本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています
星野社長のキャリアを変えた経営理論 ポーターの競争戦略
ビジネスの現場で最も有名で、よくつかわれている経営理論は、ポーター(Michael E. Porter)の競争戦略ではないでしょうか。
星野リゾートの星野佳路社長は、あるテレビ番組で「私の1冊」を尋ねられて、ポーターの『競争の戦略』をあげていました。
どれが大事だったか聞かれると、私はこれを言わざるを得ないと思っているんです。マイケル・ポーターという教授がいまして、ビジネスの戦略本なんです。これが自分のキャリアを変えたと思っているんです。「やるべきこと」はたくさんあるわけです。その中で「何をやらないか」を決めることが戦略だというのが、やはり大きなメッセージです。
そこから私たち星野リゾートは、ホテルの「所有」はやめようと、「運営」だけに特化しようと決めたんです。
●4つの基本戦略
図8のように、ポーターは2行×2列の分割表で、4つの基本戦略を示しました。このシンプルさが人気の秘密かもしれません。
左右を分けるのは「競争優位」(competitiveadvantage)、つまり「どんなことでライバルより優位に立つか」です。図の左側は「低コスト」(lower cost)、右側は「差別化」(differentiation)を武器にする戦略です。
「低コスト」は、ライバルよりも低いコストで、競争を戦います。
コストが低ければ、ライバルと同等の価格設定でも、より多くの利益をあげることができます。自社は利益を確保しながら、ライバルが追随できないところまで価格を下げて、市場シェアの拡大をはかることもできます。
低コストを実現する方法には、「速度の経済性」や「密度の経済性」を含む「規模の経済性」、「範囲の経済性」、「経験効果」といったものがあります。
「差別化」は、競争相手にはない「独自の価値や魅力」によって、高価格を実現します。
差別化された商品を好む買い手は、どうしてもその商品が欲しければ、売り手の決めた値段で買うしかありません。これはある意味で「独占」のように「価格支配力」が強い状況です。商品の「付加価値」が高い、「顧客ロイヤルティ」が高いといってもよいでしょう。
差別化に成功すれば、ライバルとの価格競争に陥ることなく、大きな利幅を維持できます。ライバルと同じ土俵で戦うというよりは、「競争を避ける」「棲み分ける」という考えに近いかもしれません。
ポーターの競争戦略(図8)で上下を分けるのは「競争の範囲」です。「どんな顧客をターゲットにするか」「どの地域で活動するか」「どんな商品を提供するか」「どんな技術をつかうか」といったことです。上側は、幅広い顧客層をターゲットにする「広い標的」です。下側は、狭い範囲に活動を絞る「狭い標的」です。
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