日本人には馴染みのない「ファミリーオフィス」という言葉ですが、欧米では古くから超富裕者たちに、一族の財産を守り、永続的に引き継いでいく手段として活用されてきました。最近では、日本においても一部の富裕層が注目し、国内外において組成するケースも散見され、今後の選択肢のひとつとして知っておくべきしくみと言えます。

この記事では「ファミリーオフィス」の最新事情から、取り組む上で考慮すべきポイントをさまざまな観点から解説していきます。

目次

  1. ファミリーオフィスとは?
  2. なぜファミリーオフィスを選択するのか?
  3. プライベートバンキングとの違い
  4. 「想い」の継承を見据えた「家族信託」との関係
  5. 海外事情と日本のギャップ
  6. 制度の活用のまえに、想いと「向き合う」ことがポイント
  7. 長期的な視点で検討しベストな選択を

ファミリーオフィスとは?

日本の富裕層も注目!「ファミリーオフィス」の最新事情
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

「ファミリーオフィス」とは一族の永続的な繁栄を目指し、一世代の相続対策、直系にとどまらず、「ファミリー」として資産および事業を管理・運営する体制のことです。「プライベートバンキング」と類似しますが、さらに発展したサービスとしてそのファミリーに寄り添ったオリジナルな取り組みを行う点が特徴です。

その起源には諸説ありますが、6世紀ごろ、ヨーロッパの王族の資産管理が始まりと言われています。伝統ある一族が永くその名を残すことは、引き継いだ者の使命であり責任でもありました。19世紀以降に米国で誕生したロックフェラー家やカーネギー家などの存在を、耳にしたことがあるかもしれません。

ファミリーの永続的な繁栄には、所有する資産の効果的な管理と運用が不可欠です。企業オーナーでもある資産家の場合には、個人資産とともに、事業や法人の資産、および将来についても包括的に考える必要があります。また、資産には、金融資産だけでなく、人的財産・知的財産・財的財産がふくまれます。そのため、税理士・公認会計士や弁護士などの専門家がチームを組み、さまざまな観点からの実行をめざします。

なぜファミリーオフィスを選択するのか?

ファミリーオフィスの最大の目的は、適切に「資産を守る」ことです。一代で資産を築き上げた富裕者も、先代から引き継いだ富裕者も、永続的な繁栄のために最も重要視するのは、次世代へ引き継ぐことです。そのためには、投資で「殖やす」ことよりも「守る」ことに重点がおかれます。

資産家にとって気になるのは「相続税」でしょう。最高55%という日本における相続税率は、海外に比べて高いのが現状です(下図参照)。税金の納付のために資産を手放すというのも、よくある話です。これまで日本においてファミリーオフィスが発展しなかった理由として、継承の難しさという国としての環境の違いもあげられます。

▼主要国における相続税の概要(2018年1月現在)

日本アメリカイギリスドイツフランス
最低税率10%18%原則
40%
7%5%
最高税率55%40%30%
(続柄により最高50%)
45%
(続柄により最高60%)

内閣府ホームページ税制調査会2018年資料 「3.我が国と諸外国の 相続・贈与に関する税制の比較」より抜粋

なお、気になる節税ですが、決して「税逃れ」の対策ではありません。さまざまな観点からの節税は有効ですが、適切に納付すべきであることは言うまでもありません。

プライベートバンキングとの違い

富裕層の資産管理として知られる「プライベートバンキング」は、オーダーメイドの資産運用や投資アドバイスを得られることが魅力のサービスです。どちらかというと所有する資産を「殖やす」ことが目的といえます。投資アドバイザーなど金融関係の会社や専門家が関わるケースが主流です。

一方で、「ファミリーオフィス」は、金融資産だけでなく、子息の進学や社会貢献、将来に向けたブランディング戦略などをふくめ、より包括的に管理・実行することが大きな違いです。そのため、会計、財務、法律などさまざまな専門家がチームで取り組むことになります。

なお、最近では、プライベートバンキングの提供会社が、既存顧客との差別化として、直接的もしくは間接的にファミリーオフィスサービスを展開するケースも増えています。

「想い」の継承を見据えた「家族信託」との関係

近年、「家族信託(民事信託)」が、富裕層だけにとどまらず注目され、認知されてきました。財産を長男が引き継ぐ「家督相続」から、子へ平等に分割する「法定相続」が一般的となり、相続人が増えることで、それぞれの立場を主張する「争族」が後を絶ちません。相続対策は、遺す立場にとっては悩みの種です。

家族信託(民事信託)は、「契約」というカタチをつくることで多世代(子だけでなく孫やその先の世代)にわたる資産継承を見据え、想いを遺すことができる手段として有効です。特定の資産を対象にできることから、検討する件数も実際に組成する件数も着実に増加しています。

不動産、保険、海外スキームを活用し、さまざまな場面を想定した「契約」は、実は富裕層たちが以前から行ってきたものです。そして、この「家族信託」は、「ファミリーオフィス」の考え方をベースとしたものと言えます。

海外事情と日本のギャップ

前述のとおり、ファミリーオフィスには、資産を守るための運用、個人・事業家として双方にとって有意義な会計および税負担への対策のほか、一族の連携や家族の教育、慈善活動などもふくまれます。

社会に目を向けること、社会的弱者への支援、発展が見込まれる事業への投資は、海外において長きにわたり浸透してきた風土ともいえます。ファミリーのためだけでなく、文化事業や貧困、社会問題に資金を投じる寄付は、社会の課題解決への取り組みであり、結果として、一族が後世に名を残すことに繋がります。社会貢献が大きな価値と捉えられてきた欧米をはじめとする海外事情と、慈善活動に積極的でなかった日本には、依然としてギャップがみられるのが現実です。

制度の活用のまえに、想いと「向き合う」ことがポイント

株式会社野村総合研究所の調査(2019年)によると、純金融資産保有額5億円以上の超富裕層(8.7万世帯)と1億円以上5億円未満の富裕層(124万世帯)の資産総額は333兆円と推計されます。国内における比率も資産総額も年々増加傾向です。

富裕層とよばれる世帯の増加は、対策の必要性に対するニーズの高まりを意味します。また、海外で活躍する日本人も増え、インターネットなどでも海外事情を知る機会が増えてきました。その一方で、富裕層ビジネスに関わりたい営業活動が増えていることに注意が必要です。

インターネット情報は、各ユーザーのプライベートな情報や検索履歴からパーソナライズされた検索結果が表示される時代です。「ファミリーオフィス」というワードが注目されてきたのは、そうした営業目的が存在する可能性があります。なんとなくネット検索をしていたら、「富裕層向けセミナー」に興味をもった、という声も多くあります。

注目の制度だから、という場当たり的な対策ではなく、将来を見据えた長期的な視野での対策が何よりも大切です。くれぐれも営業の標的とならぬよう注意したいものです。

長期的な視点で検討しベストな選択を

ファミリーオフィスの成否のカギは、適切な布陣で適切に取り組むことです。対策の効果がでるのは、数十年、それ以上先かもしれません。DMや会員制クラブの紹介などで検討される機会もあるかと推測されますが、関わる専門家の知識と経験が効果を左右します。

日本における税制は毎年改正され、完璧とされていた対策が無効になる場合や法律のすき間を突いた対策で争うケースも散見されます。大切な資産を大切な人に引き継ぐためには、メンテナンスを欠かさないことです。そのためにも、自分事として取り組み、複数の選択肢のなかからベストな状態を検討しておきたいものです。

執筆:大竹麻佐子
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での勤務を経て独立。相談・執筆・講師活動を展開。ひとりでも多くの人に、お金と向き合うことで、より豊かに自分らしく生きてほしい。ファイナンシャルプランナー(CFP©)ほか、相続診断士、整理収納アドバイザーとして、知識だけでない、さまざまな観点からのアドバイスとサポートが好評。2児の母。
ゆめプランニング URL:https://fp-yumeplan.com/

(提供:JPRIME


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