投資の世界には、「Sell in May(セルインメイ)」という有名な経験則(アノマリー)があります。米国株では、「5月に株を売り9月まで相場に戻ってくるな」という季節感をもった投資戦略が有効であるという格言です。日本株にも、米国株との連動性から同じような傾向があると言われています。今回は、セルインメイの実態を検証し、なぜ起きるのかについて考察してみましょう。
目次
Sell in May(セルインメイ)とは何か
なぜ、米国株は5月に売ったがほうがよいといわれるのでしょうか。格言のいわれについて解説していきます。
セルインメイの原文とその続き
「Sell in May(セルインメイ)」は米国で有名な株式投資格言のひとつです。“Sell in May and go away”、つまり「5月に売り逃げろ」を意味します。
単語の並びにいくつかパターンはありますが、この格言には“But remember to come back in September”という続きがあります。「5月に売り逃げろ、でも9月に戻ってくることを忘れるな」という主旨で、株式市場での季節性を利用した戦略を表しています。
セルインメイの意味
セルインメイの意味は、株式市場が「5月は下がる」ではなく、「6~9月までは調整時期に入りやすい」という意味です。過去の株式相場を分析すると、季節ごとに同じような動きが確認できます。1月から4月頃にかけて上昇し、6月頃から夏場にかけて調整し、10月ごろから年末にかけて再び上げることが多いのです。
セルインメイは、相場では10月から4月までに稼いで、夏休みはゆっくりリゾートでくつろいで、投資のことは考えないのが正解だという教えでもあるのです。
セルインメイの信憑性を徹底検証
前項では米国株の動きに触れ、5月に売るのが得策という理由もわかりました。とはいえ、実際に5月に株を売った場合、利益が上がる信憑性はあるのでしょうか。
セルインメイの米国株での検証
米国市場の代表的指数であるS&P500とNYダウで検証してみましょう。
・検証1:S&P500での半年の騰落率比較
S&P500指数について1950~2021年まで過去71年間のセルインメイを検証したレポートが2021年2月に米「FXストリート」に発表されました。
毎年10月31日にS&P500を買い、翌年4月30日にS&P500を売った場合、過去71年間で平均リターンは6.27%でした。これは半年の投資結果ですから年換算すると13.04%になります。勝率は約77.14%でした。逆に、5月1日に買い10月31日に売った場合は、平均リターンは1.17%です。年換算では2.35%、勝率は64.79%でした。
米国株は長期では基本的に右上がりですので、5月から11月の期間でも勝率は決して悪くはないのですが、セルインメイの投資効果がかなり優れていることは検証されます。
・検証2:NYダウでの月次騰落率比較
みずほ証券が2021年2月に作成したレポートでは、米国株価指数を代表するNYダウの1993~2021年までの月次の平均騰落率は下記のようなります。明らかに4月、11月、12月の騰落率が傑出しています。マイナスは6月、8月、9月です。また、1~5月、10~12月に連月上昇する傾向も確認されています。5月までに売りに出し、その後数ヵ月はバカンスに入る、というセルインメイは、効果的な投資戦略なのでしょう。
▽NYダウの月間騰落率(1993-2020)
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均(%) | 0.2 | 0.1 | 0.6 | 2.6 | 0.3 | ▲ 0.3 | 1.3 | ▲ 0.5 | ▲ 0.4 | 1.5 | 2.5 | 1.1 |
最大値(%) | 7.1 | 8.1 | 7.8 | 11 | 4.6 | 7.1 | 8.6 | 7.5 | 7.7 | 10.6 | 11.8 | 6.9 |
最小値(%) | ▲ 8.8 | ▲ 11.7 | ▲ 13.7 | ▲ 4.4 | ▲ 7.9 | ▲ 10.2 | ▲ 5.5 | ▲ 15.1 | ▲ 12.4 | ▲ 14.1 | ▲ 5.3 | ▲ 8.7 |
勝率 | 0.57 | 0.64 | 0.64 | 0.79 | 0.61 | 0.46 | 0.71 | 0.57 | 0.5 | 0.68 | 0.75 | 0.71 |
引用:みずほ証券商品企画部 テクニカル分析から見た株式&為替のポイント(2021-03)より
セルインメイの日本株での検証
米国市場ではセルインメイに一定の信憑性があることが確認できましたが、日本市場にも当てはまるのでしょうか。
・検証1:日経平均の月次騰落率での検証
上掲したみずほ証券のレポートで、NYダウと同様に、日経平均の1993~2021年2月までの月次の平均騰落率を分析しています。米国株が長期にわたって上昇しているのに対し、日本株は平成バブル崩壊後、「失われた20年」と言われる株価低迷期があったため、平均騰落率がマイナスの月が多くあります。それでも、3~4月、11~12月に連月上昇する傾向が確認できます。一方、7~10月はマイナスです。日本でもセルインメイはある程度は通用する投資戦略かもしれません。
▽日経平均の月間騰落率(1993-2020)
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均(%) | ▲ 0.0 | ▲ 0.2 | 0.9 | 2.3 | ▲ 0.5 | 0.6 | ▲ 0.0 | ▲ 1.2 | ▲ 0.6 | ▲ 0.7 | 2.1 | 1.2 |
最大値(%) | 16.1 | 10.5 | 10.2 | 12.5 | 8.3 | 8.8 | 14.9 | 8.6 | 9.4 | 9.7 | 15 | 12.8 |
最小値(%) | ▲11.2 | ▲ 8.8 | ▲ 10.5 | ▲ 11.6 | ▲ 11.7 | ▲ 9.7 | ▲ 9.7 | ▲ 13.9 | ▲ 13.9 | ▲ 23.8 | ▲ 16.7 | ▲ 10.5 |
勝率 | 0.57 | 0.54 | 0.5 | 0.68 | 0.5 | 0.64 | 0.5 | 0.43 | 0.43 | 0.5 | 0.71 | 0.64 |
引用:みずほ証券商品企画部 テクニカル分析から見た株式&為替のポイント(2021-03)より
・検証2:日経平均の月次勝率での検証
日経平均の月次の勝率でも検証してみましょう。Quickマネーワールドが提供している「マーケットカレンダー」で3つの期間にわけた月別の日経平均の勝率が確認できます。
1976年以降の全期間では、勝率が高いトップ3、ワースト3は次のとおりです。
・トップ3:12月 69%、11月・4月 67%
・ワースト3:7月 47%、8月・9月 49%
バブル崩壊後の1990年以降では、次のとおり。
・トップ3:11月 68%、12月65%、4月61%
・ワースト3:8月・9月 42%、7月 48%
リーマンショック後の2008年以降では、次のとおりです。
・トップ3:11月・12月 77%、4月 69%
・ワースト3:8月38%、3月 46%、1月 50%
どの期間においてもトップ3は4月、11月、12月です。ワースト3にはいずれの期間においても8月が入っています。日本株でもセルインメイ戦略を頭に入れておく価値はあるといえるでしょう。
なぜセルインメイは起きるのか?
セルインメイがなぜ起きるのかはっきりとした理由はわかりません。しかし有力説がいくつかありますので紹介しましょう。
セルインメイの考えられる理由1:夏は市場エネルギーが低下
夏の株式市場が下落もしくは停滞するのは、夏休みで市場参加者が減り、「夏枯れ相場」というエネルギーの少ない相場になるからだという説です。
セルインメイの考えられる理由2:ヘッジファンドの決算説
米国市場において影響力が大きいヘッジファンドに5月と11月の決算が多いので、5月に一旦ポジションを利確し、10~11月の決算期末にかけてもう一度アクセルをかけるリズムになりやすいという説があります。
セルインメイの考えられる理由3:米国税制、ボーナスの影響
年初の株高に関しては、米国税制度の影響だという説があります。米国の投資家は源泉徴収や予定納税をしており、年末に株の損出しの売りなどで年間の所得調整をする流れが一般的です。翌年1月半ばごろから総合課税の還付を請求し、1月末ごろから還付され始めます。したがって、2月は還付金が大きく5月ごろまで続くようです。つまり、還付金が株式市場に環流することが株高の要因だという説です。
米国企業の大型のボーナスが話題になることがありますが、そのボーナスが支払われるのも11月か12月に決算が確定した後の、1~2月が多く、その資金も株式市場に環流するでしょう。
セルインメイの考えられる理由4:機関投資家の新年度効果
前述のようにヘッジファンドは5月と11月決算が多く、長期投資資金を運用している年金基金は、米国では12月、日本では3月の決算が多くなっています。決算期末には、これら機関投資家が現金化するために大きな売り(決算売り)を出し、それによって株価が引き下げられる現象が起こることがあります。下がったあと、12月、3月末の期末かけては、株式需給がよくなる(=買いが多くなる)場合が多いです。
年金基金は、米国では1月、日本では4月が新年度となり、新規の株式配分などの新規買いが入ることが多いという「新年度効果」も1月高、4月高の要因と見られています。
セルインメイの考えられる理由5:セルインメイの格言効果
セルインメイがあまりに有名なため、それを意識している投資家が多く、相場を動かす原動力になってしまうという見方もあります。
セルインメイ以外の季節に関する有名アノマリー
アノマリーの意味は、原因や理論ははっきりとはわからないものの、株式市場に確認できる経験則です。セルインメイが代表ですが、それ以外で株式市場の季節性に関する有名なアノマリーをいくつか紹介しておきましょう。
ハロウィン効果
セルインメイとセットで説かれることの多いアノマリーです。10月は株価が急落しやすい月だと言われます。1929年の世界恐慌時のブラックチューズデーは10月29日、1987年のブラックマンデーが10月19日、2008年のリーマンショック時に日経平均が6,994円の歴史的安値をつけたのは10月28日でした。
10月31日がハロウィンの日ですので、10月の急落を「ハロウィン・エフェクト(効果)」と言います。セルインメイでは、9月に市場に戻ってこいといいますが、これは10月の急落局面は買うチャンスだからだということと組み合わせて話されることが多いのです。
夏枯れ相場
これもセルインメイとリンクするアノマリーです。夏の株式市場では、市場参加者が減り、市場のエネルギーが減少するので、活況とは言いがたい相場になりがちです。日本では夏の「お盆」「甲子園での全国高等学校野球選手権大会」の時期などが典型例です。これを「夏枯れ相場」と言います。
クリスマスラリー/掉尾(とうひ)の一振/餅つき相場
「クリスマスラリー」は米国ではクリスマスシーズンには株価が上がりやすいというアノマリーです。「サンタクロース・ラリー」ということもあります。
日本でも年末が高値で終わることが多かったため、12月を「年末相場」、また年末最終売買日の「大納会」に向けて株価が上昇することへの期待を「掉尾の一振」と言います。また年末は市場参加者が減り餅つきの杵のように相場が上下しやすいことから、年末年始を「餅つき相場」とも言います。これはむしろ、相場の振れを利用して餅代を稼ぐという前向きに話すことが多い格言です。
節分天井、彼岸底
日本の株式市場は、新年への期待から1月は堅調に始まることが多いのですが、やがて頭が重くなり、2~3月に調整することがよくあります。個人は2~3月の確定申告時期を迎え税納付のための益出し売り、機関投資家は年度末を迎えのポジション調整の売りなどがでることがあるからです。4月の新年度入りで再び株価は堅調になることが多いのです。したがって、2月3日の「節分」の頃が天井で、春分の日前後の「彼岸」が底だというアノマリーです。
アノマリーを鵜呑みにせず、市況を理解することが大切
株式市場にはセルインメイに代表されるさまざまなアノマリーが存在します。実際に市場がアノマリー通りに動くことも多いのは、需給関係などそれなりの理由があるからです。
とはいえ、アノマリーは事実ではありません。経験則に従うのは悪くありませんが、現時点で起きていることの理由を考え、アノマリーを先人からの言い伝えのひとつとして参考にすることが市場を理解するヒントとなるのではないでしょうか。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません
(提供:JPRIME)
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