本記事は、三谷淳氏の著書『成長も安定も実現する経営指標「RPG」入門 』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。
B to C事業で顧客を増やすための3つのポイント
商品、サービスを個人に提供するB to C事業の場合、売上を増やすためには何より、自社の商品、サービスを多くの人に知ってもらう必要があります。社内のリソースを使って商品やサービスの良さを顧客(見込み客)に伝えるだけでは限界がありますので、できるだけ効率的にメディアを使い情報を拡散する必要があります。
広告にお金を使うのはもったいないと考える経営者もいますが、広告費を上回る利益を得られる可能性があるのですから、試してみない手はありません。
売上がどれだけ増やせるかで会社の成長率が大きく変わることを念頭に、あらゆる可能性を考えてみてください。
①インターネット広告
大手広告会社電通が発表した「2019年 日本の広告費」によれば、2019年のわが国のインターネット広告費は約2兆1000億円で、この年初めて、テレビメディア広告費を逆転しました。
テレビのほか、新聞、雑誌、ラジオを合わせた既存媒体(マスコミ四媒体と呼ばれます)の広告費は減少の一途をたどる一方で、インターネット広告の市場規模が毎年増加しているのは、それだけ広告効果が高いからでしょう。
インターネット広告は、既存媒体の広告に比べて、低予算から始められる、ターゲットを絞りやすいといった特徴があります。
たとえば、テレビCMを放映するには、東京キー局に15秒のCMを放映するだけでも数十万円の費用がかかり、そのほかにCMを制作する費用がかかります。また、テレビはさまざまな人が視聴していますから、自社の商品に興味のありそうなターゲットだけに情報を届けることはできません。若者のテレビ離れが叫ばれて久しく、視聴者に高齢者が多い点も、すべての企業に向くわけではない理由になろうかと思います。
一方で、インターネット広告は数万円程度の予算からでも気軽に始めることができますし、検索されるキーワードや地域などを設定することによって、自社の商品に興味のありそうなターゲットだけに絞って情報を届けることができます。
また、かけた広告費に対してどの程度の効果があったかを測定しやすいのもインターネット広告の特徴といえるでしょう。
インターネットを使った広告手法にはさまざまなものがあります。
① Google やYahoo! といった検索エンジンで特定のキーワードが検索された際に、自社のウェブサイトが上位表示されるようにサイトを構築するSEO(Search Engine Optimization)
②検索したキーワードに連動して検索エンジンの結果画面に表示されるリスティング広告(PPC広告)
が代表例でしょう。
しかし、インターネット広告は低予算から始められるからといって、やればすぐに効果が出るとは限りません。
SEOに関しては、検索エンジンのランキングアルゴリズム(順位付けを行う計算手順)が年々進化し、ユーザーがそのキーワードを入力した時に、本当に知りたい情報が豊富に記載されているページが上位表示されるようになってきました。
そこで、自社のウェブサイトを検索エンジンに上位表示させるためには、顧客に役立つ情報を、質量ともに豊富に提供し続ける施策が必要となります(いわゆる「コンテンツマーケティング」という手法です)。
たとえば、不動産会社のウェブサイト上で仲介物件の情報など、自社が売りたい商品の情報だけを掲載するだけではなく、「沿線ごと、街ごとの魅力の紹介」「中古住宅を購入する際のチェックポイント」など、顧客が知りたい情報を豊富に掲載することで、上位表示を狙うのです。
物理的に大量の原稿を用意しなければならないこと、検索エンジンに上位表示してもらえない場合には何度も書き直しを繰り返す必要があることなどから、時間と根気がないと続けられません。
リスティング広告を運用する際は、「適切なキーワード設定」「適切なクリック単価(1クリックされた時にかかる費用)」「クリックされやすい広告文」「クリックされた時に購入につながりやすいウェブサイト(ランディングページ)」の最適解を見つけなければなりなせん。
そのためには、複数の仮説を試してみて、結果が良かった方法を残し、悪かった方法は止めて、新たな仮説と比べてみるという、いわゆるABテストを延々と繰り返す必要があります。たとえば、「中小企業のコンサルティングなら未来創造コンサルティング」(A)という広告文と「利益を増やすお手伝いなら未来創造コンサルティングにお任せ」(B)という広告文を掲載し、Aのほうがクリック率が高いという結果が出たら、今度はBを削除した上で「未来創造コンサルティングは中小企業専門の熱血コンサルです」(C)という広告文を作成し、AとCを比べてみる、ということです。
SEOもリスティング広告も、運用を代行してくれる専門業者がたくさんありますので、専門家の力を借りることは大切ですが、商品の特徴やどんな顧客に喜ばれるか、業界の動向や言葉の使い方など、本当に大切な情報を深く理解しているのは商品を作った会社なのですから、専門業者に運用を丸投げするだけではいい結果は期待できないと心得ておいてください。
②既存広告
インターネット広告の市場規模が大きくなってきたからといって、既存広告(テレビ、新聞、雑誌、ラジオなど)の意味がなくなったということではありません。
しかし、既存広告は1回出稿するだけでも相応の費用がかかるため、「本当に広告効果があるのかな」などと不安に感じ、なかなか試してみようという勇気が出ない方も多いでしょう。
そこで出稿するかしないかのヒントになるのが、「競合が出稿し続けている広告は、効果がある可能性が高い」ということです。
どの会社でも、広告を出稿した結果、支払った広告費を上回る利益があれば、広告の出稿を続けるはずです。一方で、支払った広告費を上回る利益がなければ、出稿し続ける理由はなくなり、広告を止めるはずです。
ですから、たとえば、自社の競合先が「いつ見ても、電車の中吊り広告を出しているな」と感じたら、これは電車の中吊り広告で宣伝することによって、広告費を上回る利益を回収できる可能性が高いということで、自社でも出稿を検討する価値があるということです。
一方で、業界誌に自社の競合先が出稿している広告を見て、「え? たしかにこの広告は目立つけど、こんなことで商品が売れるのかなぁ」と疑問に感じたところ、次号からはぱったり広告がなくなっていた、という場合は、広告の効果がなかったと予想できます。広告費を上回る利益があったのであれば、広告を止める理由がないからです。
このように、テレビやラジオ、雑誌や新聞などの広告を注意深く観察することによって、自社にとってチャンスのある媒体を見つけられる可能性があります。
③プレスリリース
プレスリリースとは、企業が、自社に関わるニュースや、新商品・新サービスの情報をマスコミに知らせるための文書のことをいいます。
マスメディアに広告として出稿するのではなく、取材記事として取り扱ってもらったり、番組の中で商品を紹介してもらったりする手法で、広告と違い「宣伝してます! 売り込んでます!」という感じが薄まるため、うまくいくと大きな効果を得られることがあります。そして、広告と違い、企業側には一切お金がかかりません。
そんなにうまいこと、自社の商品を取り上げてくれるわけがないじゃないかと思われるかもしれませんが、実はマスメディアも番組や記事にするためのネタ探しには困っていて、おもしろいトピックスを常に探しています。
もちろん、自社の売り込みをしようとしてもメディアは取り扱ってくれません。そのメディアの読者ターゲット(視聴者)はどんな層なのか、その層にはどういったトピックスが受けるのか、最近の流行と自社商品はどのような接点があるかなどを考え、テレビの番組になった時に面白いか、雑誌の記事になった時に興味深いかを想像しながら文書にすることが大切です。
プレスリリースというと以前はメディア宛に郵送やファックスを送るという手法がメインでしたが、今ではオンラインで配信を代行するシステムや業者も多数ありますので、うまく利用してみてください。
個人が購入するB to Cの商品は、企業が購入するB to Bの商品に比べ、「すぐに」「衝動的に」買われるという特徴があります。
企業は、商品を購入する際に、相見積もりをとったり、稟議に回したりして「十分な性能や耐久性があるか」「他により安い商品がないか」など理性で商品を検討しますが、個人は、「かわいい」「かっこいい」「知り合いやあこがれの芸能人が使っている」など感情で商品を購入しがちです。消費行動の7割は衝動買いであるという統計があるといいますが、みなさんもコンビニでチョコレートを買う際に「もっと安くておいしいお菓子はないか」と考えたり、デパートで靴を買う際に「もっと安くて耐久性に優れた靴はないか」などとは考えたりしないのではないでしょうか。
このように考えると、自社商品を顧客にアピールする際にも、性能やコストパフォーマンスばかりをアピールするのは得策とはいえません。
むしろ、何をアピールするかではなく、誰がアピールするかを重視して、SNS上で多くの人に取り上げてもらえるような仕組み作りやインフルエンサーによる情報の拡散を考えてみるとよいでしょう。
また、日本人は特に「限定」に弱いといいますが、わずかな人しか持っていないものを所有するというのは、衝動的な購入を促す動機付けの一つとなります。ですから、商品の個数を限定する、販売の期間を限定する、魅力的な特典をつけるといった限定性、希少性を持たせた商品設計をすることも、売上を増やす手法として検討に値するでしょう。