お客様が担当の営業マンを選ぶ理由は様々だ。何もそれは金融機関の担当者に限った話ではない。自動車のセールスマンにしても、マンション・デベロッパーの担当者にしても、或いは行きつけのブティックの担当者などでもそうだろう。社内政治に強くて誰よりも値引きしてくれるとか、ゴリ押しで売り付けてこないとか、センスが良いとか、中には若くてイケメン(美人)だからとか、いろいろな理由があるだろうと思う。だが、掛かりつけのお医者様を選ぶとなるとちょっとニュアンスが違ってくる。そこには間違いなく「腕が良い」という技量への期待値や信頼感が入ってくるはずだ。

前者は基本的に出来上がった「製品」を販売してくれる言わば窓口係なので、誰から購入しようと手に入るものは一緒だ。レクサスのLSならば、Aセールスマンから買おうが、Bセールスマンから買おうが、手に入るものはトヨタ自動車が製造したレクサスLSで同じなのだから。ならば同じお金を払うならば、心地良く物事が進みさえすれば何も文句はない。だが後者のお医者様となると、提供される医療サービスや技術の「成果」は未知数だ。診察時の感じが良いか悪いか、或いは美形か否かなどは本来どうでもよく、何かあった時にきちんと治してくれるかが一番の関心事となるからだ。テレビ番組のように「ゴッド・ハンド」などと呼ばれる超人気の専門医が現れる理由はここにある。

プライベートバンクの場合、担当者の異動はまずあり得ない

富裕層,資産運用
(画像=いおるな / pixta, ZUU online)

さてここで問題だが「担当の金融マン(証券マン、銀行員、保険外交員)」という立場の選定基準は前者だろうか、後者だろうか。「そんなことを言われても、普通は『この地区を担当している◯◯です』などと金融機関側で予め担当者が決められてしまっているよ」と言われるかも知れない。確かに通常のリテール取引の場合はそうだ。お客様側から担当者を選ぶことは殆どできない。だから担当者が異動などした場合、その後の取引がなくなる場合もあるし、従前よりも驚くほどその後に拡大する場合もある。競合側からすると、担当地域で人事異動があったと聞くと、絶好の好機とばかりに新規取引先の獲得に動くものだ。この点から考えると、もしかすると前者に近いと考える人がおられるかもしれない。

だが、一般的に(例外もある)プライベートバンクの場合、担当者の異動はまずあり得ない。というよりも、超富裕層の場合はプライベートバンクという法人と取引している感覚より、担当のプライベートバンカー個人と取引をしていると考えている人のほうが多いからだ。だからたくさんの顧客を抱え、預かり(支配)資産の大きなプライベートバンカーは破格の報酬でヘッドハントされて競合他社に転職したりする。彼ら(彼女ら)が転職すると、ごっそりそのまま預かり資産がついてくるからだ(契約上はそうした事は禁じられるのが普通だが、お客様の側が自ら解約して新会社へ口座を開きたいと言われれば、金融機関側に抗う術はない)。プライベートバンク側としては、それだけ高額の報酬を払っても充分にペイすると踏んでいる。これは「プライベートバンクが提供しているサービスは工業製品のように品物を指定すれば何処で購入しても同じという性質のものではない」ということの端的な証なのだが、だからこそ、実はここにいくつかの注意すべきポイントがお客様(超富裕層)の側にも、プライベートバンカーの側にもあると筆者は常々考えている。

お客様も、金融マンも「パフォーマンス」という概念を誤解している?