毎年6月になると住民税決定通知書が送られてきます。送られては来るものの、あまりよく見ずにしまってしまうという方も多いと思います。しかし住民税決定通知書をよく見ると、住民税の計算の仕方がわかり、節税をするには何がポイントか理解できるでしょう。この記事では、住民税決定通知書と節税のポイントについて解説します。
目次
住民税決定通知書とは?
住民税決定通知書とは前年1月から12月までの所得から計算した住民税の決定通知書です。給与所得者であれば毎年5月から6月の間に会社から渡され、6月から翌年5月の間に給与から引かれます。個人事業主の場合は、同時期に郵送され、通常年4回分割で支払う必要があります。また、年金生活者の場合も同時期に郵送され年金から源泉徴収されます。
通知書の見方
「なんだか難しそうで通知書の見方がわからない」という方もいるかもしれません。通知書でわかることを整理し、チェックすべきポイントを説明していきます。
住民税決定通知書を見ると何がわかるのか?
住民税決定通知書には、前年度における給与収入、給与所得等の所得に関する金額と税の支払い時期および支払金額が書かれており、それを追っていくと住民税の計算プロセスがわかるようになっています。
住民税の計算プロセスを知るためにチェックすべきポイント
住民税の計算のプロセスは、住民税決定通知書の以下のセクションに記された金額を追っていけばわかるようになっています。それでは、図表1に沿って説明していきます。
▼図表1 住民税決定通知書の見方
(1)所得
このセクションには前年の給与収入、すなわち「額面の金額」とそこから経費に相当する給与所得控除を差し引いた給与所得金額が記されています。
給与所得以外の所得がある場合には「その他の所得計」の欄にその所得金額が記入されます。
給与所得とその他の所得を加えたものが総所得金額(D)の欄に表示されます。
(2)所得控除
所得控除とは税金のかからない金額として総所得金額(D)から引き去ることができるものです。所得控除のセクションには、基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除等の全部で15種類の各種控除の項目と金額が記されています。
住民税の所得控除は、項目上は所得税と同じですが、ほとんどの項目の控除金額は所得税よりもやや小さくなっています。所得控除の合計額が、所得控除合計(F)の欄に記載されます。
(3)課税標準
所得金額から所得控除額を引いたものが課税標準です。課税所得金額とも言います。税は課税所得金額に税率をかけて計算されます。総合課税の場合は、課税標準総所得(H)の欄に記されます。
(4)税額
税額は税額(J)のセクションで示されています。住民税は市区町村税と都道府県税に分かれます。さらにそれぞれが所得割額と均等割額に分かれます。
所得割額は、市区町村民税が課税所得金額の6%、都道府県民税が4%、合計10%となっています。均等割額は課税所得金額によらず、定額で支払う税金です。
市民税の項の例をとって説明します。
課税標準総所得(H)に市民税の所得割の税率6%をかけたものが税額控除前所得割額④で、そこから、税額控除額⑤を差し引き、所得割額⑥となります。均等割額⑦は定額で記入されます。
(5)納付額(K)
ここには前年の所得に対して今年の6月から来年の5月にわたって月ごとに納めるべき税額が記されています。
節税に生かすには
通知書の見方がわかったところで、その情報をどのように節税に活かせばよいのでしょうか。
住民税決定通知書で知り得た情報をもとに節税の方針を立てる
まずは初めにすべきは節税方針を立てることです。そのためにも、まずは次のような節税対策の基本を押さえる必要があるでしょう。
(1)節税対策の基本
住民税決定通知書に記されている情報は収入、所得、所得控除、税額控除、税額、および住民税の支払期限と金額です。そのうち、節税に直接関連するのは、所得控除と税額控除です。つまり、所得控除と税額控除を大きくすることが節税につながります。
所得控除とは収入のうち、税のかからない部分です。所得控除の金額を大きくすると課税所得金額が減るので税金が減少します。
所得控除の増加額×税率=節税額と考えることができます。
税額控除は、税金から直接引くものを言います。
この場合、税額控除の増加額=節税額となります。
所得控除による節税は所得控除額に税率をかける分だけ、中身が薄く、税額控除額はそれそのものが節税額になるので中身が濃いということができます。
節税の方針を立てる場合には、所得控除や税額控除の種類を増やすこと、および今申告している所得控除や税額控除の金額を増やすことを考える必要があります。
(2)所得税の節税対策と住民税の節税対策はほぼ連動する
もう一つ知っておくべきことは、所得税の節税は、ほとんどの場合、住民税の節税になります。それは所得税と住民税の所得控除の項目は同じだからです。違うのはそれぞれの項目の控除額と税率なので、節税の対象となる所得控除の項目を新たに追加したり、それらの項目の控除額を増やした場合には、所得税、住民税ともに節税されることになります。
税額控除の場合は所得税と住民税は必ずしも連動しません。住宅ローン控除の様に、基本的に所得税から差し引くもの、ふるさと納税の様に所得税は所得控除、住民税は税額控除の組み合わせというものがあります。
節税のポイントと所得控除、税額控除における節税対策の例
イメージをつかみやすいよう、取り組みやすい節税対策の例を示してみたいと思います。
(1)所得控除に関する節税対策
所得控除に関する節税対策の基本は所得控除の金額を大きくすることです。ここでは見落としてしまいやすい費用を挙げてみたいと思います。このような条件に当てはまる方は、還付請求は費用が発生した年度から5年間は可能なので、還付申告または更正の請求をされることをお勧めします。
A) 医療費控除
A-1)見落としやすい費用
医療費控除は年間の医療費が一定額以上を超えた場合に受けられる所得控除です。医療費には様々な費用があるので、どこまでが申告の範囲かわからずに本来請求できる費用が漏れてしまう可能性があります。以下見落としやすい費用を挙げてみます。
①通院交通費
病院への交通費は「医療費」として申告可能です。遠方の病院に通っている方は年間の交通費を集計すると1万円を超えることもあるので、きちんと集計することをお勧めします。電車賃には日時、ルート、使用した手段を明記すれば、領収証は不要です。子供が診療を受ける場合の付き添い者の通院費も認められます。また、重病でタクシーを使用した場合も認められます。その場合は領収証が必要になります。
②人間ドック・健康診断の費用
人間ドック・健康診断の費用は予防を目的とするものなので原則として「医療費」とは認められません。ただし、それらにより異常が発見され、その後治療が行われた場合には、人間ドックや健康診断の費用も「医療費」として認められることがあります。
③歯科の矯正費用
美容整形のための矯正費用は「医療費」として認められませんが、子供の不正咬合の矯正費用などは治療なので「医療費」として認められます。治療は長期にわたることも多く、金額的にも大きくなる可能性があるので、領収証を取っておいて還付申告をしましょう。
A-2) 保険による補填費用
がんになったと診断された場合、診断給付金として100万円程度の多額の診断給付金が支払われるがん保険があります。通常、「医療費」からは医療保険で補填された金額は差し引いて申告する必要があります。
100万円もの診断給付金を支給されるのはよいのですが、「医療費」から100万円を引いたら医療費控除が申告できなくなると思ったことはないでしょうか?
ところが、がん保険の診断給付金は実際の治療費用を補填するものではなく、がんになったという事実に対して支払われるものなので、「医療費」から差し引く必要はありません。
もし以前に、診断給付金を受けとったために医療費控除の申告を断念した方は今からでも申告することを考えましょう
B) 生計を一にする者に対して負担した費用
生計を一にする者に対して負担した費用、例えば、医療費、社会保険料、生命保険料なども、自らの還付申告に含めることができます。
具体的には、一人暮らしをしている大学生の子供の医療費、国民年金保険料、医療保険料などが挙げられます。同居の子供に収入があっても、食費を負担している等の事実があれば、生計を一にしていると認められ、彼らの医療費、社会保険料、生命保険料等も自らの所得控除として申告することが可能になります。
C) 共稼ぎ夫婦の場合の節税対策
共稼ぎ夫婦の場合、医療費や生命保険料などは別々に申告したほうがいいのでしょうか、または、どちらかにまとめて申告したほうがいいのでしょうか?
この質問に対する回答は、夫婦のうち収入の多い方にまとめて申告すべきということになります。その場合、次の理由で節税効果が高くなります。
- 医療費控除は10万円を超える医療費(総所得金額200万円以上の場合)が対象になるため、夫婦別々に申告すると、10万円の控除枠が二重にかけられることになる。
- 収入の多い方が、所得税率が高くなるので、還付税率も増えて還付税額も増える(住民税は、税率は一律10%なのでこのようなメリットは生じない)。
(2)税額控除に関する節税対策
税額控除に関する節税対策のポイントも控除される税額を大きくすることになります。ここでは、ふるさと納税の寄付金控除と住宅ローン控除に解説します。
①ふるさと納税
ふるさと納税による節税の形態は、所得税が所得控除、住民税が税額控除という二つの控除を組み合わせたものです。
所得税の還付額(所得控除):
(ふるさと納税額―2,000円)×所得税の税率
住民税の還付額(税額控除):
(ふるさと納税額―2,000円)×(100%―所得税の税率)
所得税と住民税の還付額を合計すると、(ふるさと納税額―2,000円)の全額が納税者に還付され、納税者の自己負担は2,000円で済むということになります。
節税額を大きくしようとすれば、ふるさと納税限度額まで、ふるさと納税をすることになります。
納税限度額の計算は複雑になるので省略しますが、収入だけでなく、家族構成に応じて変わります。各自ふるさと納税サイトで確認されることをお勧めします。限度額内であれば、各地の特産物が自己負担2,000円で楽しめるということになります。
②住宅ローン控除
住宅ローン控除は、住宅を購入する際、一定の条件を満たす住宅ローンを組んだ場合、毎年住宅ローン残高の1%、ただし年間控除限度額の40万円以内が所得税から10年間にわたって税額控除されるというものです。所得税額が税額控除額に満たない場合は超過分が住民税から税額控除されます。
2019年10月1日以降から居住を開始した物件で、消費税が10%等の一定の条件を満たしたものは、控除期間が10年から13年に延長されています。住宅ローン控除の節税額を最大化するためには、13年の控除期間が受けられるように契約時期、入居期間を調整する必要があります。
また、昨今は超低金利のため、変動金利の住宅ローンは最安で年利0.4%程度で借り入れができるようになりました。住宅ローン残高の1%相当の税額控除を認められると、最大13年間は実質マイナス金利になります。そのため、自己資金があって住宅ローンを組む必要のない人がマイナス金利による利ザヤ稼ぎを狙って、住宅ローンを組むケースが出てきており、その弊害を会計検査院が指摘しています。
そのため1%の税額控除は2022年度にも見直しになる可能性があります。その前にローン契約を組みマイナス金利を勝ち取るのも、節税対策の一つということができます。
住民税から節税を考えよう
住民税決定通知書からできる節税方法を解説してきました。毎年何気なく払っている寿民税に今年は注目して、来年から節税を検討してみてはいかがでしょうか?医療費やふるさと納税は見落としがちですのでぜひとも活用してみましょう。
(提供:JPRIME)
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