株式投資や投資信託などの配当金や分配金、および譲渡益が非課税になるNISA(ニーサ)は、初心者でも取り組みやすい制度だ。一方で、NISAには意外と見過ごされやすいデメリットもある。本記事では、主にNISAのデメリットについて解説する。
NISA(ニーサ)とは?
NISAは、Nippon Individual Savings Accountの略称で、2014年1月から始まった少額投資を行う人のための非課税制度だ。NISAはイギリスのIndividual Savings Account(ISA)を参考に創設され、その背景には、「日本人の保有するお金をもっと投資へ向けてもらおう」という国の意図がある。
一般的に株式投資や投資信託などから得られた配当や譲渡益は、所得税や住民税の課税対象となるが、NISAは毎年一定の新規購入分を対象にその配当や譲渡益を最長5年間非課税にする制度である。NISAを利用するには、証券会社や銀行などの金融機関で「NISA口座」を開設することが必要だ。
なお金融庁は、NISAの対象となる金融商品として株式投資信託や国内株、国外株、国内ETF、国外ETF、ETN(上場投資証券)、国内REIT、海外REIT、新株予約券付社債(ワラント債)を挙げている。
一方、非上場株式や預貯金、債券、公社債投資信託、MMF・MRF、eワラント、上場株価指数先物、FX、金・プラチナなどは対象にはならないとしている。
NISA口座は、日本国内に在住する20歳以上の人なら誰でも開設できるが、すべての金融機関で1人につき1口座しか開設できない。そのため、NISAで外国株投資やインデックス投資などを検討している場合は、特に注意が必要だ。
NISAのメリットは?
NISAのメリットは、上述した通り投資や投資信託などから得られた配当や譲渡益が非課税になることだ。例えば、50万円で購入した株を100万円で売却した場合、通常は譲渡益50万円に対して所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%の税金がかかる。つまり50万円×20.315%=10万1,575円の税金が課せられる。一方NISA口座で株を購入し売却した場合は100%非課税となる。
なおNISAの非課税期間は、5年間であることに注意が必要だ。毎年120万円ずつNISAで投資すると5年間の投資合計額は600万円となる。6年目を迎えると新たに120万円の非課税分が加わるが、最初の年の投資分120万円の非課税期間が終わる。以後順次非課税期間が終了していくため、非課税で同時に保有できる金融商品は、最大600万円となる。
また、国内株式や投資信託の取引手数料が無料になる金融機関が多いこともNISAのメリットだ。例えばSBI証券や楽天証券、松井証券、マネックス証券などでは取引手数料がいずれもゼロとなっている。
見過ごされやすいNISAのデメリット
では、NISAのデメリットは何だろうか。以下に具体的に挙げてみよう。
年間120万円の投資限度額
上述した通りNISAの非課税限度額は、年間120万円だ。例えば、A株50万円、B株50万円、C株50万円を同時にNISAで購入したい場合、C株は購入できない。また当然ながら、120万円を超える銘柄も購入不可となる。NISAは、もともと「少額投資を行う人のための非課税制度」となるため、大型の投資を行う投資家にはあまりメリットとならない。
損益通算ができない
NISA口座で売買を行い、損失が発生しても損益通算ができない点もデメリットだ。損益通算とは、例えばA株の売却で50万円の利益を得てB株の売却で50万円の損失が出た場合、両者の損益を通算する仕組みである。たとえA株の売却時に源泉徴収されていても確定申告で取り戻すことが可能だ。しかしA株を売却したのが通常の課税口座でB株を売却したのがNISA口座の場合、B株の損失は損益通算できない。
その場合、A株売却により10万1575円が源泉徴収されたままになってしまう。さらにNISAで生じた損失は、翌年に繰り越して翌年の利益と相殺する損失繰越控除も利用できない。
5年後に非課税期間が終了するとどうなる?
NISAの非課税期間が終了するとどうなるのだろうか。その前にNISAの非課税期間「5年間」について確認しておきたい。非課税期間の5年間は、株式などを購入した日から数えて5年間という意味ではない。例えば、2021年1月1日に購入しても2021年12月1日に購入しても非課税期間が終了するのはいずれも2025年の年末だ。
購入した日によっては5年ではなく「4年と少し」となってしまうので注意したい。では、5年の非課税期間が終了したときの選択肢は何があるのだろうか。
売却する
1つ目の選択肢は、売却だ。非課税期間が終了する前に売却して現金化する。例えば、松井証券の場合、非課税期間が終了する年の最終営業日の2営業日前までに売却すると上場株式等は非課税だ。最終営業日の前営業日以降の売却注文は、受渡日が翌年になり非課税の対象にはならないため、注意しておきたい。投資信託の場合、非課税期間が終了する年の最終営業日までに受渡しが行われる解約益は非課税となる。
しかし受渡日が非課税期間終了年度の翌年となる解約を行った場合、非課税の対象とはならない。どちらにせよ売却する日によっては翌年の取り扱いとなる可能性があるため、売却を選択する場合は、年末ぎりぎりのタイミングは避けたほうが無難だろう。
ロールオーバーする
2つ目の選択肢は、ロールオーバーだ。NISAでは、非課税期間が終了した後に保有している金融資産を非課税期間終了年の翌年の非課税投資枠に移す(ロールオーバーする)ことが可能だ。ロールオーバーした金融資産は、翌年に新たに購入したものと同等に扱われるため、非課税期間を実質的にもう5年間延長することになる。
なおロールオーバーする金融資産の時価が非課税投資枠の120万円を超えていてもロールオーバーすることは可能だ。
・ロールオーバー時の注意点
ロールオーバーをしたい場合は、自動的に行われるわけではないため、注意が必要だ。期間が満了する前年度の11月末~12月上旬ごろまでに金融機関に申し込む必要がある。多くの金融機関では、書類などでのやりとりが行われ一定の時間がかかるため、ロールオーバーを希望の場合はある程度スケジュールに余裕を持たせたほうがいい。
またロールオーバーできるのは同一金融機関内だけで他の金融機関へロールオーバーすることはできないことにも注意が必要だ。例えば、2018~2019年までY銀行のNISA口座を利用していて2020年にX証券のNISA口座へ変更した場合、2018年に購入した金融商品をX証券の2013年枠へロールオーバーすることはできない。ロールオーバーをしたければ改めてY銀行のNISA口座へ変更することが必要だ。
課税口座に移管する
3つ目の選択肢は、課税口座への移管だ。NISA口座で売却せず翌年の非課税投資枠にロールオーバーを行わない場合は、多くの証券会社の場合自動的に課税口座へ移管される。移管される上場株式・投資信託等の取得価額は、非課税期間が終了する年の最終営業日の時価・基準価額となるため、注意が必要だ。
NISA口座で買付・購入した価格よりも課税口座に移管する際の価格が下落していた場合でも、当初の取得価額と課税口座へ移管する際の時価・基準価額との差額にかかる損失はないものとされる。また、課税口座に移管後、発生する株式や投資信託などの売却益・解約益や支払開始日を迎える配当金・分配金は、課税対象だ。
損失したのに税金を払う必要がある?NISA最大のデメリット
NISAには、課税口座へ移管する際に生じる可能性がある大きなデメリットがあるのをご存じだろうか。例えば、NISA口座で購入した100万円分の株式があり課税口座へ移管されたとする。移管時の時価が60万円でその後80万円で売却したとしよう。その場合、実際は損失となっているにもかかわらず、課税口座においては20万円の売却益が出たとされ、20万円×20.315%=4万630円が源泉徴収されてしまうのだ。
このようにNISAから課税口座へ移管された時点で損失が出ている場合は、その後の売却の株価によっては損失したのに税金を払う羽目になってしまう可能性がある。この点こそNISA最大のデメリットといえるだろう。
手続きが煩雑なNISA
NISAは、口座開設や口座の移動等の手続きが煩雑であることもデメリットといえる。特に外国株投資をNISAで行う場合、特に煩雑だ。例えばある証券会社の場合、最初に証券総合取引口座を開設し続けて外国株取引口座とNISA口座をそれぞれ開設する必要がある。さらにNISA口座の開設には、税務署による審査などで1~2週間程度かかるとされる。
二重口座開設防止が目的となるため、理解はできなくないがスピーディーな口座開設を願っている投資家にとってはデメリットだ。またNISAは、金融機関を変更することもできるが、その手続きが非常に煩雑で知られる。例えば、X証券からY銀行へNISA口座を変更するには、X証券に「金融商品取引業者等変更届出書」を提出し「勘定廃止通知書」を発行してもらうことが必要だ。
また、Y銀行に「非課税口座開設届出書」とともにX証券から受け取った「勘定廃止通知書」を提出しなければならない。しかもそうしたやりとりの多くは郵送で行われプロセス全体の完了までに相当の時間がかかる。さらにY銀行で新たにNISA口座を開設し直す必要も生じるのだ。当然Y銀行でのNISA口座開設手続きにおいては、税務署による審査も改めて行われることになる。
デメリットも理解したうえでNISAを利用しよう
NISAの基本情報やメリットに加えNISAのデメリットを中心に非課税期間終了後のNISAの取り扱いなどにつき解説した。株式などの譲渡益や配当が非課税になるNISAは、特に大きなキャピタルゲインやインカムゲインが得られた際は極めて大きなメリットとなる。一方でキャピタルロスなどが生じた際には、大きなダメージとなるリスクも忘れてはならない。
特にロールオーバーする際にキャピタルロスが生じると損失したにもかかわらず税金を払う必要が生じる可能性すらあるのだ。またNISAは、金融機関を変更するとロールオーバーができなくなったり非常に煩雑な手続きが求められたりするデメリットもある。そうした数々のデメリットについても十分に理解したうえで賢くNISAを利用すべきだろう。
NISA口座を扱っているネット証券比較表
最後にNISA口座を扱っているネット証券を表で確認してみよう。
証券会社 | 手数料 | 少額取引 | 外国株 | 投資信託 | 投資信託取扱数 |
SBI証券 | 無料 | 〇 | 〇 | 〇 | 2640本 |
楽天証券 | 無料 | 〇 | 〇 | 〇 | 2685本 |
マネックス証券 | 無料 | 〇 | 〇 | 〇 | 1218本 |
auカブコム証券 | 無料 | 〇 | × | 〇 | 1432本 |
松井証券 | 無料 | 〇 | × | 〇 | 1505本 |
※2021年8月20日現在
投資信託取扱数が多いのはSBI証券や楽天証券だ。
この他、各社比較してじっくり検討してみるとよいだろう。