胡潤百富の中国百富ランキング2017年版では、中国恒大(不動産)の許家印が前年の10位からトップに躍り出た。別のランキング、フォーブスでは3位、新財富(深センの経済誌)では3位である。
ただし、トップ5のメンバーは、どのランキングも変わらない。中国を代表する5人の大金持ちである。8月上旬「智通財富網」「鳳凰網」などのネットメディアが相次いで特集を掲載した。
胡潤百富は、英国の公認会計士・胡潤(Rupert Hoogewerf)氏が1999年に「1999中国大陸百富榜」を発表したことに始まる。現在では、中国で最も権威のある民間経済調査機関となっている。このランキングを基にトップ5を分析していこう。(1元=16.2日本円)
第5位 王健林(フォーブス4位、新財富4位)1550億元(約2兆5千億円)
王健林:男性、63歳、四川省広元市出身。大連万達集団股份有限公司董事長。
1970年、16歳で軍隊に入隊。78年、大連陸軍学院に進む。79年、大隊の参謀。83年、遼寧大学に進学。86年、同大を卒業し、陸軍学院管理処副処長に。しかし同年、軍隊を退役し、大連市西崗区人民政府辯公室主任に就任。
1989年、大連西崗区住宅開発公司総経理(社長)1992年、同社を改組して大連万達房地産集団公司を設立。その後、同社は急成長し、王の資産は2009年に290億元となり、胡潤ランキング9位。2013年、1350億元でトップに。2015年、2200億元、2016年、2150億元で2年連続トップ。中国では知らぬ者のない不動産王である。
中卒で営林署員をしていたが、軍隊へ入ったことで運を開く。スタイルは軍隊式経営と称された。2017年には政府の海外投資抑制策により、事業の整理再編に追い込まれる。
第4位 楊惠妍(フォーブス5位 新財富5位)1600億元(約2兆6千億円)
楊惠妍:女性、37歳、広東省順徳市出身、碧桂園集団副主席。碧桂園集団創業者、楊国強(64歳)の二女。
父親の楊国強は、17歳まで靴を履いたことがないという貧農の出身。月収180元の建設労働者だったが、兄・楊国華の援助で順徳第二建設公司に入社。その後、急速に昇進する。
1992年、鄧小平の「南巡講話」以降、広東省に不動産ブームが訪れる。その熱気に押され碧桂園を創業した。現在は中国最大の“新型都市化住宅開発商”とされている。
楊国強は、腰が低く“霊魂人物”と称された。娘の楊惠妍は、オハイオ州立大学を卒業後、2005年、碧桂園に入社、米国式管理手法を取り入れる。父親の病気療養中には、その方法でグループの管理を行い成功した。有能、機敏、管理力に優れる、など高い評価を受けている。中国女性富豪ナンバーワン。
第3位 馬 雲(フォーブス1位 新財富2位)2000億元(約3兆2千億円)
馬雲(ジャック・マー):男性、54歳、浙江省杭州市出身。アリババ集団創業者、董事局主席。ソフトバンクグループ <9984> 取締役。
学業成績は並み以下。高考(大学入試)では二浪の末、かろうじて杭州師範大学の英語科に入学した。しかしここからは優秀な学生に変貌する。外国語系ではトップクラスの成績を取り、学生会の主席にも当選した。卒業後は、杭州電子工業学院の英語及び国際貿易の教師となる。在職中に翻訳会社を設立、杭州の有名人となる。
1995年、教師を辞め、以降中国版イエローページなど、ネット企業の創業を繰り返した。そして4年後の1999年3月にアリババを創業する。 1999年~2000年にかけ、ソフトバンクが2500万ドルを融資。初の大型融資であり、同社は今でも筆頭株主の座にある。
アリババが中国を代表する企業に成長すると、ソフトバンクが筆頭株主であることは一部の“愛国者”にとってトラウマとなってしまった。未だにアリババはどこの国の企業か?という議論が絶えない。
馬化騰(フォーブス2位 新財富1位)2500億元(約4兆1千億円)
馬化騰:男性、47歳。広東省汕頭市出身。騰訊(テンセント)創業者、董事会主席兼首席執行官(CEO)
幼年時は父母の仕事の関係により、海南島で過ごす。13歳の時に深セン市へ移る。深セン中学(高校)から、深セン大学計算機与軟件(ソフトウェア)学院へ進学する。1993年、卒業すると潤訊通信発展公司という会社に就職し、ソフトウエア開発のエンジニアとなった。
ここで市場感覚を養うとともに、株式取引ツール開発者の一人として成功を収める。やがて独立の意思を固め、1998年、同級生とともに「深セン騰訊計算機系統有限公司」を設立した。
当初、資金不足と販売不振に悩まされながらも、インスタントメッセンジャーアプリ「QQ」によって発展のきっかけをつかむ。
馬化騰は、情熱を保ち、知識を求め、素早く思考し、堅実に実行するスタイルという。馬雲とともに“ダブル・マー”と称される。しかし、何かにつけドラマチックで、派手に構想をぶち上げる馬雲とは対照的に、静かな印象だ。
第1位 許家印(フォーブス3位 新財富3位)2900億元(約4兆7千億円)
許家印:男性、60歳。河南省周口市出身。中国恒大集団董事局主席、党委書記。
1歳のとき、母親が敗血症で死去。高校卒業後は進学をあきらめ、農村のあらゆる手工業や労働を経験。2年後、高考(大学入試)に挑戦するが、勉強する時間は全くなかった。翌年はしっかり勉強し、武漢鉄鋼学院に入学する。理数系の成績は抜群だった。
卒業後は河南省の鋼鉄工場へ就職した。毎日工程を研究し100に上る問題を解決したという。1992年に退職し、深セン市の貿易会社に転職。
1994年、広州市で一家と4人の従業員で不動産会社を設立。その2年後に深セン市に恒大集団を創業。今では、不動産、金融、旅行、スポーツ、健康産業などを含む巨大複合企業に成長。
信念は「知識は運命を変える」。
不動産は最後の輝き?
TOP5のうち3人は不動産で財を成した。そのうち、2人は、改革開放の中心都市であった深セン市の不動産ブームにうまく乗り、もう1人は、軍隊、行政機関の不動産開発の先兵となって働いた。がむしゃらにのし上がってきたイメージである。
ITの2人は、彼らに比べれば、両親とともに伸び伸び育っている。世代も若い。目標もデジタル・チャイナの建設という、可視化できないイメージへと変わった。
中国は豊かになり、極貧から不動産王というサクセスストーリーは、もはや過去のものだ。それに現在の不動産市況は、バブルをはらむとの見方が大勢だ。今後何が起きるかわからない。
5年後のランキングはどうなっているだろうか。ITの勢いが増している可能性がある。
文・高野悠介(中国貿易コンサルタント)/ZUU online