国と企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めています。実際に、デジタルの力が既存のさまざまな事柄に変化を与え始めています。音楽や広告表現などを含むアートもその1つです。電通系や日本IBMを経て、米広告代理店R/GAのマネージングディレクターに就いた嶋田敬一郎氏に話を聞きます。
嶋田氏は従来モバイル製品とサービス戦略で、日本企業のグローバルへの拡大、またグローバル企業の日本参入を支援することに多くの時間を割いてきました。直近ではIBMでDigital Makers Lab を立ち上げました。嶋田氏のチームは、ユニークなスマートスピーカーでCES イノベーションアワード2021を受賞しています。
AIが呼び戻す伝説のピアニスト
ヤマハは、今は亡き伝説のピアニストであるグレン・グールドの演奏を、AIで再現しました。生前のグールドが残した100時間以上の音源を学習させることで実現したといいます。
このプロジェクトをプロデュースした嶋田氏は、斬新なアイデアを持ちかけます。グールドの演奏を知る現代のミュージシャンも参加し、グールドと「協奏」するコンサートを企画、クラシックの聖地であるオーストリアで実現させたのです。
「世界初のAIコンサートです。音楽の現場にAIを入れるだけでなく、かつての伝説のピアニストを登場させることで、アートとして未来と繋がるという新たな問題提供をする狙いがありました」と嶋田氏は振り返ります。
Beyond Timeが提案するエイジングとアート、テクノロジーの連携
テクノロジーが起こす変化は、より身近なところでも起きる兆しを見せています。R/GAは、資生堂が体験施設として提供していた10分間ほどのブースプログラム「Beyond Time」(現在は終了)のプロデュースを手掛けました。
Beyond Timeは、資生堂の長年にわたるエイジングサイエンスの研究をもとに開発。10代から80代までの日本人男女から収集した多様な顔データと最新技術を組み合わせ、体験者のさまざまな年齢の顔立ちを3Dでリアルタイムに再現させるものです。
「もしも親子の年齢が入れ替わったら」「大切な人と、知り合う前の年齢で向き合ったら」など、2人で過去と未来の年齢を行き来しながら会話ができるデジタルタイムトラベルを体験できるものです。
身近にあるアートの要素をテクノロジーが引き出すことで、エイジングなど、人にとって最も基本的な要素への考え方にも変化を与えようとしているのです。
なぜこういうものが「ない」のだろう、という問題提起がこれからのアート
嶋田氏は「アートを取り巻く環境にデジタルが深く関与してきており、それを広告会社がクリエイティブを含めた従来の手法で扱い切れなくなってきている」と指摘。
これからのアートの在り方は根本的な発想が変わってくるとアートの未来を展望します。それは「なぜこういうものがないのだろう」という発想です。つまり、今は存在していないものを考えることです。
「従来は既存のプロセスを対象に広告企業もITコンサルティング企業も顧客と接してきました。しかし、これからは人々の生活を見つめた上で、本当に必要なものを提案する時代が来ます」(嶋田氏)
例えば、グーグルのサンダー・ピチャイCEOは「人間の生活を害さないAI」を掲げ、小売りで言えば「サンフランシスコのb8taが、売るためでなく、体験してもらうための店舗という興味深い取り組みに挑戦しています」と嶋田氏。
b8taは、店内で体験した消費者の行動――導線や紹介動画の再生など――をデータ化し、そのデータを提供することで、顧客であるメーカーなどに価値をもたらそうとしています。ビジネス的に言えば、もの自体を売ろうと躍起になるのではなく、「人がものと対峙するプロセスをより広く深く理解し、それを前提に取り組んだ方が売れるのではないか」という問題提起と言えます。
嶋田氏は、テクノロジーが変えるアートの定義と利用について、「これまでできていなかった、人間の延長線上の提案をしていく」と話します。それはおのずと、まだ人々が気づいていない提案となってくるでしょう。
(提供:JPRIME)
【オススメ記事 JPRIME】
・超富裕層が絶対にしない5つの投資ミス
・「プライベートバンク」の真の価値とは?
・30代スタートもあり?早くはじめるほど有利な「生前贈与」という相続
・富裕層入門!富裕層の定義とは?
・世界のビリオネア5人が語る「成功」の定義