次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、コロナ禍において需要が伸びているフォトウェディング事業を主軸とする株式会社デコルテ・ホールディングス代表取締役社長の小林健一郎氏。同社の事業展開の考え方や「写真」というコンテンツの可能性について伺った。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
2001年11月に株式会社デコルテを設立し、「Happiness」「Beauty」「Wellness」をテーマに掲げエステサロンを開始し、2004年にチャペルウエディングサービスに参画。少子高齢化により婚姻組数が減少するなか、チャペルウエディングサービスにおいて内製化していた結婚写真のニーズが高まったことから、2008年にスタジオ事業として独立させ、フォトウエディングサービスの提供を開始した。2010年には梅田・新宿に独立型のスタジオを出店し、その後継続して事業を成長させる。2021年9月時点でフォトウエディングのリーディングカンパニーとして、18店舗を展開、撮影組数シェアは国内No1となっている。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
アジアの国々で出会ったフォトウェディング文化を日本へ
冨田:まずは、創業から今の主軸であるフォトウェディング事業を展開するに至った背景をお話しいただけますでしょうか。
小林:2001年に創業し、最初はエステやリラクゼーション事業と並行してウェディング関連事業を行っていました。当時提供していたのは、ミニチャペルでの挙式と写真撮影やドレスアップ、周辺のカフェやレストランと提携して食事会まで行える、リーズナブルな結婚式パッケージです。お客さまが力を入れたい部分にはお金をかけられる、カップルそれぞれのウェディングの形を実現できるようなサービスにしていました。
その衣装の買い付けなどを行うために訪れたアジアの国々で、「フォトウェディング」というものに出会ったのです。海外では、結婚式とは別の日に、景色の綺麗な場所で写真を撮る文化があることを知り、この体験を日本に持ち帰ってきて広めたいと感じました。
今は結婚式を挙げない方も増えてきています。それは費用の問題もありますが、価値観が多様化し、必ずしも結婚式を挙げることがすべてではないと考える方が増えているのです。一方で、ドレスや着物を着たい、写真を残したいというニーズはあります。であれば、挙式しない方々に向けたフォトウェディングは広がっていくだろうと思い、注力し始めました。
もちろん、結婚式をする人にとっても、別の場所や衣装で写真を撮るというのは魅力的な体験になりますから、「前撮り・別撮り」としてのニーズもたくさんあります。
冨田:私はZUUを創業する前に勤めていた金融機関時代、海外でも働いていました。一番長くいたシンガポールでは、友人たちがフォトウェディングを目的として「台湾に行ってきた」「香港に行ってきた」ということで写真を見せてくれたり、Facebookなどにアップしていました。特に日本は、東南アジアのフォトウェディングスポットとして大人気でしたね。
「そういう市場があるんだな」と思ったことはよく覚えています。そういったところから、デコルテさんのような企業を中心に日本のマーケットが出来上がってきていると感じます。フォトウェディング事業から、徐々にラインナップを広けられていますが、具体的にはどのような方針で展開されてきたのでしょうか?
小林:まずは、女性を綺麗に撮って写真を残していくこと。これを軸にしています。特に成人式は写真の不満足が高いです。成人式と言えば、もともと着物のレンタルがマーケットの中心で、写真はそのプラスアルファという位置づけです。
ただ、成人式で撮った写真をSNSに上げるという慣習ができてくるにつれて、だんだんと写真の不満足が高まってきました。成人式もいい写真を残したいという声が顕在化してきたことは、我々にとってチャンスです。
また、成人式写真の他にも、家族や子どもの写真といった領域にサービスを展開していきます。ただ、しばらくはフォトウェディング事業が成長ドライバーになると思っています。
「大々的に挙式は挙げられないが思い出に残したい」コロナ禍におけるニーズとマッチ
冨田:コロナ禍の情勢を鑑みても、フォトウェディングにとって追い風になっていますよね。コロナによってウェディング市場へのマイナスインパクトは一定あるものの、対面で大人数を集めにくい状況に適応する形でフォトウェディングのニーズが増え、さらに挙式をしない分、フォトウェディングにもっとお金をかけるような選択肢も出てくるのではないでしょうか。
小林:そうですね。実は2019年までの段階でも、徐々に単価や比率が高まっていました。19年末には、我々のお客さまの中で挙式される方が6割、挙式されない方が4割でした。大きなトレンドとしてゆるやかに伸びてきた中で、コロナ禍に直面した直近でいうと、お客さまのうち挙式されない方が6割、挙式される方が4割という状況です。
冨田:比率が逆転したんですね。
小林:はい。ただ、急に一転したというよりは、トレンドが加速したというイメージですね。コロナによって5年ほど先の未来がやってきたと捉えています。
冨田:なるほど。今日こうやってオンラインミーティングさせていただくこともそうですが、例えばIT業界なんかはコロナ前後で出社とリモートのマジョリティが逆転しています。そうなってくるとやはり、市場感も変わってくるのかなと思います。
小林:そうですね。やはり大人数をお招きする挙式や披露宴は、まだ見通しが立たない状況ですから、結婚式を挙げたい方にとっても、結婚のタイミングでの選択肢は我々の事業を含めて増えていくでしょう。
ブランディングの要諦は「ソフトニーズへの対応」と「Webでの強さ」
冨田:マーケットが変わりゆく中で、フォトウェディングの業界における御社の競争優位性は、どのようにお考えですか?
小林:フォトウェディング事業を国内で先んじて行ってきたという優位性はあると思います。というのも、フォトウェディングの重要要素として、女性を綺麗に仕上げることが挙げられます。日常的にメイクをされている女性のお眼鏡にかなうようなメイク、ヘアメイク、ドレスアップや写真の雰囲気など、ディテールに差別化要因があると考えています。
工業製品のように「この機能が違う」とわかりやすく言い切れないような細かい積み重ね、小さいこだわりが、「(デコルテで撮った写真は)なんか違うよね」「なんか可愛いよね」というお客さまの満足を生んでいます。
女性のウェディングに対する思いに応えられるソフトな部分が非常に重要です。意外とここが、一番真似しにくいポイントではないかと思うのです。
冨田:今御社は、フォトウェディング分野で撮影組数シェアナンバーワンとのことです。その要因として、直近の決算資料などから、プロフェッショナル職や備品の内製化と、ウェブマーケティングの内製化があると拝見しました。これらの点も競争優位と考えてもよろしいでしょうか?
小林:そうですね。プロフェッショナル職の人材は流通が少ない領域ですので、採用して2年間という時間をかけながらしっかり育て、プロとして提供できるクオリティをクリアできるレベルにしています。ここは真似しようと思っても時間がかかるところではないかと思います。
冨田:90%がWebからの集客とのことですが、なぜこういった強い仕組みがつくれたのでしょうか?
小林:フォトウェディングは地域性が強いビジネスで、ロケーションや写真のイメージ、撮影プランはエリアごとに完結しています。例えば、大阪で撮りたい方にとって、東京の情報はいらないですよね。リゾート地に行くのであれば、その場所の店舗サイトにしっかりメニューを載せていればいい。
我々は当初からエリアごとにブランドを分けて、首都圏であればスタジオAQUA、関西であればスタジオTVBなど、地域特化スタジオをつくってきました。エリア内の各店舗にも個別のサイトをつくり、かなり細かな地域の情報、ロケーションの写真をしっかり載せています。そしてその18店舗分(2021年8月末時点)のサイトで、それぞれ集客のためのキャンペーンやSEO対策など、日々のいろいろな施策を通してチューニングしていきます。
これを外注で行うとなると相当な工数になると思いますが、内製化することでコスト面や知見の蓄積という面でメリットを感じています。そこに人を割けるくらいの企業規模になっているというのもポイントです。
冨田:なるほど。エリアごとに網をかけることによって、撮影組数シェアナンバーワン、かつ9割がWeb集客となっていると。それらの結果として、Web集客が勝ち筋になってらっしゃるとお見受けしました。ありがとうございます。
写真体験とアニバーサリーをもっと魅力的に
冨田:今後の展望として「ライフフォトカンパニー」というコンセプトも掲げていらっしゃいますが、描かれている未来像をぜひお話しいただけたらと思います。
小林:私たちが実現したいのは、写真を軸にした思い出づくりです。冒頭でもお話ししましたが、写真は非常に魅力的な体験になります。
当日は、家族や親族や友人が集まったイベントとしての写真撮影があり、それを後日見るという楽しみ方もあります。さらには、遠い将来に再度写真を見て思い出を懐かしむことできます。こういった非常に長いスパンで楽しめる有意義なコンテンツが写真なのです。
今後コロナ禍が明けていく中で、結婚の思い出として写真を残すことで、忘れられない深い思い出になる体験をしてもらえる人を増やしていきたい。ゆくゆくは、フォトウェディングをやるかやらないか、という話よりも、東南アジアのように「(フォトウェディングで)どこに行く?」「何着る?」という話題が自然に出るような日本の「文化」として定着させたいと考えています。
そのリーディングカンパニーとして我々は重要な役割を担っています。まずはそれぞれのお客さまの人生のアニバーサリー、思い出づくりいうところにしっかり携わっていきたいと思います。
プロフィール
- 氏名
- 小林 健一郎(こばやし・けんいちろう)
- 会社名
- 株式会社デコルテ・ホールディングス
- 役職
- 代表取締役社長