異常気象がもたらす金融システム崩壊??
(画像=PIXTA)

米カリフォルニア州が現在、過去数十年で最悪の干ばつに直面している(参考)。

5月11日時点で、カリフォルニアの面積の約7割で、干ばつの度合いが、5段階中2番目に深刻な「極度の干ばつ」または最も深刻な「類のない干ばつ」となっている(参考)。

干ばつは農業に悪影響を与えるため、農業から得られる商品に依存している人々にも被害が及ぶ。食糧が不足し、需要が供給を上回り、価格が上昇して商品市場が低迷する。

カリフォルニア州はアメリカ国内の野菜の3分の1以上、果物とナッツの3分の2を供給しているが、アメリカのみならず世界の市場に向けても果物、野菜、ベリー類、ナッツ類の主要な供給地となっている。世界の食糧の価格に影響する可能性がある。

(図表:ベリー類)

異常気象がもたらす金融システム崩壊??
(出典:Kazvorpal)

カリフォルニア州は地中海性気候のため、夏は常に乾燥し、冬は雨が降らないことが多い。そのため「干ばつ」はよくあることだが、今年(2021年)は例年に比べて気温がさらに高く乾燥している。

カリフォルニア州の貯水池は、雨の多い年に水を蓄え、乾いた年に生き延びるための貯金箱のような役割を果たしているが、その貯水池や、貯水池を支えるシエラネバダ山脈(Sierra Nevada)のまばらな積雪から水が急速に蒸発しているのである。同州にある1,500以上の貯水池の水量は、この時期に本来あるべき水量よりも50%も少なくなっている(参考)。

昨年(2020年)12月7日に世界で初めて「水」の先物取引がシカゴ・マーカンタイル取引場(CME)で開始された。それも、カリフォルニアの水「ナスダック・ヴェレス・カリフォルニア『水』指数」である。カリフォルニアの「水」に対する切実な需要から始まった先物取引とも言える。

今世紀は「水」が重要な問題となり、干ばつ、暴風雨、洪水、水質悪化といった問題が、水を求めて移住する「水の難民(“water refugees”)」を生み出すとも言われている(参考)。

2003年の欧州の猛暑、2010年のパキスタンの洪水/ロシアの猛暑、2011年のテキサスの干ばつ、2013年の欧州の洪水、2015年のカリフォルニアの山火事、2016年のカナダ・アルバータ州の山火事など、過去10年半の間に発生した一連の持続的で極端な、コストのかかる夏の気象現象など(参考)。

このような異常気象が将来、金融システムを脅かすという報告書が出ている。

(図表:アメリカ・モンタナ州で2000年8月に発生した山火事)

異常気象がもたらす金融システム崩壊??
(出典:John McColgan)

米行政管理予算局(OMB)によると、過去10年間に発生した異常気象や火災は、アメリカの連邦政府に3,500億ドル以上の損害を与えた(参考)。

米国政府説明責任局(GAO)は、熱波、ハリケーン、山火事などの異常気象が、2100年までに北米で50%増加する可能性があり、米国政府に年間1,120億ドルもの損害を与える可能性があると予測する(参考)。

スイスにある国際決済銀行(BIS)内に置かれている金融安定理事会(FSB)は、昨年(2020年)末に、気候変動の影響が世界の金融システムに波及し、増幅され、最終的には金融の安定性を脅かす可能性があると警告した(参考)。

金融安定理事会(FSB)が指摘するのは2種類のリスクである。資産価格の急激な下落につながる物理的なリスクと、金融システムに不安定さという影響を与える無秩序な「低炭素経済」への移行というリスクである。

これら2つのリスクは世界の金融システムにおけるショックへの対処の方法を将来的に変える可能性があるという。

昨年(2020年)、米商品先物取引委員会(CFTC)からの依頼によって「Managing Climate Risk in the Financial System」(金融システムにおける気候変動リスクの管理)という報告書が出された(参考)。

同報告書は、山火事、暴風雨、干ばつ、洪水などのコストが保険や住宅ローン市場、年金基金、その他の金融機関に広がり、米国の金融市場を脅かしていると結論づけている。

現状では、世界中の規制当局や市場参加者は、気候変動リスクをどのように監視・管理するのが最善かを理解し、実験している初期段階にある。

その際に、気候関連の金融リスクを測定・管理するためのデータや分析ツールが不十分であることが、依然として重大な制約となっている。共通の定義や基準がないことが、市場参加者や規制当局による気候リスクの監視や管理の妨げになっていると同報告書は指摘する。

世界規模で推し進められつつある「気候変動」に向けた新たな枠組みの中で、次に起こりうる金融システムの変化が投資にどのような影響を及ぼしていくのか、引き続き注視して参りたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す

前回のコラム:参考「アメリカ安全保障」が人質となる日