本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています

高いほど売れる「シーマ現象」 見せびらかし消費とヴェブレン効果

高級車
(画像=藤沢 竜生/PIXTA)

経済学者のヴェブレン(Thorstein B. Veblen)は『有閑階級の理論』(1899年出版)で、「見せびらかし消費」(conspicuous consumption)について考えました。「顕示的消費」や「誇示的消費」とも翻訳されます。今でも一般消費者への「マーケティング」(marketing、販売活動)に応用される考え方です。

ヴェブレンは、「ある品物が好まれるのは、ある程度まで、これ見よがしの無駄遣いであるからだ。無駄遣いであって、かつ所期の目的の役に立たないほど、役に立つとみなされるわけである」と書きました。

「無駄づかいできる」のは、「あり余る財産がある」ということです。無駄づかいをひけらかすことで、自分の能力や魅力を誇示できるのです。

日本のバブル期に「シーマ現象」というものが起きました。日産のシーマという高級車が飛ぶように売れたのです。買った理由を尋ねたアンケートでは、「値段が高いから」という回答が上位にあったそうです。こうした「高いほどよく売れる」という現象には「ヴェブレン効果」(Veblen effect)という名前がついています。

●動物も見せびらかす

「見せびらかし」は動物の世界にもあります。オスがメスに美点を見せびらかして交尾へと誘う「求愛ディスプレー」(courtship display、求愛誇示)という行動が、鳥類などで知られています。

孔雀のオスはとても美しい羽根をもっていますが、あれは無駄な贅沢品ともいえます。長い羽根はすばやく動くには邪魔で、生存には不利だといわれます。進化生物学者のザハヴィ(Amotz Zahavi)は、そういう贅沢品にコストを払っても立派に生きているという事実が、優秀な遺伝子の「正直なシグナル」(honest signals)になると考えました。贅沢な羽根は、優秀な遺伝子を求めるメスに好まれるので、繁殖では有利になります。繁殖の利点が生存の不利を凌駕すると、あのような羽根が進化するというのです。こうした考えは「ハンディキャップ理論」(handicap theory)や「シグナリング理論」(signaling theory)と呼ばれています。

●オスとメスで繁殖戦略は違う

動物の世界では一般に、異性をひきつけようと努力するのはオスです。鳥類では、派手な飾り羽根を見せびらかしたり、美しくさえずるのはたいていオスです。カエルやコオロギでも、鳴くのはふつうオスです。自分の存在や魅力をアピールして、メスをひきつける手段なのです。

派手な装飾や鳴き声で目立つと、天敵にも見つかりやすいので、生存には不利です。多くの動物のメスは見た目も地味で、意味なく目立つ行動はとりません。なぜ、オスとメスの繁殖行動は違うのでしょうか。このあとで説明しますが、実はそこにも費用対効果がかかわります。オスもメスも、それぞれのおかれた状況で、繁殖の効率を最大化する戦略をとっています。

生物の行動は、動物一般については「行動生態学」(behavioral ecology)、人間については「進化心理学」(evolutionary psychology)という学問で研究されています。

生態学と経営学には、多くの共通点があります。主役が生物か組織か、目的が繁殖か利益か、という違いはあっても、「厳しい環境や競争のなかで、優れた戦略をとり、効率的に目的を達成する者が勝つ」という点では同じだからです。

今さらだけどちゃんと知っておきたい「経営学」
佐藤耕紀(さとう・こうき)
防衛大学校 公共政策学科 准教授。1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。これまでに経営学の共著が6 冊ある。

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