本記事は、片山智弘氏の著書『事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書』(大学教育出版)の中から一部を抜粋・編集しています
デジタルとアナログ、最大の違いは空間の違い
まずは「デジタル」という言葉の意味について考えていきたいと思います。やや漠然とした質問になりますが、皆さんは「デジタルってなんですか?」と聞かれたら、何と答えますか?本書でも「デジタル」という単語がここまででも相当な数で登場していますが、実はなんとなくはわかっていても深く考えてみたことがない人は多いのではないでしょうか。
辞書では「情報を0と1の数字の組み合わせ、あるいは、オンとオフで扱う方式。数値、文字、音声、画像などあらゆる物理的な量や状態をデジタルで表現できる。対義語はアナログ。アナログ信号をデジタルのデータに変換することをデジタイズという。(ASCIIデジタル用語辞典)」と書かれています。
この意味に対して何か異議を申し立てることはありませんが、筆者は、「デジタル」の意味は「情報が存在する空間を変えて制約を取ること」だと考えています。今、私たちがいる空間(仮称:リアル空間)と違うところに、パソコンの中なり、デバイスなり、クラウドのメモリなり、情報が入るデジタル空間(仮称)があって、その中では違うメソドロジーで情報が入れるようになっていて、それを出力したものをリアル空間からデバイスの画面や印刷物などに戻してみている、というようなとらえ方をしています(図1–4)。
たまたま、その情報空間内の情報を書いておくメソドロジーが0と1になっているのだと考えています。しかし、今後も0と1という2進数だけでそのデジタル情報が表されるかどうかはわからないわけです。情報の量の制約もデジタルでは取れていきます。
例えば、書籍は紙の枚数分の体積が必要ですが、Kindleなどの電子タブレットの中の電子本棚というデジタル空間には、そのデバイスの容量や格納のメソドロジーに沿って、本棚何個分もの情報をいれて画面から読むことができます。
Webのニュースメディアも全て記事を紙にしたらとんでもない枚数になりますが、インターネットという電子空間から場所をURLというメソドロジーで特定して、スマートフォンの画面かパソコンの画面から読みだしているわけです(図1–5)。
これらの例は、もともと私たちがいる空間が持てる情報の制限や制約をはるかに超えていて、違うメソドロジーで情報を読みだして表示しているともいえるでしょう。流れとして共通しているのは、ある情報を「入力」されて、その情報が「変換や計算・保存」されたものが、私たちが見れるように「出力」されているという流れです。例えば人がSNS で投稿したデータが入力され、その動画やアカウントにアップされたデータを最後にエンドユーザーが「出力」されているのを見ること、それが空間を行き来するということにほかならないわけです。
広辞苑第7版でも先述と同様にデジタルを調べると、「デジタル【digital】ある量またはデータを、有限桁の数字列(例えば二進数)として表現すること」と書かれています。この定義も、ある量やデータはそのままアナログな私たちのいる空間では、急に2進数にならないので、誰かがそれをデジタル空間へ入力して2進数に変え、それを演算した結果を見える形で出力して表現しているということです。この辞書的な定義も今のデジタル空間の計算式が0と1をメソドロジーにしているのでこのように書かれているだけで、その文法や表示規則が変われば、意味が変わると考えています。
今、筆者が原稿を打っているパソコンの中と筆者の脳内、それを出力している紙面、本書を読んでくれている読者の皆さんの脳内は、違う情報空間だということです。その情報を保存・管理・表示できる空間的な制約をクリアすることが「デジタル」であるということです。
今は脳で考えている情報は脳の神経細胞の中にしか格納されていないので、その情報の制約の中でしか動いていないので脳は「デジタル」だとは言えませんが、ブレインマシーンインタフェース(脳の動作に応じて動くまたは脳へ電気信号で直接指示を送るシステム)が開発されると脳で考えたことをそのまま出力して違う情報空間へ変換して表示できるようになるので、脳からデジタル空間に出されるのを、それを格納するPC空間上に格納できるようになって、初めてデジタル化したということになるのです。情報が入っている場所は違う空間同士ではわからないわけです。
昨今のバイオテクノロジーの発展でゲノムに一定の情報を格納して保存する技術がありますが、それは前述の定義に沿っていえば情報の表示出し入れや格納ができているので空間の制約を変えていく行為のため「デジタル」であるといえます。デジタル情報を保存するデバイスがスマートフォンやパソコンに刺すUSBやインターネット上のクラウド空間ではなく、生物の細胞になったというだけという考え方です。
デジタルの性質を非常にうまく活かした技術およびそれで包含しているサービス総称して「デジタルテクノロジー」と本書では読んでいます。デジタルテクノロジーを考える上でもこの「入力」⇒「計算」⇒「出力」という一連の流れが全てにある、ということが重要なポイントになります。
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