本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています

なぜ、マクドナルドはハンバーガーを59円で売れた? コスト・リーダーシップ戦略

マクドナルド
(画像=PIXTA)

図8の左上(低コスト&広い標的)は、「コスト・リーダーシップ」(cost leadership)です。低コストを武器に、幅広い顧客層へ商品を売る戦略です。

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(画像=『今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」』より)

大量の商品を販売し、量産効果によって、低コストを実現します。低価格や薄利多売につながることも多いでしょう。

コスト・リーダーシップ戦略の代表は「カテゴリー・キラー」(category killer)と呼ばれるものでしょう。量産効果やさまざまな工夫で、品質のよい商品を低コスト(低価格)で販売し、ある商品カテゴリーで大きな市場シェアを占めます。

たとえばファッションの「ユニクロ」、家具の「ニトリ」、靴の「ABCマート」などです。

飲食業界ではあまり「カテゴリー・キラー」という言い方をしませんが、イタリア料理の「サイゼリヤ」、ハンバーガーの「マクドナルド」、中華料理の「日高屋」、回転寿司の「スシロー」、牛丼の「すき家」などは、それにあたる 存在でしょう。

●「マクドナルド」の競争戦略

あるテレビ番組で、日本マクドナルドの経営戦略が紹介されていました(以下の内容は、放送当時のものです)。

マクドナルドの低コストへの取り組みのひとつは、食材の仕入れにありました。ビーフ・パティの牛肉はオーストラリアとニュージーランド、バンズに乗るゴマは南米のグアテマラ、チキンはタイと中国、ポテトはアメリカなど、世界中から安くて質のよい食材を一括で仕入れ、コストダウンをはかっていたのです。

ハンバーガーのバンズは、世界最速のシステムで1日に100万個を製造する工場でつくられていました。低コストの秘密は、量産効果にもありました。

マニュアル化で有名なマクドナルドですが、世界中の味の標準化にも取り組んでいました。3ヶ月に一度、日本、オーストラリア、ニュージーランド、中国、台湾、タイなど世界各国から担当者が集まって、ハンバーガーの味にばらつきが出ないようチェックしていたのです。

日本マクドナルドは、1990年代の後半には大胆な低価格路線に向かいました。2000年にはハンバーガーを平日65円、2002年には59円まで値下げしました。

かつてのマクドナルドはつくり置きのハンバーガーを販売していましたが、2005年に新しい調理システム「メイド・フォー・ユー」を導入して、できたてを提供するようになりました。オーダーを受けてからバンズを焼き、マスタードとケチャップをつけ、ピクルス、オニオン、パティをのせ、ラッピングするまでの基準時間を50秒としました。

それを実現するために、お客がハンバーガーを注文した時点で(すべての注文を言い終わる前に)レジから厨房内のディスプレーに注文を表示させ、すぐにつくり始めるシステムにしました。調理時間を短縮するため、トースターやスチーマーも新たに開発しました。お客の待ち時間を30秒短縮すると売上が5%上がるというデータもあり、スピードを重視していました。

メイド・フォー・ユーによって、商品の廃棄ロスはほぼ半減しました。顧客満足と低コストを両立させたのです。

ここで紹介した「マクドナルド」はひとつの例ですが、低コスト経営を実現するために、企業はさまざまな工夫をこらしています。

今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」
佐藤耕紀(さとう・こうき)
防衛大学校 公共政策学科 准教授。1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。これまでに経営学の共著が6 冊ある。

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