第2回では、ドクターの資産管理のポイントについて紹介していこう。著書に『ドクターのためのお金の増やし方実践法』があり、ドクターのマネー相談件数は1,000件以上という「ドクターに特化したファイナンシャル・プランナー」の岡崎謙二氏に話を聞いた。(聞き手:菅野陽平)
二極化するドクターの資産管理状況
ドクターの収入に逆風が吹いているとはいえ、一般的な水準と比べると、かなりの高所得であることは間違いない。この所得水準なら家計に大きな問題はないと思いきや、「留学などドクター特有の出費に加えて、見栄や裕福だという誤解から生活コストが高くなりやすく、家計が破綻してしまうドクターもいる」(岡崎氏)という。
「ドクターの家計は二極化している。ひとつは倹約家タイプで、しっかり貯蓄しており、税金対策や資産運用にも積極的だ。勤務医であっても、若くして数千万円の貯蓄がある人もいる。もうひとつは浪費家タイプで、貯蓄はほとんどなく、税金対策や資産運用は全く行っていない。この2つはどの職業にも当てはまることかもしれないが、ドクターは高所得な職業の割に、貯蓄がない人が多い」(岡崎氏)
この二極化の背景には、「出身大学が公立か私立か」ということも関係しているという。岡崎氏によると、「私立大学医学部の学費は6年間で少なくとも2,000〜3,000万円、高い大学なら5,000万円かかる。この金額を出せる家庭で育つと、倹約の概念はあまり必要ないだろう。ゆえに一般論であるが、浪費家タイプは私立出身者に多い」とのことだ。
ドクターは本業に加えて、アルバイトをしたり、学会に参加したりする人も多く、とにかく忙しい。資産管理について、深く見直す時間もなければ、それらに関する知識を吸収する時間も取りづらい。それでは、ドクターはどのようなことに気をつけて資産管理を進めていけば良いのだろうか。岡崎氏にいくつかポイントを挙げてもらった。
子どもをドクターにしたい場合は、少しでも早く教育費の準備を
「子どもをドクターにしたい」と思っているドクターも多いことだろう。特に、開業医の場合、子どもをドクターにすることは医療承継の観点から、いわばマスト事項と言える。それでは、子どもをドクターにするためには、どれくらいの教育費がかかるのかご存知だろうか。
「幼稚園から高校までの学費を見ると、全て国公立であれば約500万円、全て私立であれば約1,800万円かかる。これは学費のみの金額であり、習い事などは別途かかることに注意が必要だ」(岡崎氏)という。そして、最も費用がかかるのが大学だ。
前述のように、私立大学医学部の学費は6年間で少なくとも2,000〜3,000万円、高い大学なら5,000万円かかる。一方、国公立であれば6年間で500万円もかからないことが多い。この数字から分かるように、相当恵まれた家庭でないと、子どもを私立大学医学部に進ませることは難しい。
実際、「私立大学医学部を卒業したドクターに親の職業を聞くと、ほとんどが開業医か企業経営者」(岡崎氏)だ。子どもをドクターにしたい場合は、少しでも早く教育費の準備に取り掛かる必要がある。
7割のドクターが必要以上の保険に入っている
固定費を抑えることが家計収支を改善させるコツだ。しかし、ドクターは往々にして、固定費が高いケースが多い。その2大要因が「生命保険」と「住宅」だ。
「多くのドクターの家計を見てきたが、必要以上の保険に入っている人が圧倒的に多い。大体の割合としては、適切に保険に加入している人は2割、保障が少なすぎる人は1割、必要以上の保険に入っている人が7割だ」(岡崎氏)
例えば、独身なのに1億円の保険に入っていたり、将来の積み立てになるからと10件の終身保険に入っていたりするケースがあるという。ドクターが必要以上の保険に入りがちな理由には、いくつかの要因が挙げられる。
まず、年収が高いため、高額の保険料でも支払えてしまうということだ。それがゆえに、ドクターは保険営業員から格好の営業ターゲットにされていることも挙げられる。加えて、ドクターにはプライドが高い人が多く、「自分の価値は高い」という意識から高額な保険に入りがちという指摘もある。
保険という商品自体は悪ではなく、適切に活用すれば、愛する人の生活を守れる有益な金融商品だ。しかし、商品を販売することが仕事である保険営業員が提案してくる保険が、ドクターにとって一番適切な内容になっているとは限らない。自分では判断がつかない場合は、セカンドオピニオンに相談してみても良いだろう。
なお、上記は生命保険の話であり、ドクター特有の医師賠償責任保険の話とは異なる。患者からの医療訴訟が増える昨今、開業医なら医師賠償責任保険の加入は必須だろう。勤務医の場合は、病院によっては法人で加入していたり、保険料を負担したりしてくれる場合があるので、事前にしっかり確認しよう。
「医療訴訟の多くは賠償額(示談金を含む)が数十万円〜5,000万円の間に収まり、1億円を超えるケースは珍しい。したがって保険金額は、5,000万円〜1億円を目安に加入するのが良いだろう」と岡崎氏は指摘する。
マイホームを購入する前に、綿密なシミュレーションを
それでは、住宅はどうだろうか。「ドクターは年収が高いことに加えて、社会的信用力も高いため、融資を行う銀行にとっては『ぜひ貸したい優良顧客』だ。年収倍率も高く設定してくれることが多く、驚くような高額を貸してくれることがある。それゆえに、ドクターは高額なマイホームを購入することが多い」(岡崎氏)という。
しかし、「借りられる額」と「返せる額」は異なることには注意が必要だ。購入時は共働きで家計に余裕があったとしても、家族構成の変化などで、片方の収入が大きく落ちる可能性もある。住宅ローンの返済は問題ないとしても、子どもをドクターにしたい場合は、ローン返済を続けながら教育費も準備できるか、事前に綿密なシミュレーションを行うことが重要だ。
ドクターにおける「賢い住宅ローンの返済方法」として岡崎氏が挙げているのが「繰上返済」だ。繰上返済には「全部繰上返済」と「一部繰上返済」があるが、全部繰上返済はローン残高の全額を一度に返済することなので、現実的ではないだろう。
一部繰上返済には、「期間短縮型(月々の返済額はそのままに返済期間を短縮する方法)」と「返済額軽減型(返済期間はそのままに月々の返済額を軽減する方法)」があるが、より効果的なのは前者だ。ドクターは高収入であるため、正しく家計管理をすれば、まとまった返済資金を貯めやすい。住宅ローン減税期間が終わったあとは、状況を見ながら繰上返済を検討していこう。
第3回では、ドクターの老後資金対策やライフプランニングの重要性について見ていこう。
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