資金運用の主流になりつつあるESG投資だが、問題がないわけではない。長期的な運用成績の結果が出ていないうえ、仮にESG投資で失敗した場合の責任の所在がはっきりしない。そもそもESGの基準さえ明確でないうちに、ESG運用マネーが推計40兆ドル(約44兆円)と膨張してきたのが実情だ。

米国SECが基準明確化を要請。ルール作りは途上

知っておきたいESG投資の現在・未来
(画像=空/PIXTA、ZUU online)

右肩上がりで増えるESG投資残高だが、2021年に最初の試練が訪れた。そして、試練を課すのは米国証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長である。ゲンスラー氏は7月7日、資金運用ビジネスを扱うSECの専門委員会で、持続可能(sustainabile)投資のファンドに対して裏付けとなるデータを開示するルール作りを検討していると発言した。ESGファンドに大量の資金が流入する一方、銘柄選定の基準が明確でないためだ。

現在、ESGの統一的な指標は世界中どこにも存在しない。たとえば、性別に起因するジェンダーギャップの解消であれば、管理職に占める女性の比率が10%の企業と50%の企業では、後者のほうがESGのうちS(社会)の評価が高くなることに異論は少ないだろう。しかし、ジェンダーギャップ解消と南米アマゾンの森林保護活動を客観的に比較する指標はない。

このため、ESGの観点から投資先企業をどう選別していくかは事実上、運用者に任されているのだが、そのことについて十分な説明はない。ファンドに資金を預ける一般投資家が公表情報をもとに投資の意思決定プロセスを検証するのも不可能だ。説明が不十分な金融商品を米国SECが放っておくはずがない。

金融業界の監視・規制を陣頭指揮するSEC委員長はウォール街から敵視されるのが役目でもある。特にゲンスラー氏は歴代SEC委員長の中で金融業界から最も警戒されている人物である。2000年前後はクリントン政権下で財務次官を務め、2008年のリーマン・ショック後、金融機関が過大なリスクを取らないようオバマ大統領の意向を受けてスワップ取引などの規制作りに奔走した。ESGファンドについても、SEC委員長就任前から情報開示ルール作りの必要性を訴えている。

ゲンスラー氏は投資銀行大手ゴールドマン・サックス出身で金融業界の裏の裏まで知り尽くしている。金融エリートは共和党支持者が多いだけに、民主党のバイデン大統領にとってウォール街出身のゲンスラー氏は余人をもって代えがたい人材。大統領の全幅の信頼をバックにESGファンドへの規制も金融業界に忖度しない厳格な内容になることは想像に難くない。

運用失敗は、年金加入者がかぶることに

ESGの情報開示では、日本でも同様の問題がある。GPIF(年金基金管理運用独立行政法人)や大手生保、投信会社は軒並みESG運用に力を入れている。このうちGPIFは厚生労働省の管轄下で公的年金を扱っており、大企業の従業員を中心とする厚生年金の掛け金がGPIFで運用されている。