いま、世界の株式取引の市場で注目を集めているのが、「特別買収目的会社(SPAC)」への投資です。日本ではSPACは認められていませんが、コロナ禍のアメリカを中心に大きく伸長し、一大ブームとなっています。この記事では、SPAC投資の仕組みから世界の富裕層が注目する理由まで、解説します。

コロナ禍のなかで発展した「SPAC」とは?

SPAC
(画像=Dzmitry/stock.adobe.com)

SPAC(Special Purpose Acquisition Company)とは、特別買収目的会社のことです。上場して未公開会社の買収を目的に設立される法人で、自分たちでは事業は行いません。

SPACでは、著名な投資家や経営者が代表に就くことが多く、代表者のネームバリューや信用力を活かして資金を調達し、未公開会社の買収を行います。買収された会社にとっては、従来のIPO(新規株式公開)のプロセスを経ず、比較的早く上場できるというメリットがあります。従来のIPOに代わる手段として、SPACが話題になっているのです。

SPACという手法自体は、実は1980年代から存在していました。しかし、当時は上場ルールが甘く、SPACを利用した不正が多かったために米当局が規制を強化したこと。さらに、2000年前後に起きたITバブルなどの影響で、従来どおりのIPOが活発に行われたことなどを受けて、SPACは近年まで影の薄い存在となっていました。

そしてコロナ禍下の現在、IPO計画が破綻・頓挫するケースが増え、あらためてSPACが注目されるようになったのです。しかも、2020年7月~9月のアメリカのIPO市場で調達された630億ドル(約6兆6,000億円)の約半分がSPACによるもので、一気に注目度が高まりました。

SPAC投資が注目を集めている3つの理由

SPACそのものの存在だけでなく、SPACへの投資についても当然関心が高まっています。その背景として、3つのポイントが挙げられます。

ポイント1:少額の資金で未公開株式取引に参加できる

未公開会社の買収を目的とするSPACへ投資することで、実質的に「未公開株式(プライベート・エクイティ)」の取引に参加することができます。相応のリスクはありますが、今後の成長が見込まれる未公開会社に投資をすることで、将来的に高いリターンが期待できます。

通常、未公開株式は公開市場に流通しないため、未公開株式に投資したい場合は「プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)」に投資する必要があります。PEファンドは、大口の機関投資家や個人投資家から私募で資金調達をすることが一般的であるため、誰でも投資できるというわけではありません。一方、上場会社であるSPACに投資をすることで比較的容易に未公開株式取引に参加することができます。

ポイント2:上場株式であるため公開市場で売却可能

未公開株式へ少額で投資する方法としては、「株式投資型クラウドファンディング」も考えられます。しかし、一般的な株式投資と異なり公開市場で自由に売却することができない未公開株式は、現金化することが難しいという側面があります。

SPAC投資の場合、投資対象は未公開会社であっても、保有するのは上場済みのSPACの株式であるため、株式を市場で売却できるのが大きな魅力となっています。

ポイント3:投資家保護のための規定が設けられている

SPACの目的は未公開会社の買収ですが、その多くは上場後に買収の宣言をしてから24ヵ月以内に買収を完了させなければならないといった「買収期限」を明示しています。また、調達した資金の9割以上を信託し、SPACの経営陣による資金の濫用を防ぐような仕組みも設けられています。

このように投資家保護の規定があることもSPAC投資が注目を集めている理由です。つまり、投資したお金を回収できる可能性が比較的高く、たとえ未公開会社の買収に失敗しても、投資した資金は投資家に返還されるルールを設けている場合が多いようです。

著名なSPACの事例。トヨタやテスラが採用する先端企業

SPACの事例として、著名な会社を紹介します。2021年、トヨタ自動車も採用する3DプリンターメーカーのMarkforgedが、SPACのOneと合併して上場するプランを発表しました。合併後の時価総額は、21億ドル(約2,240億円)になると予想されています。

Markforgedは、カーボンと金属を使用する産業用プリンターを製造している会社で、Oneとの合併で4億ドルの現金を調達することが可能となります。その資金は、新製品や新たなユースケースの開発に活用されるようです。

同社は、2018年に『フォーブス』誌の「次世代スタートアップ企業(Next billion-dollar startups)」に選出されている先端企業で、NASA(米航空宇宙局)やトヨタ自動車、ポルシェ、ボッシュ、テスラ、米空軍など、世界を代表する企業や組織が顧客に名を連ねています。SPAC経由で、こうした有望な未公開会社の投資に参加できるのは、非常に魅力的です。

日本におけるSPAC、ソフトバンクの活発な動き

日本の市場では、SPACは認められていません。しかし、ソフトバンクグループが2020年末、米証券市場でSPACを設立し、今年もさらに2社新設しています。こうした動きが活発になれば、日本でもいずれ認められる可能性は高いと言えるでしょう

日本も従来の上場プロセスが複雑なため、もしSPACが認められたら、IPOを目指す企業の視点、投資家の視点、両面から大きなブームが起きると考えられます。有望だが資金不足のために成長が妨げられている日本企業に大きなチャンスをもたらし、日本経済が活性化することでしょう。

SPACは新たな投資先として魅力的

今後の課題は、一過性のブームに終わらせず、失敗事例なども教訓に投資家も知見を深めて、SPAC市場をいかに成熟させていけるかが鍵となるでしょう。

失敗事例として、ニコラのSPAC上場が挙げられます。2020年、二酸化炭素を排出しない大型トラックの開発事業を進めるニコラという会社が、SPACを活用してナスダックに上場しました。一時期は株価が90ドル以上の値を付け、時価総額は3兆円にも上りました。その後、「ニコラの技術には虚偽あり」というレポートが公表され、創業者が辞任するに至り、株価は16ドルと大幅に下落したのです。

しかしながら、アメリカを中心にSPAC投資が一大ブームとなっているのは事実です。前述した通り、投資家保護のルールが設けられ、また、未公開会社への投資資金の回収が迅速にできます。新たな投資先として、富裕層を中心に注目が集まるのも明白でしょう。

日本でも昨今、米国株が人気を呼んでいるので、米証券市場経由でSPACに投資する人が増えていく可能性があります。SPACの動向について、今後も注視する必要があるでしょう。

(提供:JPRIME


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