アメリカでは2000年代前半から使われ始めていたFinTech(フィンテック)という言葉は、その後日本にも浸透し始め、今では誰もが知る言葉となっています。金融庁や経済産業省が研究会を立ち上げるなど、今後のFinTech(フィンテック)の可能性や規制の在り方について論じられていますが、実際にこのFinTech(フィンテック)によって今後の金融機関はどのように変化するのでしょうか。私たちの生活に与える影響を含め、考えてみたいと思います。

FinTech(フィンテック)とは?

FinTech(フィンテック)でこれからの金融機関はどう変わる?私たちの生活への影響は?
(画像=NicoElNino/stock.adobe.com)

「FinTech(フィンテック)」とは、「Finance」を意味する「金融」と「Technology」を意味する「技術」を合わせた造語で、インターネットやスマートフォンを使った決済や資産運用、ビッグデータ、そして人工知能(AI)などの技術を駆使した金融サービスを示す言葉です。

スマホ決済やキャッシュレスなども広い意味でFinTech(フィンテック)の領域に含まれます。

FinTechを用いた金融サービスの例

代表的なFinTech(フィンテック)を用いた金融サービスの例としては、スマートフォンのモバイル決済サービスやソーシャルレンディング(P2Pレンディング)、暗号資産における取引所やロボットによる資産運用アドバイス(ロボアドバイザー)などが挙げられます。

海外における代表例

海外ではFinTech(フィンテック)が先行して行われており、有名なFinTech(フィンテック)企業やスキームにはオンライン決済サービス会社である「PeyPal」や、アップルとGoogleが提供するスマートフォンのモバイル決済サービスである「Apple Pay」、「Google Pay」などがあります。

従来のサービスとの違いは?

FinTech(フィンテック)の金融サービスは、これまでも既存の金融機関やクレジットカード会社が提供してきたサービスと同様のものが多く見られます。新しいものといえば暗号資産における暗号取引所でしょうか。

FinTech(フィンテック)において、もちろんIT技術を駆使していることは事実ですが、既存の金融機関が提供できないサービスはあまりないと考えられています。例えば、オンラインバンキングはFinTech(フィンテック)という言葉が生まれる前から存在していますし、既存の金融機関やオンライン専業金融機関がそのサービスを提供し続けています。

個人向けのサービス重視の傾向

現在はインターネットを通じたサービスが主流となっており、暗号資産の取引においても個人間の取引が主となっています。そして、このような現状がFinTech(フィンテック)企業と金融機関が協調して新たなサービスを開始する背景にあります。

実際、日本の大半の金融機関におけるビジネスの中心は法人です。預金や貸し出しについても法人の割合が多く、決済や送金についても法人と個人間あるいは法人間同士の取引が大半でかつ、決済や送金時に大半の法人が手数料を支払っています。

もちろん、金融機関が個人口座を持つことは、法人取引上においても重要ですが、取引における預金および貸出のシェア以上の割合を個人間も含めた決済や送金サービスにおいて獲得するためにも大切なことだといえます。

つまり、競争力の根底を法人取引に置き、法人取引を多く獲得することが収益の向上に結び付いていた日本の金融機関において個人取引、特に富裕層ではない一般の個人顧客の取引をFinTech(フィンテック)企業との協調を通じ、これからのコアビジネスとして成長させることが、金融機関にとってメリットが大きく、今後の課題であるといえるでしょう。

FinTechを用いた金融サービスの特徴

現在の日本のFinTech(フィンテック)を用いた金融サービスには、手数料が発生するという特徴があります。金融機関やFinTech(フィンテック)業者の収益の一部はこの手数料で成り立っています。

ただ、決済および送金関連ビジネスにおける主な収入源は手数料だけではありません。金融機関の普通預金や当座預金にあたる資金の運用益も重要な収入源となり得ます。つまり、決済や送金における関連資金が短期間ではありますがFinTech(フィンテック)業者に留まることから、その資金を短期間運用することによって運用益を生むことができます。こうした運用益は、金利が高ければ高いほど収益が出るため、結果として手数料を引き下げる余地も出てくることになります。

しかし、現状の日本はマイナス金利であることから、資金を運用することによるコストの方が運用益を上回る現象が発生し、手数料を引き上げる要因となっています。

この手数料の問題については、未来投資会議(2020年)の議論の中に「銀行への接続手数料や銀行振込手数料のあり方」との項目が盛り込まれ、政府は公正取引委員会の提言を踏まえ、手数料の引き下げに向けた方策を打ち出しています。

コスト削減の一環としての導入

現在、日本の金融機関は上述のとおり低金利およびマイナス金利の影響を受けて、規模の大小にかかわらず収益の低下が続いています。そしてそれを補う有望な収益が見込める分野がなかなか見つからないため、大手金融機関をはじめとした各金融機関は人員整理を行い、人員の削減さらには店舗の削減を進めています。しかし、ただ単に人員や店舗を削減するだけではサービスの低下を招く要因となってしまうため、それを避け、さらに収益体質の強化を図るためにFinTech(フィンテック)を導入しているといえます。

金融機関が抱える課題

今後の手数料の削減そして、金融機関の収益体質の強化が見込まれるFinTech(フィンテック)ですが、その導入については膨大なコストがかかります。

社会インフラとしての使命

金融機関の決済は社会インフラとしての使命を担い、その責任を負っています。そのために銀行法などが制定されるとともに厳しい規制が課されており、それを遵守することが求められています。もちろん、これまでにも膨大なコストを人的およびシステム的にも投入してきましたが、加えて、近年の世界的なマネーロンダリング対策などの厳しい規制が導入されており、このような規制への準拠やシステム対応のために、今後も膨大な費用を投じる必要があります。収益の低下が問題視されている今、FinTech(フィンテック)を導入することによる社会インフラの整備とそれに伴うコスト負担が、現実問題として金融機関にのしかかっているといえるでしょう。

デジタルマネーでの給与支払いはどうなる?

現在、政府においてデジタルマネーでの給与支払いを実現するための検討が進められています。これまでの企業による給与の支払いについては、労働基準法にて現金で支払うことが原則とされ、預金口座への振込については例外的に認められていました。今回の規制緩和によって、この例外対象にデジタルマネーを加え、預金口座ではなく、資金移動業者でもあるスマートフォンの資金決済アプリに会社から給与を直接送金できるようにしようというものです。

現在の給与支払いは、事実上金融機関の口座振込がメインとなっていますが、資金移動業者として「PayPay」や「楽天」、「LINE Pay」など、81社(2021年6月30日時点)が登録されており、給与市場への進出を狙っています。これが実現すれば、資金移動業者によるサービスの利用と共に、現在金融機関に支払っている手数料負担を大幅に削減することも可能となります。

ただ、問題視されているのは、給与振込先として指定した資金移動業者が破城した場合に、早期に十分な金額の支払が補償される保全スキームが確立されるかどうかです。そのため、実現したとしても、どこまで普及するかはまだ不透明な状態にあるといえるでしょう。

FinTech(フィンテック)の今後

FinTech(フィンテック)においては、金融サービスと利便性、その独自性など、具体的なサービスの内容や質が問われる段階に移行しています。例えば、質の向上を目的として、金融機関がこれまで注目しなかったネットバンキングの「ユーザーが目に触れる部分」や「ユーザーが製品やサービスを通じて得た体験」の改善に、ITベンチャーと提携して取り組む姿勢も見受けられます。

金融機関を取り巻くデジタル化はこれからも活発化していくと予想されます。その流れに私たちの生活を豊かにする仕組みを取り入れ、自分なりに活用していくことが今後の私たちの課題とも言えるかもしれません。

(提供:Incomepress



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