相続によって取得した不動産(土地・建物)に自分で住んだり、賃貸物件として活用したりする予定がない場合は、売却を検討するのではないでしょうか。ただし、不動産を売却するときには税金がかかります。

相続物件の売却には税金が安くなる特例もあるため、売却する前に税金の仕組みを理解しておくことが大切です。今回は、相続物件の売却でかかる税金の種類や注意点、税金を安くする方法について解説します。

相続物件を売却するときにかかる税金の種類

相続物件を売却するときはどんな税金がかかる?注意点や節税方法を解説
(画像=Pixelbliss/stock.adobe.com)

相続物件の売却でかかる主な税金は、「登録免許税」「印紙税」「譲渡所得税」の3つです。まずは、それぞれの特徴を確認しておきましょう。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の登記手続きを行う際に国に納める税金です。相続した不動産の名義が被相続人のままでは売却できないため、所有権移転登記を行う必要があります。例えば、父親が亡くなって子が実家を相続する場合、所有権を父親から子に移転します。

相続物件の場合、登録免許税は「不動産価格×0.4%」で計算します。不動産価格は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳の価格(固定資産税評価額)です。

登記手続きは司法書士に代行してもらえるので、相続物件の売却を依頼する不動産会社に相談してみましょう。

印紙税

相続物件を売却するときは、不動産売買契約書に収入印紙を貼る必要があります。不動産の売却でかかる印紙税額は、以下のとおりです。

契約金額税額(本則)軽減税額(2022年3月31日まで)
100万円超500万円以下2,000円1,000円
500万円超1,000万円以下1万円5,000円
1,000万円超5,000万円以下2万円1万円
5,000万円超1億円以下6万円3万円
1億円超5億円以下10万円6万円

契約金額が高くなるほど、印紙税額も高くなります。なお、2014年4月1日~2022年3月31日に作成される契約書については、印紙税額が軽減されます。

譲渡所得税

譲渡所得税は、土地や建物を売却したときに生じる利益(譲渡所得)にかかる税金です。相続物件を売却して利益が出た場合は、その利益に対して課税されます。譲渡所得の計算式は、以下のとおりです。

譲渡所得=売却金額-(取得費+譲渡費用)

譲渡所得は、相続物件の売却金額から売却する物件の取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。譲渡費用とは売却時にかかる費用のことで、仲介手数料や建物の取り壊し費用などが該当します。

譲渡所得税は、譲渡所得に一定の税率をかけて計算します。譲渡所得がマイナスの場合、譲渡所得税はかかりません。

譲渡所得税は分離課税に該当するため、他の所得(給与所得など)と切り離して計算しますが、確定申告は他の所得と一緒に行います。

相続物件の譲渡所得税を計算するときの注意点

相続物件の譲渡所得税を計算するときは、以下のことに注意してください。

取得費の計算方法

取得費とは、売却する相続物件(土地・建物)を取得するためにかかった費用のことです。具体的な金額は、以下のとおりです。

  • 土地:買い入れたときの代金や手数料などの合計額
  • 建物:買い入れたときの代金などの合計額から所有期間中の減価償却費を差し引いた額

相続物件の場合、被相続人が土地や建物を買い入れたときの代金や手数料などをもとに、取得費を計算します。建物は、購入代金から所有期間中の減価償却費を差し引く必要があるので、注意が必要です。相続時に相続人が支払った登記費用や、不動産取得税も取得費に含まれます。

取得費がわからないときはどうする?

相続物件の場合、土地や建物を取得したときの資料が見つからず、取得費を計算できないこともあるでしょう。取得費がわからない場合は、売却金額の5%相当額を取得費とみなして譲渡所得を計算できます。

例えば相続物件を3,000万円で売却する場合、取得費が不明であれば150万円(3,000万円×5%)を取得費とすることが可能です。

相続物件の所有期間の判定

譲渡所得税を計算するときは、相続物件の所有期間に応じて以下の税率が適用されます。

  • 所有期間が5年以下:短期譲渡所得(税率39%)
  • 所有期間が5年超:長期譲渡所得(税率20%) ※別途復興特別所得税がかかる

土地や建物を売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年を超える場合は「長期譲渡所得」になります。

相続物件の場合は、被相続人の取得時期がそのまま相続人に引き継がれます。そのため、被相続人の取得日を基準に、短期譲渡所得か長期譲渡所得かを判定します。相続開始日が基準ではないので、注意が必要です。

相続物件を売却するときの税金を安くする方法

相続物件を売却するとき、一定の条件を満たすと税金が安くなる特例が適用されます。少しでも税金の負担を減らすために、特例が利用できるかどうか確認しておきましょう。

取得費加算の特例

取得費加算の特例は、相続によって取得した土地や建物を相続開始から3年10ヵ月以内に売却すると、相続物件にかかる相続税を取得費に加算できる特例です。負担した相続税の一部を取得費に加算できれば譲渡所得が減るため、結果的に譲渡所得税が軽減されます。

取得費加算の特例を受けるための要件は、以下のとおりです。

  • 相続により物件を取得していること
  • 取得した物件に相続税が課されていること
  • 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年以内に相続物件を売却していること

取得費加算の特例を受けるためには、確定申告が必要です。後述する「相続空き家の3,000万円特別控除」との併用は認められず、選択適用となります。

居住用財産の3,000万円特別控除(相続人も住んでいる場合)

相続によって取得した被相続人の居住用家屋(相続人も住んでいる)を売却する場合は、「居住用財産の3,000万円特別控除」が適用されます。一定の条件を満たすと譲渡所得から3,000万円まで控除できるため、譲渡所得税の負担を大幅に軽減できます。

適用要件は、自分が住んでいる家屋を売却することです。以前住んでいた家屋を売却する場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。所有期間を問わず適用され、取得費加算の特例との併用も可能です。

居住用財産の3,000万円特別控除の適用を受けるには、譲渡所得の内訳書などの必要書類を添えて確定申告を行います。

相続空き家の3,000万円特別控除(相続人は住んでいなかった場合)

相続によって取得した被相続人の居住用家屋(相続人は住んでいなかった)を2023年12月31日までに売却し、一定の条件を満たす場合は「相続空き家の3,000万円特別控除」が適用されます。譲渡所得から3,000万円まで控除できるため、譲渡所得税の負担を大幅に軽減できます。

相続空き家の3,000万円特別控除の主な適用要件は、以下のとおりです。

  • 1981年5月31日以前に建築されたこと
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと(マンションは対象外)
  • 相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと

建築年に条件があることと、マンションは適用対象外であることに注意が必要です。被相続人が老人ホームなどに入居していた場合は、相続開始の直前に被相続人が住んでいなくても適用される可能性があります。こちらは取得費加算の特例との併用は認められず、選択適用です。

相続空き家の3,000万円特別控除の適用を受けるには、必要書類を添えて確定申告を行う必要があります。

相続物件を売却する前に税金について理解しておこう

相続物件の売却時にかかる税金について理解しておけば、税負担を軽減できる可能性があります。特に、譲渡所得税には譲渡所得が減額される特例があるため、適用要件を満たすかどうかについて確認しておくことが大切です。自分で判断することが難しい場合は、税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。

(提供:YANUSY

【あなたにオススメ YANUSY】
「財産債務調書」を提出している人は財産が○億円以上!
ポスト港区!? 次に富裕層が住み始めるセレブ区はここだ!
【特集#04】こんな領収証ならバレない?私的支出を経費にしたときのペナルティ
固定資産税の過払いが頻発…還付を受けるための3つのポイント
資産運用としての不動産投資の位置づけ