米投資ファンドのブラックストーン・グループはプライベート・ウェルス・ソリューションズ(以下、PWS)部門日本拠点の立ち上げに伴い、2021年6月30日にメディア向けの発表イベントを開催した。
ブラックストーンは、1985年に設立された米大手投資ファンド運用会社だ。本社はニューヨークのパークアベニューで、東京をはじめアジアやヨーロッパにも拠点を置き、未公開株や不動産のほか、セカンダリーファンドなど、幅広い資産クラスにわたってグローバルに投資し、運用資産残高が6840億米ドル(※)にも上る総合オルタナティブ投資会社となっている。
※2021年7月22日現在、ブラックストーン決算発表資料より
ZUU online編集部では、発表イベントに続いて7月中旬、同社に取材する機会を得た。PWS部門のジョアン・ソロター(Joan Solotar)氏、トッド・マイヤーズ(Todd Myers)氏、ハーバート・スエン(Herbert Suen)氏、藤田薫(ふじた かおる)氏に、PWSの設立経緯から今後の事業展望まで話を聞いた。
オルタナティブ投資をポートフォリオの選択肢に
PWS部門グローバル・ヘッドのジョアン氏は、「ブラックストーンは世界最大のオルタナ運用会社であり、約35年にわたって先進的な投資機会の発掘により世界中の投資家へ卓越した投資実績を提供してきました。ブラックストーンは不動産やプライベート・エクイティ部門にて存在感を発揮してきた日本にて、私たちのソリューションをはじめ、ご満足いただけるサービスと投資教育をお届けすることにコミットしております。」と、日本での展開を語った。
PWS部門チーフ・オペレーティング・オフィサー兼インターナショナル・ビジネスの責任者であるのトッド氏は、「最も重要なポイントは、個人投資家のアクセスです。日本で展開するにあたり、より広範なリーチで個人投資家がオルタナティブ投資をできるよう、チャンスを広げていきたいと思っています。その基盤となる重要な要素が、教育です。フィナンシャルアドバイザーや投資家が自信を持ち、違和感なくオルタナティブ投資をポートフォリオに組み込めるようにすることが重要なのです。米国にて、一貫して教育に力を入れてきました。同じ原則を日本の市場にも持ち込みたいと思っています」と、個人投資家のアクセスと投資の教育機会の2つが重要だと述べた。
シンガポールPWS部門アジア・パシフィックの責任者を務めるハーバート氏は、「香港、シンガポール市場を初めとしたアジア太平洋は私たちの成長戦略の非常に重要な部分を占めており、重要なウェルスマネジメントの中心地です。私たちはシンガポールでも香港でも、一般投資家というよりは、リスク許容度の高い個人投資家を対象にしています。また、私たちは直接アプローチすることは原則しません。業界トップのプライベートバンク、ウェルスマネジメント会社にて、商品を販売して頂いています」と、ターゲットはプロ投資家であること、金融機関のパートナーを通して商品提供をしていくアジアでの成長戦略を明かした。
日本でのPWS事業立ち上げ経緯
ここからは、PWS部門日本拠点責任者の藤田氏への取材内容を詳しくお届けする。
―日本でのPWS事業をスタートするに至った経緯をお教えください。
日本の機関投資家は低金利の長期化によって、伝統的な債券や株式のポートフォリオでは十分な運用益を追求できないということで、オルタナティブ投資を拡大させています。
オルタナティブ投資は伝統資産に比べると流動性が劣ることから、個人向けには金融リテラシー、リスク耐久力といった適合性を考えていく必要があります。日本のPWS部門では、販売主体となる金融機関や国内委託会社との連携により、主にリスク許容度の高い個人投資家に早期にオルタナティブ投資の選択肢を提供することに尽力して参ります。
お金に働いてもらうことは、国民が豊かになるという観点だけではなく、成長資金を供給して経済を回していくという観点、資産運用の高度化を図り、海外の投資プレイヤーを日本に誘致するという観点においても社会に様々なメリットをもたらすであろうと我々は考えます。
日本の個人金融資産1,900兆円のうち、預金に眠っている1,000兆円をどのようにリスク資産に振り向けていくかは日本全体の課題です。
過去20年、米国では家計資産が2.8倍に、一方で日本ではリスク性資産が少なかったことから、1.4倍にしか増えなかったという金融庁の資料もあります。
我々は、昨今の世界的な低金利と米国での上場企業数の減少を受けて、預貯金はもとより、パブリック資産への投資だけでは十分な資産形成ができないのではないかという危機感を抱いています。そのような中、今回新たな挑戦として、日本におけるオルタナティブ投資の個人に向けた普及、社会的認知度の向上に向けて精進し、日本の個人投資家の資産形成を微力ながらサポートして参ります。
多くの国内投資家と対話をしてきた経験から、とりわけオルタナティブ投資の中でも取得した企業や物件の価値向上という直接的な効果を投資家が実感しやすいプライベート資産への投資は、日本の投資家にもなじみやすいのではないかと思っています。
―アメリカでPWS事業は、いつ頃から提供しているのですか?
もともとアメリカでは10年ほど前にPWS事業を開始し、機関投資家向け商品を個人投資家向けに紹介するビジネスを立ち上げました。
当初の商品は、10年などのロックアップにより解約が限定的で、低い流動性のものが多くありました。販売会社であるアメリカの大手証券会社から、何とかもう少し流動性の頻度を高めたり、複雑な事務フローを簡素化できないかというご要望をいただいていました。
そんな中2017年に、商品の仕組みを工夫し、月次の流動性で、プライベートのアメリカ不動産に投資ができる商品を打ち出しました。これがすごく人気を呼び、個人投資家によるプライベート資産への投資ニーズが顕在化したのです。流動性や事務負担の観点からなかなかアクセスができなかったところ、これを解消した商品ができたことにより、アメリカにおいて個人によるオルタナティブ投資が一気に広がったと言えます。これらを背景に、我々のリテール事業は急速な拡大を遂げており、現在PWS部門における預かり純資産残高は1,300億米ドル、部門所属従業員は175名体制です。日本を含めて、個人投資家によるオルタナティブ投資への旺盛な需要は今後も継続すると見込んでいます。
日本市場に与え得るブラックストーンの付加価値とは
―様々な規制のある日本において試行錯誤しながらも、展開していくメリットがあると感じられたのですね。
日本は現在、低金利が定着してしまっています。30年くらい前までは、預貯金金利でも5〜7%程であったのが夢のようですが、今では低金利でなかなか投資先が限られてしまっています。また、オルタナティブ投資は伝統的資産である上場株式や債券と異なるリスク・リターン特性であり、分散効果も期待できますので、自助努力で資産形成をしていくと考えた時に、選択肢としてなくてはならないと考えます。
米国などでは年金基金で2〜3割、大学基金で半分以上の運用財資産をオルタナティブ資産に投資しています。しかし、日本では未だ運用財資産の中でオルタナティブ資産への投資比率は極めて低く、大半が従来型の株式債券といった伝統資産に投資されています。
―日本における販売会社も重要ではないでしょうか。
ブラックストーンでは直接お客様に販売することはリテール分野では行っておらず、金融機関を通じて我々の商品を投資家の方々にご案内していただくビジネスモデルです。販売主体である金融機関とどのような連携をしていくかは、非常に重要なポイントです。
また、販売員の方も今まで販売していた伝統的資産とは少し異なってくるので、弊社は単純に運用を担うだけではなく、彼らへの投資教育を含めて取り組んでいく所存です。
米大手証券会社の一部では、おかげさまで彼らのオルタナティブ資産預かり残高にてブラックストーンがNo.1のシェアを持っているケースもあります。ブラックストーンではこれまで、オルタナティブ投資の市民権を得ていくという取り組みの一貫で、教育プログラム「ブラックストーン・ユニバーシティ」を展開してきました。過去8,000人近くのアドバイザーにこのプログラムへ参加頂き、オルタナティブ投資の戦略、資産特性等を幅広く学んでいただける機会を提供することが出来ました。販売を担うアドバイザーが顧客の資産形成のゴール達成のためにポートフォリオにオルタナティブ資産を加え、新たな選択肢を投資家へ提示することに自信を持って頂けるよう、日本でも同様の取り組みを展開できればと考えております。
―日本でPWS事業を展開する上で、ブラックストーンの提供できる一番の価値はどのようなものでしょうか。
我々の強みは単純に戦略、商品を販売することではないということです。私たちは世界中で透明性及び教育の観点からも投資家へのサポートに尽力して参りました。ブラックストーンは世界最大級のオルタナティブ投資会社として、プライベート・エクイティ、プライベート・不動産、プライベート・クレジット、ヘッジファンド・ソリューションなど多岐に渡る戦略を構築してきました。しかし、我々は優れた運用実績を有するそれらの様々な商品を提供することにとどまらず、質の高く幅広いサポートによって顧客の信頼を得ていくことを大切にしています。
したがって、商品提供を始める前に、まずは日本での体制をしっかりと築いていくことが重要だと思っています。おかげさまで業界でも極めて専門性の高い人材が集まってきましたので、満足いただけるようなサービス、商品組成、情報提供、マーケティングなど一連の活動を早期に実施していけると確信しています。
日本におけるオルタナティブ投資ニーズへの確信
日本におけるPWS事業の展開を本格的に開始するブラックストーン。藤田氏の言葉からも、今まで伝統的資産に投資してきた個人投資家にオルタナティブ投資を浸透させていく、という強い意気込みが感じられた。それは日本においても潜在的なニーズがあることへの確信、そして他国においてオルタナティブ投資を着々と普及させてきたからこその自信でもあるに違いない。
また、日本の金融機関やプライベートウェルスファームなど、パートナーとの関係構築の機会が重要であることも強調された。そのあたりの今後の動向も含め、日本での展開に注目していきたい。