本稿は「これから一棟物件を検討・購入したい」という人向けの情報です。投資物件を検討するときに重要なのは「物件価格の動きがどうか」「融資が通りやすいタイミングか」といった点ではないでしょうか。この記事の前半では、市場動向データをもとに一棟物件の価格推移にフォーカスしつつ、後半では投資家アンケートをもとに融資状況について言及していきます。

一棟物件の価格推移データ:全国平均は上昇しているが首都圏は下落傾向

一棟物件は今が買い?待つべき? 市場データと投資家アンケートから読み解く
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

はじめに2020年の市場動向データをもとに一棟物件が買いか否かを考えてみましょう。全国平均で見ると一棟物件の価格は上昇中ですが首都圏を含むいくつかのエリアで下落。加えて地方では同じ都道府県でも都市によって状況が変わるケースもあります。詳細は、以下の通りです。

一棟マンションの平均価格は前年比3.77%増

不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家(けんびや)の「収益物件 市場動向年間レポート2020年」によると2020年の一棟物件の平均価格は、上昇傾向でした。前年比で見ると一棟アパートの平均価格は49万円増(+0.75%)、一棟マンションの平均価格は571万円増(+3.77%)となっています。特に一棟マンションの価格上昇が目立っています。

年/物件種類一棟アパート一棟マンション
2019年6,501万円1億5,161万円
2020年6,550万円1億5,732万円
上昇率+0.75%+3.77%

(健美家「収益物件 市場動向 年間レポート2020年」より抜粋)

ただしこの市場動向レポートを地方別に見てみると「好調エリア」と「下落エリア」があります。具体的な下落エリアは、一棟アパートだと首都圏(前年比109万円減)、信州・北陸(同403万円減)、中国・四国(同212万円減)などです。また一棟マンションは、東北(同272万円減)と首都圏(同216万円減)が下落しています。

気になるのは、首都圏が一棟アパート・一棟マンションどちらも下落していることです。過去5年の価格推移で見ても以下の表のように一棟アパート、一棟マンションともに2018年をピークに価格が下がり続けています。

首都圏の一棟アパート・一棟マンション推移(2016~2020年)

年/物件種類一棟アパート一棟マンション
2016年6,512万円1億7,641万円
2017年7,193万円1億9,222万円
2018年7,315万円1億9,361万円
2019年6,956万円1億7,446万円
2020年6,847万円1億7,230万円

(健美家「収益物件 市場動向 年間レポート2020年」より抜粋)

首都圏で一棟物件を購入したい人は、この価格下落の流れを意識してより慎重に物件選びをすることが必要です。価格下落をどう捉えるかについては、投資家のスタンスによって見方が変わってくるでしょう。例えばインカムゲイン重視派であれば「割安感が出てきたので今が買い」という考え方もできますしキャピタルゲイン重視派であれば「底値を確認するまで様子見」とも考えられます。

同じ都道府県でも都市によって好調・不調が分かれるケースも

では、地方の一棟物件を検討する人は、市場動向をどのように捉えるべきでしょうか。ポイントは以下の2つです。

・底値を見定める
一棟物件の平均価格は、地方によって状況が違うため、狙っているエリアが値上がり傾向なのか下落傾向なのかを見定めることが必要です。その結果を踏まえて「今が買いか否か」を判断するのが賢明でしょう。市場動向レポートの詳細をチェックしたい人は、こちら(健美家のレポート)でご確認ください。

・同じ都道府県でもエリアでマーケット状況が異なる
同じ都道府県でも都市によって賃貸物件のマーケット状況が大きく異なるケースも想定しておきましょう。例えば九州を拠点に展開する不動産会社の営業担当者は、直近の動きを以下のように解説します。

「同じ福岡県でもここ最近は、福岡市内の販売は好調、北九州市は不調と明暗が分かれます。なぜ同じ県の大都市なのに状況が違うのかですが、福岡市は(不動産投資において)注目度が高いエリアなので、日本在住の中国人が積極的な買いを入れている影響が大きいと思われます」

なおこういった都道府県ごとの市場の動きは、ネットで収集しにくい面もあります。そのため対象エリアに強い不動産会社から情報提供してもらうのが無難です。

不動産投資ローンの融資審査アンケート:2020年の秋以降は改善傾向

ここまで一棟物件の市場動向をテーマに解説してきました。後半は、不動産投資ローンの融資審査の状況について言及していきます。当然いくら「今が収益物件を買うタイミング」と判断しても肝心の金融機関からの融資審査が通らなければどうにもなりません。融資状況について投資家の意見は「以前より審査が厳しい」「審査が通りやすくなった」などポジティブとネガティブなものが混在しています。

一方、不動産投資家アンケートを見ると審査が通りやすくなってきた様子がうかがえるでしょう。詳細は、以下の通りです。

まずは不動産投資家の個々の感触をチェック

スルガ銀行の不正問題以降、投資家からは金融機関の融資審査に対して「ハードルが高くなった」「頭金を多く求められるようになった」との声が多く聞かれるようになりました。この状況は変わってきたのでしょうか。2021年春時点の不動産投資家の意見を見てみると「依然として厳しい状況が続いている」「状況が変わってきた」と対極的な見方が混在しています。

以下は、融資審査にネガティブなツイッターの投稿例です。

一棟物件は今が買い?待つべき? 市場動向データと投資家アンケートから読み解く
(画像=spacible編集部)

以下は、融資審査にポジティブなツイッターの投稿例です。

一棟物件は今が買い?待つべき? 市場動向データと投資家アンケートから読み解く
(画像=spacible編集部)

このような意見に触れると「収益物件を買うなら今が絶好のタイミング」のようにも感じられますが……実際のところはどうなのでしょうか。さらに深掘りしていきましょう。

1,200人の不動産投資家アンケートでは融資状況が好転

次に参考にするのは、収益物件の情報サイト「楽待」が半期に一度、実施している不動産投資の融資に関するアンケートです。大勢(今回は1,200人)の不動産投資家の意見をもとにしたデータのため、マーケットの流れをつかむのに役立ちます。結論からいえば2020年春時点では「不動産投資の融資が引きやすくなってきた」という意見が増えています。

このアンケートの前回調査(2020年4〜9月の融資状況)では、「金融機関から頭金を多く求められるようになってきた」と感じる投資家が増加傾向でした。それが、直近の調査では(2020年10月〜2021年3月の融資状況)では「頭金2割以上出した」という人が28%→21%に減少しています。

あわせて物件価格を超える融資の「オーバーローンで融資してもらった」という投資家の割合が前回の8%→13%に増加しています。この投資家アンケートに基づくと2021年は不動産投資をはじめたり、収益物件の買い増しをするのに「絶好のタイミング」という見方もできそうです。

融資承認の下りた金融機関ランキングでスルガ銀行が上位に

同投資家アンケートでは「融資承認の下りた金融機関」についても調査しています。これから融資申し込みを考えている人には、この内容もとても参考になるでしょう。2020年10月~2021年3月の結果は、以下の通りです。

順位/金融機関名承認件数
1位/オリックス銀行21件
2位/ソニー銀行15件
3位/日本政策金融公庫10件
4位/SBJ銀行7件
4位/スルガ銀行7件

(楽待「いま融資は下りるのか?」アンケートより抜粋)

特筆すべきは、不正問題を起こして不動産投資マーケットに多大な影響を与えたスルガ銀行が4位にランクインしていることです。(前回は6位・承認件数3件)この部分を見ても不動産投資ローンの融資状況が大きく変わりつつあることを感じさせます。

2021年後半は不動産投資マーケットの転換点?

近年一般の不動産投資家にとっては「物件価格の高騰」「厳しい融資審査」など逆風が続いていました。今回の物件推移データと投資家アンケートの確認で「潮目が変わりつつあること」が感じられたのではないでしょうか。この潮目の変化に対して「物件購入を今すぐ進める」「もう少し様子見をする」などスタンスは、人それぞれです。

いずれにしても2021年後半が不動産投資マーケットの転換点になる可能性は高いのではないでしょうか。

(提供:spacible

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