本記事は、片山智弘氏の著書『事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書』(大学教育出版)の中から一部を抜粋・編集しています

UI/UXを見ていく上で最も重要なポイント

ポイント
(画像=タカス/PIXTA)

読者の皆さんはこのUI/UXの設計過程でデジタルテクノロジーの評価/分析という観点で優先順位を付けるとしたら、どれが一番大事だと思いますか。

デジタルテクノロジーを見る上では全部大事ではありますが、実は評価・分析観点では、このアイデアが正しく実装されて体現されているのかが最も重要です。

念のため補足をしておくと、提携する組み先や自分が行っていく事業としてそのサービスを考えていく場合は、UX以外の安定性や蓋然性の高さがあるかどうかといった違うポイントも見ていきますし、この後でもご紹介していくそのほかの観点からNGになるものは多々あります。

実際に社会を変えるレベルのサービスは最初のアイデアが尖っているものが多く、特にWhyの部分で標榜しているビジョンが大きいものや高いエンタテインメント性をもっているものが多数を占めています。最初のサービスが事業として目指していくスケール感やなぜ使うのかという意識付けが大きいからです。

世界的な検索エンジンを提供するGoogleも検索エンジンのアイデアは「世界の情報を束ねられて、いつでもアクセスできる」ということで、今はないことが考えにくいものになっていますが、そもそものWhyの部分を最初から世界全体の視野で一番に考えて実装したということがすごいのです。UI/UXでは、シンプルなインターフェースやブラウザの規定の検索エンジンに最初からなっているので、アクセスするフローを激減させたことなどももちろん優れてはいますが、それはアイデアに対する枝葉の評価でしょう。

デジタルテクノロジーではないのですが、他の例でいえば、飲料のコカ・コーラを例に説明するとわかりやすいかもしれません。コカ・コーラは全世界で売られている世界を代表する飲み物の1つになっていますが、「炭酸に砂糖を入れて飲んだら美味しい上で、スカッとする体験がある飲み物がいい」と創業メンバーが思いついたからコーラが生まれたわけです。

ここで間違えてはいけないポイントとしては、アイデアよりも、検証回数や最初の事業機会の発見が非常に重要になります。あくまで「アウトプットされて世に出ているデジタルテクノロジーを評価・分析するときにはアイデアの実装が最も大事になる」ということには注意が必要です。実際に事業を作るときにはアイデアを思いつくこと自体は重要ではなく、それが評価できる形で出てきたときにUI/UXでそれが体現されていることが大切になるのです。

どういうことかといいますと、先ほどのコカ・コーラの例でも「砂糖水に炭酸入れたらおいしいのではないか」「気分をあげてすっきりしたいときに飲めるお酒ではない甘い飲み物が欲しい」というニーズや発想まではできても、それがコカ・コーラとして実装することができないわけです。Googleと同じ検索エンジンを事業として思いついた人はGoogle以外にも多数いたはずです。

USBメモリというデジタルテクノロジーを考えてみても「フロッピーディスク1,000枚分の情報を入れるデバイス」を思いつく人はいても、実際にそれを実装してUSBポートというものを活用してパソコンに入れて標準化させ、「USBデバイス」として、数千円で販売できるかどうかというと、そうではないということです。

これも非常に有名な話でアップル社の元CEO故スティーブ・ジョブズによるiPhoneのプレゼンテーションがあります。エンドユーザーはスマホのタッチパネルが邪魔で、iPadと電話とコンテンツが全部1つになったらよいということまでは考えついたとしても、それをあの形で実装してタッチパネルですべて提供できるものを作ったことが素晴らしいのです。

参考動画はYouTubeなど、インターネット上に多数上がっていますのでぜひ見てみてください。思いつくよりも実装することのほうが難しいので、実装されたデジタルテクノロジーを見たときにも、そのアイデアが尖っているようなサービスはそのマーケット自体を席巻する可能性があるということです。

優れたアイデアが実装されているということが、デジタルテクノロジーの評価・分析をしていく上でも大きなポイントになるということは覚えておきましょう。

その他の時点で重要なポイントは優れたデジタルサービスであるほど、「キーになる課題仮説」と「インターフェース」が革新的なことも多いです。前記のUSBメモリで考えてみても、キーになる課題仮説として「動画が見たい」とか「綺麗なグラフィックのパワポを作りたい」というのがあるかもしれませんし、フロッピーディスクと異なる壊れにくい仕組みやUSB端子を使って動かすインターフェースもポイントになっているわけです。普及するデジタルテクノロジーは素晴らしいことが簡単に説明できます。

事業成長につなげるデジタルテクノロジーの教科書
片山智弘(かたやま・ともひろ)
株式会社電通事業共創局シニア・ビジネス・ブロデューサー。株式会社セガエックスディー取締役執行役員CSO。1987年、東京都生まれ。2010年、慶應義塾大学理工学部卒業後、慶應義塾大学大学院在学中に就職活動の採用試験を練習するイーラーニングサービスで起業。2年間経営後にサイトM&Aで売却。2012年、大学院修了と共に株式会社電通へ入社。電通入社後は、一貫して新規事業部署に所属。デジタルテクノロジーおよびビジネスメソドロジーを活かした様々な事業開発を歴任。並行して、オープンイノベーションによる協業推進の責任者や、デジタル環境戦略とUXに関するアドバイザリー業務も実施。2019年7月より、セガ エックスディーへの合並会社としての電通の資本参画を契機に取締役を兼任。

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