日経平均株価は5月11日から13日の3日間で2070円の急落となった。この急落については「インフレ懸念による米国相場の下落」が主な要因とされたが、別の要因を指摘する声も聞かれる。相場に浮上した新たなリスクとは何か。ここではそのリスクに加え、日本の商社株の買い増し観測が出ているウォーレン・バフェットの動向について述べていきたい。
100兆円以上を運用する政府系ファンドも
日経平均株価は5月10日の終値2万9518円から13日の終値2万7448円まで2070円の下落となった。率にするとおよそ7%。この程度の調整は株式相場ではよく見られるシーンだ。その後はジリ高歩調となっており、いまのところ「コロナ相場の終焉」などという悲観論が噴出するレベルには至っていない。
相場概況欄では、この急落の要因について「銅などの商品市況の上昇の影響により米国でインフレ懸念が浮上し、それによって米国相場が急落した」などと説明されている。もっとも、11日に関しては米国より日本の株式相場の方が先行して下げているので、11日の日本市場の急落については説明できていない。とはいえ、4月の半ば頃から銅や小麦粉などの商品価格が急騰しているのは事実であり、米国のインフレが相場のリスク要因になりつつあることは確かだ。
この5月の世界的な相場下落局面について、全く別の視点による要因が一部で指摘されている。それは「政府系ファンドによる換金売り」。政府系ファンドとはSWF(Sovereign Wealth Fund)とも呼ばれ、文字通り公的資金を原資とするファンドだ。代表的なところでは、ノルウェーの「政府年金基金」やUAEの「アブダビ投資庁」、中国の「中国投資有限責任公司」、シンガポールの「テマセク・ホールディングス」などが挙げられる。基本的には、原油などの資源から得られる外貨を運用するための公的なファンドだ。独立行政法人である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も政府系ファンドのひとつに数えられることもある(政府系ファンドの定義はややあいまいである)。
政府系ファンドの歴史は割と古く、1950年代に中東のクウェートによって設立されたのが第1号とされる。前述のアブダビ投資庁が設立されたのは1970年代半ばだ。驚くべきはその運用総額の規模である。トップは日本のGPIFで、運用総額は177兆7030億円(2020年12月末時点)。少し時期はズレるが、第2位はノルウェーの政府年金基金で、運用総額は約144兆円(2021年3月末時点)となっている。ちなみに、相場が急落すると一部メディアが「年金を運用しているGPIFの資産が何兆円減った」などと報じているのを度々目にするが、2001年度以降、GPIFは相場の長期上昇によって約85兆円の収益を積み上げている。
日本のGPIFはともかく、これだけ規模が大きいにも関わらず、日本国内で世界の政府系ファンドの動向があまり報じられないのは、具体的な投資先などの詳細が明らかにされていないためだろう。政府の息がかかったファンドによる投資情報は国家機密であり、それが明らかになってしまうと政治上の混乱を招く恐れもあるから仕方のないことだ。
今後も株高局面では換金売りのリスクが台頭
ではなぜ、これらの政府系ファンドによる換金売りがリスクと目されるようになったのか。