本記事は、片山智弘氏の著書『事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書』(大学教育出版)の中から一部を抜粋・編集しています

UXとは何か?

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(画像=jpanudda/PIXTA)

まずUXを考えていくにあたって、「デジタル」の定義について述べたのと同様に、まずUXとは何かについて考えてみましょう。

UXの意味は現在も議論されて続けていて、様々な人がその意味を定義していますし、方法論も多数生まれています。UXはISO(国際標準化機構、International Organization for Standardization)が「製品、システム、サービスの利用および予期された利用のどちらかまたは両方の帰結としての人の知覚と反応」と定義しており、過去にすでに定義付けを行っていますが、ISOの意味だけではなく、現在でも新しい定義が出続けるくらい様々な解釈や意味付けが必要になる言葉です。

本書の場合、他の項目では、すでに一般化されたものがある際には詳細の部分は他書にゆだねていますが、UXに関しては、この解釈を損なうとデジタルテクノロジーを全く正しく評価できなくなってしまうくらい大きな変数であるため、ここでは筆者の行っている定義をご紹介してやり方も詳しくご紹介していこうと思います。

UXの意味付けは狭義の意味と広義の意味に分かれています(図3–1)。

3-1
(画像=『事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書』より)

まず、狭義の意味では、単純にユーザーエクスペリエンスの略語から考えて、「サービスセッションの一連の体験から得られる印象や雰囲気、価値、総称」という形で、丁寧に言い直したものがそのまま定義になることが一般的です。辞書やISOの標準的な標記でもそういった書き方になっていると思います。

しかし、そのUXが扱い、影響を与えていく対象をより広義的に規定していくと、UXを体験するエンドユーザーと提供している主体者にどちらも期待している内容であること、そしてそれがサービスを受ける事前と事後での変化こそがUXを考える上で重要であるという観点を入れること、が定義の拡大にはあげられます。

ISOの国際基準ですら検索エンジンがトップに出さないで誤認するくらい議論が分かれています。それほどに、この定義は揺れていて非常に難しいものなのです。

このように、関係者のサービスにおける前後の期待値変化まで体験の中で変わるということを考えると、一連の体験活動というだけではなく様々な経済的な意味付けを持った言葉になっていることが改めてわかると思います。

デジタルテクノロジーではありませんが、UXの違いをよくチョコレートの例に出して説明をします。

材料はほぼ同じカカオ濃度の「ビターなチョコレート」を1つ考えてみても、お得でたくさん入っていて家族や業務用に大量に出したいときのチョコレートと、カカオたっぷりの健康志向を謳うチョコレートと、有名ブランドのパッケージを強調して王道感を出したいチョコレートも、高級な紅茶などと合わせてラグジュアリーな空間で楽しむチョコレートも、仮に材料はかなり似ていても、そのパッケージデザインや売り場での置かれ方、価格や形状、広告のされ方まで全然違うものになることが簡単に想像できると思います。

UXが違うということは、そういうサービスやプロダクト全体に関わる体験を理解するということなのです。

テクノロジーとして優れているかどうかや構造としてどのような仕組みになっているのかを前章の構造マップやビジネスモデル、メリットを見て概略をつかむことで理解することができます。しかし、その個々の体験を紐解くUXについてこの広義的な解釈をベースに、本書ではUXを考えてデジタルテクノロジーの評価・分析に充てています。

事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書
片山智弘(かたやま・ともひろ)
株式会社電通事業共創局シニア・ビジネス・ブロデューサー。株式会社セガエックスディー取締役執行役員CSO。1987年、東京都生まれ。2010年、慶應義塾大学理工学部卒業後、慶應義塾大学大学院在学中に就職活動の採用試験を練習するイーラーニングサービスで起業。2年間経営後にサイトM&Aで売却。2012年、大学院修了と共に株式会社電通へ入社。電通入社後は、一貫して新規事業部署に所属。デジタルテクノロジーおよびビジネスメソドロジーを活かした様々な事業開発を歴任。並行して、オープンイノベーションによる協業推進の責任者や、デジタル環境戦略とUXに関するアドバイザリー業務も実施。2019年7月より、セガ エックスディーへの合並会社としての電通の資本参画を契機に取締役を兼任。

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