「アジアNO.1」の野望に立ちはだかる障害?
柳井会長が中立的なスタンスを維持している背景には、ユニクロのイメージダウンに対する懸念だけではなく、「中国バッシングに関与したくない」という本音が見え隠れする。
コロナ禍でも中国を含む東アジアでの事業は好調で、ユニクロの年間出店数を現在の約2倍にあたる100店舗に増やす意向だ。「お得意様」である中国の神経を逆なでするような行為は、何としてでも避けたいのではないか。
しかし、このような懸念もどこ吹く風と、中国本土ではすでに国際ブランドに対する不買運動が起こっている。H&MやNIKE、IKEAなどウイグル自治区からの綿花の購入を廃止する意向を明確にした、あるいは反強制労働の立場を明確にしたブランドのみならず、ファーストリテイリングにもボイコットが飛び火している。「一過性の潮流」との見方もあるが、世界中で中国に対する強硬姿勢がさらに強まり不買運動が長期化した場合、「アジアNO.1」を目指す同社にとっては大きな障害となりかねない。
アリババのオンラインショッピングモール「天猫(Tmall)」の4月の売上データによると、不買運動のあおりからファーストリテイリングは20%強の売上減となった。
真の「服の民主主義」とは?
同社が、世界中に全3,630店舗(ユニクロ以外の事業も含む)を構えるグローバル企業に成長を遂げた背景を考慮すると、「闇」が存在するのも不思議ではないのかもしれない。綺麗ごとを抜きにしていえば、「闇なくして灯りは見えない」といったところだろうか。
柳井会長は「ユニクロの服は、あらゆる人の生活をより豊かにするためにある」と語ったが、現状を見る限り、ユニクロの服を買う人の生活はより豊かになったかもしれないが、ユニクロの服を作る人の生活が豊かになっているとは思えない。真の「服の民主主義」を目指すのであれば、人権と政治は切り離して考えるべきではないか。
いずれにせよ、日本においても金融規制当局が重い腰を上げた。東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードを改定し、上場企業に「人権の尊重」を求める条項を盛り込む意向で、海外のビジネスパートナーの人権も対象となる。欧米からの圧力もますます強まるだろう。
日本が誇るグローバル企業として、ファーストリテイリングが「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というコーポレートステートメントを実行してくれると期待したい。
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)