ビスポークシューメーカーを志し、英国やイタリアに渡り経験を積み、今や世界のビスポークシューズ職人として活躍が期待される日本人がいます。その日本人ビスポークシューメーカーを3人紹介しましょう。

ビスポークとは「注文の、あつらえの」という意味で、ビスポークシューメーカーは顧客の注文を受けオリジナルの革靴を作る職人、という意味になります。ビスポークは「be spoke」が語源。注文服などは日本では「オーダーメード」という言葉がよく使われますが、ビスポークはいわゆる「仕立屋さん:テーラー」よりもクラフトマンシップの意味合いが強いニュアンスで使われることが多いようです。

英国のビスポークシューズ制作の日本人第一人者・松田笑子氏

覚えておきたい3人の日本人ビスポークシューメイカー
(画像=HannaChayka/stock.adobe.com)

日本人ビスポークシューメーカーの松田笑子さんは、元フォスター&サンの工房長で、英国のビスポークシューズ制作の第一人者として知られています。2020年には自身のブランド「Emiko Matsuda」を立ち上げました。

松田さんは1976年生まれで東京都出身。ロンドンの靴専門学校、コードウェイナーズ・カレッジ(現ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション)に通うため渡英し、同時に、老舗ビスポーク靴店「フォスター&サン」で木型とパターンを学び始めました。その工房で伝説の木型職人と呼ばれるテリー・ムーア氏に師事し、テリー氏の職人技を受け継ぎ、フォスター&サンにおいてもクオリティーコントロールを担う重要な存在として成長しました。

松田さんは、最初から靴職人志望だったというわけではなく、靴愛好家というわけでもなかったそうですが、留学先のコードウェイナーズ・カレッジでハンドソーン・ウェルテッド製法のレッスンを受けたことがきっかけに、ビスポークを知り、手で靴を作り上げる面白さにのめりこんでいったといいます。

英国における靴製作は昔から分業化されています。ラストメイキング、パターンメイキング、クリッキング、クローズィング、ボトムメイキング、ポリッシングといった工程ごとに専門の職人がいます。しかし松田さんは、それら全工程を熟知する職人として有名です。

英国クラシックシューズづくりに突き進む川口昭司氏

川口昭司さんは「世界トップクラスの職人」と称される名高いビスポークシューメーカーです。

1980年福岡生まれの川口さんは大学卒業後、英国ノーサンプトンにある公立職業訓練校を経て、職人のポール・ウィルソン氏に師事し靴づくりを学びました。帰国後、2011年に靴工房「マーキス」を開設し、アッパーの縫製を担当する夫人と複数の弟子という体制で、月産7~8足のビスポークシューズを製作しています。

師匠のポール・ウィルソン氏は、英国北部のニューカッスルに住み、パリの「ジョン ロブ」や「ジョージ・クレバリー」のアウトワーカー(外注職人)として活動する名人級の職人です。その師匠から川口氏は時に厳しく、職人としての技、仕事のスタイルを学んでいきました。

師の工房から独立した川口さんは、ロンドンでフリーの職人として活動し「ガジアーノ&ガーリング」をはじめとするいくつかのシューメーカーの仕事を手がけていきます。帰国後も海外メーカーとの仕事は継続していました。ロンドンのメーカーは、現地と日本とで靴のやり取りをし、手間だけでなくコストもかかっても川口さんに仕事を依頼していたのですから、いかに川口さんの仕事ぶりを評価していたのかがわかります。

海外から靴職人をめざす若者が修行にやってくるほどに有名となった「マーキス」ですが、規模の拡大は避け、地道に商売を続けており、現在も最高の靴を求める顧客たちの注文は絶えません。

フィレンツェに工房を構える谷明氏

そして3人目の日本人ビスポークシューメーカーは谷明さんです。

谷さんは1984年生まれの大阪府出身。高校卒業後、仕事をしながら靴の学校に通い、友人の影響もあり、2012年、フィレンツェに渡りました。ステファノ ベーメルに入社して5年半の経験を積み、2019年独立。フィレンツェで「AKIRA TANI」ブランドを始動させました。

サンタクローチェ地区の自宅の一室を工房にして「AKIRA TANI」をスタートさせると、たちまち、世界中のそうそうたるウェルドレッサーたちから注文が舞い込み一躍大人気となりました。「力強さに満ち、媚びることなく、気高い」というのが「AKIRA TANI」への評価となっているようです。

ステファノ ベーメル時代は底付け工程ひと筋で「世界一の底付け職人になりたい」と考えていた谷さんは、独立して自分の名前をブランド名にした靴を作るといたことはまったく考えていなかったそうです。

しかしフィレンツェで仕立屋工房「サルトリア コルコス」を営む宮平康太郎氏から靴の注文を受けたことから、自分が作った靴を人に履いてもらうことの喜びを知ったといいます。

若い世代が歴史ある欧州の職人の世界で活躍

今回紹介した3人は、最年長の松田さんでも40代、川口さん、谷さんの両名はさらにその下の世代です。こうした若い日本人が長い歴史と伝統を誇る欧州の職人の世界で活躍しています。

彼らはおそらく日本よりも海外で有名な職人として知られているはずです。しかし彼らの作り上げた靴を一つひとつ見ていくと、何か誇らしい気持ちになるから不思議です。靴のことをよく知らない人でも、いかに彼らが技の限りを尽くし、細心の注意を払ってモノづくりに挑んでいるのかが理解できるからでしょう。

機会があれば、一度、彼らの作品を見ることをお勧めします。そしてもしできるなら、じかにそれらに触れ、一足注文してみるのもいいかもしれませんね。

(提供:JPRIME


【オススメ記事 JPRIME】
超富裕層が絶対にしない5つの投資ミス
「プライベートバンク」の真の価値とは?
30代スタートもあり?早くはじめるほど有利な「生前贈与」という相続
富裕層入門!富裕層の定義とは?
世界のビリオネア5人が語る「成功」の定義