使ったり、最も良いタイミングで資産を保有できていなかったり、といったような運用効率を下げてしまうリスクが高まります。

どんなものでも絶対に長期保有しないといけないというわけでもありませんが、目先の動きに一喜一憂せず、長期的な視点で運用を続けていくことが肝要です。

北垣愛
国内外の金融機関で、金融マーケットに直接携わる仕事を長く経験。現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、主に金融に関する情報発信も行っている。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、FP一級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級。