次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社アイル代表取締役社長の岩本哲夫氏。同氏に創業のきっかけや事業の広がり、自社の競争優位性、未来構想などを聞いた。

(取材・執筆・構成=菅野陽平)

株式会社アイル
(画像=株式会社アイル)
岩本 哲夫(いわもと・てつお)
株式会社アイル代表取締役社長
1955年8月4日生まれ。大阪府出身。新卒入社した大塚商会にて、法人システム販売のトップセールスとして活躍。91年に35歳でアイル設立。07年にジャスダック(当時ヘラクレス)、18年に東証第二部上場を経て、19年に東証第一部に市場変更。企業のニーズにマッチしたビジネス戦略で、業績は成長を続ける。さらに、コミュニケーションを重視し、社員の経営思考を養う、独自の社員教育や企業文化も注目を集める。学生時代はバンド活動に熱中。社内行事でも社員やバンド仲間とサプライズでライブ演奏することも。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

上場当時から現在の「CROSS-OVER シナジー」をイメージしていた

アイル

冨田:まず、創業のきっかけや現在に至るまでの事業の広がりについて教えて下さい。

岩本:小さい子供もいましたし、住宅ローンも残っていましたし、最初はそんなに起業するつもりはありませんでした。自分で言うのも何ですが、前職ではトップセールスマンで出世街道を邁進中、上司からも可愛がられて、部下からも慕われていましたので(笑)。

ただ、大きな会社だと異動がありますので、ずっと気の合うメンバーだけで仕事することは難しいですよね。気の合うメンバーで仕事を続けたいなと思っていたことに加えて、お客さんだった中小企業のオーナー社長に「君は独立したほうが良いタイプだ。独立するなら早いほうが良いよ」と言われたこともあり、前職の仲間と共に独立しました。

何のバックもなく、大阪のワンルームマンションを事務所にして、裸一貫でのスタートです。お金もなかったので、デスクや椅子は取引先からのいただき物で、自分たちで用意したものといえばセールで買ったホワイトボードだけでした。

冨田:前職の証券会社時代、配分されたアイルさんのIPO株が大きく値上がりして、担当していたお客様にとても喜んで頂いた記憶があります。久しぶりに当時の有価証券報告書も拝見させて頂きましたが、当時から、サービスラインナップが変化していますね。

岩本:当社は、ITの有効活用が必要な中堅・中小企業顧客の経営課題を解決するための商材を「リアル」と「Web」の両面から開発・提案し、顧客の企業力強化を図っています。「リアル」と「Web」の両面から支援することを「CROSS-OVER シナジー」戦略と呼んでいます。

「CROSS-OVERシナジー」は競合他社が真似できない当社独自のサービスで、圧倒的な武器になっています。時代の変化に合わせ終了した「@ばる事業」などもありますが、おかげでWebの知識を社内に溜め込むことができ、Webシステムを自社開発できるようになりました。いずれにせよ上場当時から、最終的な事業イメージはいま行っている「CROSS-OVERシナジー」だと考えていました。

ただ、当時の力ではできないこともあったので、まずはできることから始めたという形です。創業時に至っては、パッケージシステムを自社開発するなんて夢のまた夢という状態でした。システム・インテグレーション事業をやろうというのに、創業当時はシステムエンジニアさえいませんでしたから。いわば医者のいない病院のようなものです(笑)。

そこからのスタートですから、怖いものは何もありません。「こういうアイディアを思いついたのだけどどうだろうか」「今のリソースだとできません」「いや、ここをこうすれば、ひょっとしたらできるのではないか」という議論を重ねて、無謀とも思える課題に向き合い、可能性は無限大と信じて進んできました。

社員にも伝えているのですが、まずは妄想でも良いから理想像をイメージして、それを実現するためにはどうすれば良いか必死に考える、という姿勢が重要だと思います。

一番の競争優位性は組織の文化

アイル

冨田:戦略的に事業展開されてきたのですね。御社の競争優位はどこにあるとお考えでしょうか?

岩本:もちろんビジネスモデル自体も挙げられますが、一番は組織の風土や文化、士気の高さだと思います。IT業界は比較的人材の流動性が高い業界だと思いますが、一度当社に入った人間はなかなか辞めません。定着率が高いです。今は他社からどんどん優秀な中途採用者が入ってきているのですが、アイルの文化や定着率に驚かれることが多いです。

仕事が仕事ではないというか、遊びを仕事にしている感覚です。もちろん、真面目に働くのですが、みんな好きでやっているのですね。昨今は働き方改革が叫ばれており、例えば「19時までには帰りなさい」と定めている会社もあると思いますが、当社では、自分がやりたいのであれば、何時まででもやってもらって構いません。その代わり、翌日は遅めに出社するなど、柔軟な働き方を認めています。

「アイルの常識は業界の非常識」という言葉がありますが、これは褒め言葉だと思っています。やっぱり人は気持ちで動くのですよ。仕事だと思ってやっている他社の営業と、本当に好きでやっている当社の営業では、お客さんに響く強さが違います。お客さんも「アイルさんは来る人全員の目の輝きが違うね」と言います。

「一番の優位性は何か」と聞かれたら、社員1人1人のアイルを愛する気持ち、プライド、文化、そういったことが挙げられると思います。

冨田:ここまで組織の風土について言い切って頂く経営者は滅多にいませんので、聞いていて気持ち良いですね(笑)。岩本社長のなかで、経営の意思決定の基準はありますか?

岩本:よく「経営者は孤独だ」と言いますが、当社はトップダウンで物事を決めることがほとんどありません。当社の多くの決定事項は、部下や現場からの声に従っています。私が意見を言うと、的確な反論が返ってきます(笑)。面子が潰されたという気持ちは全くなく、「さすが、細かいところまでよく見ているな」と嬉しくなります。

社員が社長や役員へ直接メッセージを発信することができる「メッセージメール」という仕組みもあります。現場の日常や顧客の様子などを知る機会にもなっており、現場重視の経営判断を支えてくれています。「お昼休みが12:00からだとお店が混むので、11:45からにしてくれ」「クールビズ期間限定だったカジュアル出勤をオールシーズンで認めてくれ」といった細かい要望にも対応しています。

私は、社員の名前はもちろん、新卒社員であれば出身大学や出身地も覚えていました。トップと社員の距離は近く、風通しは良いと自負しています。事業部ごとに好成績を残した社員が社長、役員と一流料亭で食事をする会食制度もあります(現在はコロナの影響により高級弁当などを社員の自宅へ配送)。

営業利益率を高めて、できるだけ早く営業利益100億円を達成する

アイル

冨田:製販一体で社員の業務領域が広くなると、中途採用の経験者に即戦力として活躍してもらうか、新卒社員をしっかりと育てていき、長く活躍してもらうかが重要だと思います。御社は中途採用者も多く迎えているかとは思いますが、後者の好循環が会社の資産になっていると感じました。では、ここからは未来構想についてお聞きしたいと思います。

岩本:大手競合他社を抜いて、業界1位になりたいと思っています。とある大手競合他社の営業利益率は、おそらく30%くらいあると思うのですが、当社は2021年7月期時点で13.9%です。まずは節目である20%を目指します。

そして、営業利益率を高めたうえで、できるだけ早く営業利益100億円(編集部注:2021年7月期は18億2,900万円)を達成したいと思います。そのとき営業利益率は、その競合他社に近い数字になっているはずです。

ストック収入(メンテナンス料)の伸び率は120%くらいです。このままの伸びでいくと、まずはストック収入だけで人件費を賄うことができます。

冨田:2021年7月期の決算説明資料を拝見すると、2018年7月期の営業利益率は5.6%でしたが、2019年7月期は9.0%、2020年7月期は13.4%、2021年7月期は13.9%と営業利益率の改善が目覚ましいですね。

岩本:パッケージの機能面の強化、営業の分析力の強化に加えて、有名企業のお客さんも増えてきていることも一因です。導入検討企業の安心感につながり、商談もスムーズになってきています。

冨田:2021年7月期の決算発表と同時に、2024年7月期までの中期展望も発表されています。

岩本:営業利益に関しては率もボリュームも上がっていくと思います。以前は売上100億円を目指しており、達成までに約30年かかりました。しかし、事業に加速がついているため、プラス100億円、つまり売上200億円は、近い将来に達成できるのはないでしょうか。

競合他社の時価総額は2兆円くらいです。アイルは約500億円です。数年の間に時価総額1,000億円は達成したいと思います。そして、ゆくゆくはその競合他社の時価総額に追いつき、追い越したいと思います。言ったことはほとんど実現してきているので、達成できると信じています。

冨田:今後も成長されていくイメージが存分に伝わってきました。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
岩本 哲夫(いわもと・てつお)
会社名
株式会社アイル
役職
代表取締役社長