本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています

仕事のデキる人が考えていること 選択と費用対効果

考える
(画像=tadamichi/PIXTA)

生物の場合、費用はエネルギーの消費や、死のリスク(捕食、ライバルとの闘争、病気、怪我、飢餓)でしょう。効果は、遺伝子(子孫)を残すということです。

組織の場合、費用はヒト・モノ・カネといった経営資源の消耗、効果は商品やサービスでしょう。

行政機関も経営資源をつかって、自衛隊なら国防や災害対応、警察なら秩序や安全、消防なら防火・救助・救急といった行政サービスを提供しています。行政機関にも、できるだけ少ない費用で多くの効果を出すという意味で、効率は求められます。

効果よりも費用の方が大きいのなら、それはいわば赤字事業ですから、やるべきではありません。つかった資源よりも小さな価値しか生み出さないということは、社会全体にとっても損失になるということです。

もちろん、長い目でみれば大きな価値を生み出す事業でも、一時的に赤字になるということはあります。今ではGAFAと呼ばれる世界トップ企業の一角を占めるアマゾンも、最初はずっと赤字続きでした。

事業には「不確実性」(uncertainty、先行き不透明)がつきものです。優れた経営者が堅実なプランを練ったとしても、「新型コロナ」のような思いがけない事態で、赤字になってしまうこともあります。

●費用対効果で優先順位を決める

とはいえ基本的には、効果よりも費用が大きい選択肢は避けなければなりません。そのうえで「費用対効果の大きな選択肢から実施する」というのが意思決定の基本ルールです。

費用よりも効果の方が大きい選択肢は、すべて実施すればよいと思われるかもしれません。しかし、ふつうは予算や人員、時間といった資源に限りがあるため、全部は実施できません。だからこそ、費用対効果で優先順位をつけることが大切になります。

たとえば明日が大事な試験で、勉強する時間はあと1時間しかないとします。もし国語を1時間やれば3点上がる、理科なら5点、英語なら8点上がる、という見込みなら、英語を勉強するのが合理的でしょう。

それは同じ1時間という費用に対して、効果のいちばん大きな選択肢を選ぶということです。「何も考えずに思いついた順番でやってしまう」という人は、つねに費用対効果を意識する人と比べて、長い人生では大きな差をつけられてしまうでしょう。「賢い」「デキる」「要領がいい」と言われるのは、費用対効果を意識して優先順位をつける人ではないでしょうか。

生産性の高い人たちは「優先度の高い仕事から順にやって、時間切れになったら、残った(あまり重要でない)仕事はやらずにあきらめる」「いつ時間切れになっても、その時点でベストの成果になっているようにする」という考え方をしていると思います。重要でないことについては「やらずにすませる」「簡単にすませる」ということをつねに考えているはずです。

みなさんは「トリアージ」(triage)をご存知でしょうか。「医療機関などで人手や設備といった資源が限られているとき、患者の治療に優先順位をつける」ということです。これはまさに、費用対効果にもとづく選択です。

みんなを救いたいと思っても、全員の治療に資源を分散すると、かえって多くの人が亡くなることがあります。手遅れと思われる患者や軽症者をあとまわしにして、治療効果が高い患者に資源を集中することで、結果的にはより多くの患者を救うことができるのです。

今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」
佐藤耕紀(さとう・こうき)
防衛大学校 公共政策学科 准教授。1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。これまでに経営学の共著が6 冊ある。

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