孫正義氏率いるソフトバンクグループ(SBG)が2021年3月期の通期決算(2020年4月~2021年3月)において、約5兆円の最終利益を計上した。国内で史上最高の数字だ。一方でこの5兆円という利益は、世界的にはすごいのかどうなのか。考察してみよう。
そもそもソフトバンクグループとは?
ソフトバンクグループの決算について考察する前に、同社の概要について少し説明しておこう。
「SoftBank」と聞けば「通信会社」というイメージを強く持つ人も多いと思うが、通信事業を行っているのは「ソフトバンク株式会社」であり、「ソフトバンクグループ株式会社」ではない。今回4兆9,000億円の利益を1期で残したのは、ソフトバンクグループ株式会社の方だ。
では、ソフトバンクグループの主な事業は何かというと、「投資」である。ソフトバンクビジョンファンドという巨大ファンドを組成し、世界の有望なユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)やスタートアップ企業に投資している。
投資先の企業の株式を取得し、その企業が上場したり、上場後に株価が上がったりすれば、大きな利益を得ることとなる。この投資事業で、ソフトバンクグループは他社より良い成果を残している。その理由は、孫氏の有望企業を見抜く力が大きいからだろう。
世界企業の利益ランキングと比較してみると?
このことを理解した上で、ソフトバンクグループの2021年3月期の通期決算の話に戻るが、最終損益は4兆9,879億6,200万円だった。これまでの日本国内における純利益の最高額は、トヨタ自動車が2018年3月期に残した2兆4,939億円で、そのほぼ2倍の純利益を計上した。
このことは、ソフトバンクグループが投資会社として大きな成功を収めたことを数字面で証明したと言えよう。2020年4月から2021年3月にかけては世界的な金融緩和で株高が進み、ソフトバンクグループの持ち株の含み益が大きく上昇したことも好決算に結びついた。
では本題に戻ろう。4兆9,000億円という1期での純利益は、世界的にみてすごいのか、またはそうでもないのか。結論から言うと、すごい。米経済誌フォーチュンの世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」の2020年版における利益ランキングと比較してみよう。
<フォーチュン・グローバル500における利益ランキング(2020年版)>
このランキングにソフトバンクグループの2021年3月期の純利益をあてはめてみよう。
4兆9,879億円を1ドル110円でドル換算すると、約453億4,400万ドルだ。つまり、ソフトバンクグループは米アップルに次いで第4位に割って入り、米マイクロソフトやGoogleの親会社である米アルファベットを抜いていることが分かる。
このランキングのトップ10には入っていないが、米アマゾンや米フェイスブック、中国のアリババなどよりも当然、ソフトバンクグループの利益は大きいという結果だ。
孫氏は2021年3月期の決算発表の場で、「やっと純利益も、1兆2兆と数えられる規模になったんだなぁ、ということであります」と自信を見せた。
「神様」に近づきつつある孫正義氏
このように、ソフトバンクグループの純利益は世界の名だたる企業と肩を並べる規模になったが、だからといって今期もソフトバンクグループが巨額の黒字を残せるとは限らない点も理解しておきたい。
ソフトバンクグループの業績は、世界の株式マーケットの相場状況に大きく影響を受ける。リーマンショックやコロナショックのような経済危機によって、相場全体が強い下落トレンドに入れば、ソフトバンクグループの最終損益が赤字に転落することもあり得るわけだ。
そしてもう1点、ソフトバンクグループが世界4位に割って入る純利益を残しているとしても、まだ世界最高の投資会社とは言えない点も知っておきたい。
先ほどのランキングの2位には「バークシャー・ハサウェイ」という社名がある。この企業は、「投資の神様」と言われるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社で、現時点でソフトバンクグループはバークシャー・ハサウェイにまだ及ばない。
しかし、「神様」が射程圏内に入っていることも確かだ。今期決算、そして次期決算では逆転はあり得るのか、気になるところだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)
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