9月18日から12月12日まで、東京都美術館で「ゴッホ展——響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が開催されます。タイトルにあるヘレーネとは、ゴッホ作品の世界一の個人収集家といわれる人物です。同展はこのヘレーネの集めた作品を中心に展示し、ヘレーネ自身にも焦点を当てています。
この記事では、ヘレーネの収集と20世紀初めに急速に高まったゴッホへの評価と人気の背景を解説します。アート投資への関心が高まりつつある昨今、ゴッホファンだけでなく、アート収集に興味がある人にも見てほしい展覧会です。
個人収集家ヘレーネ・クレラー=ミュラーとは
オランダ有数の資産家だったヘレーネは、ゴッホの評価が定まっていなかった20世紀初頭に、ゴッホに魅せられ作品を熱心に収集しました。絵画約90点と180点を超えるデッサン画と版画を集め、1908年からは作品の一般公開を始めました。国外の美術展にも作品を貸し出し、ゴッホの評価の形成を大きく支えました。
晩年のヘレーネは自分のコレクションをベースとした美術館を建てることが夢でしたが、経済危機により自身での建設を断念します。美術館の創設を条件にコレクション全作品をオランダ政府に寄贈し、1938年にクレラー=ミュラー美術館が誕生しました。初代館長に就任したヘレーネは、念願だった美術館の生誕を見届けるかのように、翌年この世を去りました。現在、クレラー=ミュラー美術館は、オランダのゴッホ美術館に続き、世界で2番目のゴッホコレクション数を誇る美術館となっています。
20世紀初期から急速に高まったゴッホ人気の背景とヘレーネの功績
現在の人気ぶりとは正反対に、生前に売れた油絵はたったの1枚だったというゴッホでしたが、実は生前からゴッホの評価が芸術関係者の中で高まりつつあったことがわかっています。亡くなる半年前には、美術評論家アルベール・オーリエの解説で、文芸誌にゴッホの作家としての重要性の掲載や、ベルギーの前衛芸術家グループ会「20人会」に招かれ展覧会に参加するなど、最も初期の評価として重要な出来事がありました。
ゴッホの死後、画家ベルナール・ビュッフェは、ゴッホに関するエッセーや交換した作品や手紙を発表しました。作品だけでなく残されたゴッホの手紙から彼の考えを知った人々は現代的なゴッホの表現力への理解を深めたのです。ゴッホに注目するコレクターもフランスなどで出現しはじめ、20世紀に入りゴッホの大胆な筆跡や色彩に影響を受けるフォーヴィスムやドイツ表現主義の画家が現れました。ゴッホの弟テオ一家は、所蔵するゴッホ作品の公開をアムステルダム市立美術館で開始し、1973年には前述したゴッホ美術館を開館しました。
一方、ヘレーネはゴッホの芸術から深い精神性を見出しました。ゴッホの内面に触れたヘレーネは、ゴッホの作品が心のよりどころとなります。1905年に最初のゴッホ作品を購入しました。早くから美術館を構想していたヘレーネは、ゴッホの画業の全貌を見渡せるようにと初期から晩年までの作品を網羅してコレクションしていました。結果、個人としては最大のコレクターとなり、クレラー=ミュラー美術館へとつなげました。
まとまった数のゴッホ作品が常に鑑賞できる場ができたことは、ゴッホの世界的評価の形成に重要な役割を果たしたのです。
ヘレーネがコレクションした注目作品
同展覧会ではクレラー=ミュラー美術館の所蔵品からは、ゴッホの絵画28点とデッサン20点が展示されます。その中の注目の作品を紹介しましょう。
・「森のはずれ」(1883年8~9月作)
ヘレーネが初めて購入したゴッホの風景画作品です。オランダ時代のゴッホは、大気の表現を試みくすんだ色味の風景が特徴のハーグ派に一時期学びました。いわゆるゴッホらしさのある鮮やかな色使いは、まだこの頃の作品には現れていません。初期は、暗い色調で風景画を数多く描いていました。
・「レモンの籠と瓶」(1888年5月作)
画面全体が黄色を基調とした静物画です。モチーフのテーブルの上の籠からあふれたレモンには、ゴッホの深い精神性が表現されているとヘレーネが絶賛した作品です。「ゴッホのレモンの隣に想像で実際のレモンを置いてみると違いがよくわかる」とヘレーネのコメントが残っているように、普通のレモンのとの違いを感じてみましょう。ヘレーネは、この作品を自宅に掛けて繰り返し眺めていたそうです。
・「夜のプロヴァンスの田舎道」(1990年5月12~15日作)
南仏プロヴァンスのサン=レミでの最後に描いた糸杉の傑作です。この絵のモチーフとなった糸杉は、ゴッホがプロヴァンスの象徴と考え、「ひまわり」のような代表的主題にしようと制作に熱中しました。本作は16年ぶりの来日ということもあり注目されています。美術館設立を目指し収集に本格的に着手したヘレーネがパリで購入した重要作品です。
ヘレーネの情熱を感じるゴッホコレクション
ヘレーネのすごいところは、ゴッホの初期作品から最晩年の作品までを網羅できるほど多くの作品を個人で集めただけでなく、ゴッホの素晴らしさを多くの人に伝えるために早くから作品を公開していたことにあります。
それは、財力に恵まれたのはもちろん、ゴッホへの理解と情熱があったからこそ。今日のゴッホ人気を支えた一人の女性の魂を、ゴッホ作品を通じて感じてみてはいかがでしょう。
(提供:JPRIME)
【オススメ記事 JPRIME】
・超富裕層が絶対にしない5つの投資ミス
・「プライベートバンク」の真の価値とは?
・30代スタートもあり?早くはじめるほど有利な「生前贈与」という相続
・富裕層入門!富裕層の定義とは?
・世界のビリオネア5人が語る「成功」の定義