本記事は、三谷淳氏の著書『成長も安定も実現する経営指標「RPG」入門 』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています。
経営が伸びないのは、「エンジン」でなく「メーター」に問題があった
経営者であれば、経営をもっと伸ばしたい、よりいい会社を作りたいと考えるのは当然のことです。
しかし、うまくいっている会社ばかりではありません。
たとえば、和菓子の製造販売をするA社は、創業60年を誇る老舗です。長年の固定客がいるおかげで大幅に売上を落とすことはないものの、近年は前年対比97%、96%と毎年少しずつ減っています。決算書を見ると何とか利益を確保できていたので、社長はホッと胸をなで下ろしていますが、売上減に歯止めをかける方法が見つからず、このままでは赤字に転落してしまうのではないかと実は不安に感じています。
また、店舗でのコピーサービスや、データの出力、印刷サービスを展開するB社は、売上を増やすために新規店舗を出店したり、新たに広告を出稿したり、売上増に対応する従業員を確保するために奔走したりと、社長は目の回るような毎日を過ごしています。その結果、確かに売上は増えているのですが、経営が楽になった実感がありません。店舗を出店するたびに借金が増えて結局は毎月の返済に追われ、月末には口座の残高が気になっているというのが実情です。
このようなことがあると、社長は「自社の戦略は何かが間違っている」と感じ、外部から幹部を招聘したり、突然、経費削減の号令をかけたり、時にはリストラで従業員を削減したりしようとします。
しかし、このようなことで悩んでいる会社は、たった1つ、あることをするだけで経営が大幅に改善する可能性があります。それは経営の「メーター」を取り替えることです。
すなわち、毎年の決算書を見て、黒字だったか赤字だったかを確認し、一喜一憂しているA社の社長は、経営のメーターが「利益が出たか、損失が出たか」になっているのです。この場合、経営のメーターをRPGに取り替えていただき、まずは10%、できれば20%を目指すようにすればいいのです。
また、新規出店による売上増を繰り返すB社の社長は、経営のメーターが「売上が増えたかどうか」になっています。この場合も、経営のメーターをRPGに取り替えていただければ、経営を伸ばせる体制が作れます。
なぜなら、黒字か赤字かのぎりぎりのラインを行き来しているA社のような状態では、近所に競合店ができたとか、思わぬ自然災害にあったなどちょっとした外的要因によって一気に大幅な赤字転落に陥る可能性があります。将来に備えた投資をする余力がなく、そればかりか十分なキャッシュが確保できずに黒字倒産の危険性すらあります。この状態から脱し、RPGを高め、利益を確保し、内部留保を高めれば、倒産の危険は遠ざかり、将来に向けた投資をする余力も生まれるのです(なぜRPGが高まると、内部留保が増えるのかについては本章の4項で後述します)。 また、利益を確保できないまま、借金を原資に多店舗展開を進めるB社は、店舗が増えていく分、有名にはなりますが、どんどん利益率が下がることによって経営の危険性は増していってしまいます。B社でも、同様にRPGを高める経営をすれば、借金の返済に追われることはない、強い会社を作ることができます。
会社がうまくいかない時、広告を打つ、店舗を増やす、経費を削減するといった戦略をとることは、車の運転に例えると、いわばエンジンを取り替える作業に当たります。もっとパワーが出るエンジンがいいのではないかとか、もっと燃費がいいエンジンがいいのではないかと部品を取り替えるようなものです。
また、外部からリーダーを招聘したり、あるいはこれまでいた従業員をリストラしたりするといった戦略は、車のドライバーを交代させるようなものです。
しかし、果たしてその戦略で、車が思い通りに走っているかを測定できるでしょうか。車を速く走らせたければ正確なスピードメーターが必要になります。一方で、燃費を気にして効率よく車を走らせたければ、正確な走行距離計が必要になります。
いい会社を作りたいといいながら、黒字か赤字かしか気にしないというのは、エンジンの回転数を示すタコメーターを見ながら、車のスピードが上がらないと悩むようなものです。また、売上を増やすことばかりに精を出すということは、エンジンのパワーばかりに気をとられ、速度も燃費も考えずにアクセルをふかしているようなものです。
悪いのはエンジンでも、ドライバーでもありません。まずは、RPGという経営のメーターを会社に設置してあげてください。