世界中でGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)の租税回避への批判の声が高まる中、AmazonとAppleがEU(欧州連合)の追徴課税を巡る裁判で勝利した。GAFAの封じ込めに2連敗した事実は、EUのみならず「世界の公正な税制の在り方」に大きな波紋を投げかけている。年間総額46兆円以上とされる多国籍企業の租税回避を阻止することは、果たして可能なのだろうか。
GAFAの封じ込め2連敗 最高裁に上訴か?
2017年、GAFA の封じ込めに乗り出したEU委員会は、Amazonに2億5,000万ユーロ(約332億1,135万円)の追加徴税を払うよう命じた。EU側の主張によると、同社は利益の大部分をルクセンブルクの課税対象であるAmazon EUから、課税対象外であるAmazon Europe Holding Technologiesに移行させることで課税所得を大幅に減らし、ルクセンブルク政府はこれを承認していた。「ルクセンブルク政府から国家補助に該当する違法な税優遇措置を受けた結果、利益のほぼ4分の3が非課税対象となっていた」という。
しかし、欧州第一審裁判所は2021年5月12日、「Amazonの欧州子会社に過度な税負担減額があったと立証する法的根拠を、EU委員会は示せなかった」として、EU委員会の主張を無効とする判決を下した。EUにとっては、130億ユーロ(約1兆7,269億円)の追加徴税を巡り争ったAppleに続く敗訴である。
Appleのケースでは、同社が2003~2014年にわたり欧州本社のあるアイルランドに納めた税金が不十分であったとし、EUが2016年に追加徴税の支払いを命じた。これに対して欧州第一審裁判所は2020年7月、EUの要求を退けた。
GAFAの封じ込め2連敗は、多国籍企業の租税回避撲滅に向けた取り組みに大きな打撃となるが、EUは引き続き争う構えだ。すでにAppleとの訴訟を欧州司法裁判所(ECJ)に上訴しており、Amazonにも同様の措置をとることが予想される。
なぜ売上高6兆円で法人税ゼロなのか?
AmazonやAppleは判決を歓迎し、不正のあった事実を真っ向から否定しているが、GAFAを筆頭とする多国籍企業の過度な税逃れは、経済協力開発機構(OECD)が改革に乗り出すなど国際問題に発展している。裁判の結果は、本当に公平と言えるのだろうか。
英ガーディアン紙の調査によると、Amazonは2020年、欧州で440億ユーロ(約5兆8,450億円)の売上高を上げたにも関わらず、法人税を一銭も支払っていないのは、「ルクセンブルク部門で12億ユーロ(約1593億5,326万円)の損失を出した」ことが理由だという。ルクセンブルグ部門の雇用者数がわずか5,000人余りで、新型コロナによる大規模なロックダウンで売上が急増したことなどを考慮すると、この巨額の損失計上は腑に落ちない。
さらに不可解なことに、ルクセンブルク政府はAmazonに将来の納税額から直接減額できる5,600万ユーロ(約74億3,909万円)の税額控除を付与しており、同社は27億ユーロ(約3,586億5,655万円)相当の繰越欠損金を計上している。どうひいき目に見ても、「特別扱いは受けていない」というAmazonの主張は説得力に欠ける。
一方、Appleのアイルランドにある子会社の2012年の売上高は20億ドル(約2,179億4,365万円)を記録したが、「課税対象となったのは約5,000万ユーロ(約66億3,134万円)のみだった」とEU委員会は指摘している。
AmazonやAppleの例は氷山の一角だ。GAFAやMicrosoft、Uber、Starbucks、British American Tabaccoなど、さまざまな手段で過剰な減税の仕組みを作りあげている多国籍企業は後を絶たない。公正な税制を追究するための欧州組織Tax Justice Networkは、多国籍企業の租税回避による世界の損失は年間4,270億ドル(約46兆5,289億円)以上で、そのうち1,549億ドル(約16兆8,790億円)がEU圏での損失だと推定している。
ブラックリストに載っていない「隠れタックスヘイブン」
租税回避で重要な役割を果たしているのが、タックスヘイブン(租税回避地)や軽税率国の存在だ。タックスヘイブンというとパナマやケイマン諸島などが真っ先に思い浮かぶが、EU圏内にもブラックリストに載っていない「隠れタックスヘイブン・軽税率国」がある。
非営利団体Oxfamの調査によると、ブラックリスト国と判定されているのはわずか一握りで、法人税率ゼロの13ヵ国のうち2ヵ国、軽税率(12.5%以下)の18ヵ国のうち1ヵ国しかない。ルクセンブルクとアイルランドも、タックスヘイブンや軽税率国に匹敵するオフショア構造を有している。
「GAFA税」も効果なし
EUによる多国籍企業の租税回避阻止に向けた取り組みの一つが、英国、フランス、イタリア、スペインなどが導入した、「GAFA税」と呼ばれるデジタルサービス税だ。所得税とは異なり、租税条約等の制約を受けずに国内で課税できるため、税率の高いA国で得た利益を税率の低いB国で納めるといった租税回避の上等手段が通用しない。
ところが、せっかくの有益なアイデアも、期待されたほどの効果を上げていない。GAFA税の対象となったAmazonやGoogle、Appleが徴税に同意する一方で、税金のコストを消費者や顧客などに転嫁させるという反撃に出たためだ。GAFA税が引き上げられるほど消費者や顧客に皺寄せが行くが、GAFAにとっては痛くも痒くもない。その一方で、各国が独自のGAFA税を導入することにより、多国籍企業の税務が複雑化しているとの指摘もある。
現在、このような問題の解決に向けて、OECDがデジタル経済の国際的な課税構造の改革に取り組んでいるが、課題は山積みだ。多国籍の租税回避を撲滅し税制の不平等をなくすためには、世界各国が一丸となって税法を抜本的かつ徹底的に見直す必要があるだろう。また、GAFAのようなメガIT企業には、税制のみならず消費者のプライバシー保護や独占禁止など、より包括的な視野に立った改革が求められる。
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)
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