暑い季節は、目にも涼しい「青い絵」に引かれるのではないでしょうか。日本でファンの多い西洋画家フェルメールや日本画の巨匠平山郁夫は、青を基調とした作品を多く残しています。
名画に使われる青い絵は、実はとても高価な青い画材が使用されているものが多いのです。青い画材はなぜ高価なのでしょうか。夏本番を迎えるこの季節、涼しげな青の世界をのぞいてみましょう。
青い顔料が使われた有名絵画
ヨハネス・フェルメール
2018年に開催されたフェルメール展で展示された「牛乳を注ぐ女」や「真珠の耳飾りの女」は、特に青の美しさが際立つ作品です。生涯におよそ30点の作品を残したとされるフェルメールですが、そのうち25点もの作品から青い顔料が検出されているそうです。フェルメールが描いた青が「フェルメールブルー」と称されることがうなずけます。
サンドロ・ボッティチェリ「書物の聖母」をはじめとした宗教画
フェルメールが活躍した時代よりも昔、聖書のワンシーンや登場人物が描かれている宗教絵画の時代がありました。宗教画の多くに登場する聖母マリアの衣装には、美しい青の色が使われています。ボッティチェリが描いた「書物の聖母」や「バラ園の聖母」は、青の衣装が神聖な雰囲気を醸し出しています。
平山郁夫「晧月ブルーモスク イスタンブール」「月華厳島」
青い絵で有名な日本画家といえば平山郁夫でしょう。名画「晧月ブルーモスク イスタンブール」「月華厳島」は、何層にも重なって青い日本画の顔料「群青」が使用されています。平山郁夫シルクロード美術館では、没後10年の節目に「群青の世界」という展覧会のタイトルにもなったほど群青を用いた作品を残しています。
西洋絵画のウルトラマリンブルー、日本画岩絵の具の群青が高価な理由
古来青い色は自然界から作り出すのがもっとも難しい色でした。前述のフェルメールの名画や宗教が画に使われた青い顔料はウルトラマリンと言い、宝石ラピスラズリの原石を顔料へ精製したものです。一方、昔から日本画に使用されてきた青は群青と言い、天然の藍銅鉱(らんどうこう)を精製し、岩絵の具と呼ばれる粒子状の顔料にしたものです。
天然の鉱石を細かく砕いて絵の具にするのですが、ラピスラズリも藍銅鉱も他の鉱石が混ざって採れることが多く精製がとても困難でした。ただでさえ希少な鉱石が原材料だったことに加えて精製に手間がかかったことで、数ある色の中でもっとも高価だったと言われています。当時の天然のウルトラマリンは、純金に匹敵する価格で、フェルメールがウルトラマリンを使いたがるがあまり生活は困窮していたというエピソードは有名です。
日本画で現在も使われている天然岩絵の具は原料の鉱石の種類によって値段が違い、大さじ1杯に匹敵する15グラムで1,000円から数千円です。中でも特に希少価値の高い鉱石である群青は、15グラム4万5,000円で売られています。
岩絵の具は、精製の段階で絵の具の粒子の大きさを選別し、同じ色名であっても粒子の大きさ別に売られているのが特徴です。粒子が粗いものほど色が濃く、粒子が細かいものほど色は明るく薄くなります。そして粒子が細かいものほどよく伸びるので広範囲の着彩ができるのです。
平山郁夫の作品に登場する群青は、この粒子の粗い濃く鮮やかな群青です。天然群青特有の粒子の反射による宝石のような輝きが肉眼で確認できます。大きな画面に粒子の粗い絵の具を塗るには、大量の岩絵の具が必要となるので、絵の具だけで相当な額がかかっていると考えられます。
ウルトラマリン、群青の代わりとなる安価な画材の誕生
天然のウルトラマリンも群青も高価だったことから一握りの画家が使用するか、絵画の重要な箇所にのみ使用される貴重な色でした。後にもっとたくさんの人が使えるように開発されたのが、人工的に合成された顔料です。
今日手に入る油彩画のウルトラマリンがそれに当たります。日本画の絵の具においては、新岩絵の具や合成岩絵の具とよばれるものが誕生しました。こうした人工的な顔料の普及により、天然の色味にそっくりな色や天然以上に鮮やかな多くの色が手に入り安くなりました。
青い絵の持つ魅力
澄み渡る空や透けるような青い海など、われわれの回りには自然がもたらす美しい青い色が存在します。人類がその青い色をどうにかして絵に取り入れたいと思うようになったことは当然のことでしょう。自然界から作り出すのがとても困難だった青の顔料を、苦労の末作りだしたことで、多くの歴史的な絵画が誕生しました。アーティストや描かれた題材に注目されることの多い絵画鑑賞ですが、使用されてきた画材に注目してみるのもおすすめです。
(提供:JPRIME)
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