アンリ・マティスは、大胆な色彩表現が特徴的な20世紀を代表する画家です。そんなマティスを紹介する展覧会「マティス 自由なフォルム」が、新型コロナウイルスの影響で延期となったものの、来年以降に国立新美術館で開催される予定です。

同展は、マティスの晩年のスタイル「切り紙絵」への足跡に焦点を当てています。切り紙絵が日本でまとめて展示されることは極めてまれなことで、見逃せない貴重な機会となることでしょう。

今回の記事では、展覧会「マティス 自由なフォルム」に先駆けてマティスの切り紙絵について紹介します。

色彩の魔術師マティスの人生

晩年の切り紙絵スタイルで自由を手に入れた「マティス 自由なフォルム」が来年開催
(画像=J PRIME編集部)

マティスは、1869年にフランスで生まれた画家。病気の療養中に母親から絵の具を与えられたことで、絵画の面白さに目覚めました。美術学校で学ぶだけでは飽き足らず、象徴主義の先駆者だった画家ギュスターヴ・モローに教えを受けます。当時の画家の例に漏れず、マティスの初期作品には新印象派の影響を受けたものが多いです。

マティスの初期作品が持つ特徴は、人物の顔に緑や青色を用いている点です。大胆な色彩表現が特徴の“フォーヴィスム”の中心的な画家としてパリで頭角を現した同氏は、独特の色使いから「色彩の魔術師」とも呼ばれていました。

20世紀初頭にかけてマティスは、ピカソやマルセルなどと並んで美術史に革新をもたらす作品を数々生み出しました。

切り紙絵は晩年の作品スタイル

マティス氏は、人生の後半をフランス南部のニースで過ごし、アトリエの中で静物画や女性モデルをモチーフとした室内画の制作に没頭しました。後にニースでの晩年に精力的に取り組んでいたのが、「切り紙絵」の制作です。切り紙絵とは、色を塗った紙をハサミで切り取った上で、それを別の紙面に貼り付ける手法です。マティスは晩年の大病により体力が落ちたことで、それ以前のキャンバスに向かって油絵を描くことが難しくなりました。筆を思うように操れなくなった苦肉の策として生まれたスタイルですが、その結果として色と形の究極の単純化へとつながりました。

今回の展覧会のタイトルにある「自由なフォルム」とは、マティスが作品の制作過程でモチーフの配置や配色を構想する際に、紙から自由にフォルムを切り取り、自由自在に並び替えられる切り紙絵が大いに役立ったことを示しています。老いて身体は思うように動かなくなりましたが、切り紙絵により自由な創作を手に入れたのです。

「マティス 自由なフォルム」の見どころ

「マティス 自由なフォルム」では、ニース市内のマティス美術館に所蔵されている作品を中心に紹介されます。晩年の作品である「切り紙絵」を中心に、フォーヴィスムの技法が用いられた絵画、彫刻、版画、テキスタイルなど、多種多様な作品が展示される予定です。

この章では、特に見どころとなる4つの作品を紹介します。

・マティスを有名にしたフォーヴィスム時代の作品「マティス夫人の肖像」
まず1つ目は、マティス夫人の肖像です。マティスがフォーヴィスム時代に描いた作品であり、同氏が一躍有名となったきっかけとなる作品です

この絵の最大の特徴は、濃い緑色が顔の肖像に使われている点です。新印象派に影響を受け今までの伝統的な技法とは異なるかたちで光と影の研究を進め、本来は顔に用いられることがほとんどない大胆な色を使用しました。見る人を強く引きつける絵画となっています。

・集大成である南仏プロヴァンスのロザリオ礼拝堂の再現
2つ目は、晩年のマティスが建築に注力したとされている南仏プロヴァンスにあるロザリオ礼拝堂が体験型の展示として再現される予定です。マティスは、1948年から4年という長い月日をかけて礼拝堂内部の建築、内装、司祭の服のデザインまで手掛けました。

展覧会では、礼拝堂の内部にある聖ドミニクスの陶板画の基となったデッサンや、鮮やかな青色が美しいステンドグラス「生命の木」の習作を見ることができます。芸術家人生の集大成とも言われるマティスのロザリオ礼拝堂の装飾や建築などを楽しめます。

・切り紙絵の最高傑作「ブルー・ヌードⅣ」
3つ目は、マティスが制作した切り紙絵の中でも最高傑作の1つに数えられる「ブルー・ヌードⅣ」です。

鮮明な青一色の切り紙用いた裸婦像作品です。最大の特徴は、作品内に試行錯誤の痕跡が残っている点です。4点連作の4作目とされていますが、下書きの跡が残っていることから、一番初めに着手したと考えられています。制作の過程が見えるところが、他の作品と異なるポイントです。

・日本初公開の切り紙絵の大作「花と果実」
4つ目は、切り紙絵である「花と果実」です。知人の別荘のパティオの陶板装飾として製作したと言われています。2本の柱の間に明るい色調で花と果実が構成された大作です。この作品を完成させた後にマティスは84歳で亡くなりました。

およそ4×8メートルの大きさの同作は、所蔵されているマティス美術館では専用ケースにはめ込まれているため、ほとんど門外不出でした。日本で初公開となる作品は必見です。

切り紙絵という新境地を開いたマティスの最晩年の作品に期待

以上、マティスの切り紙絵について紹介しました。身体が思うように動かなくなったことがきっかけで生み出した切り紙絵のスタイルですが、切り紙絵の手法により色彩とフォルムがいっそう研ぎ澄まされ、マティスの表現を飛躍させました。

切り紙絵にスポットを当てた「マティス 自由なフォルム」は、過去に開催されたマティス展とは趣の違う展覧会として注目を集めることでしょう。晩年のマティスの精力的な活動と色彩とフォルムに包まれ至福の時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

(提供:JPRIME


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