次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、株式会社エイチーム代表取締役社長の林高生氏。同氏に、事業展開の考え方、競争優位性、未来構想などを聞いた。(取材・執筆・構成=菅野陽平)

株式会社エイチーム
(画像=株式会社エイチーム)
林 高生(はやし・たかお)
株式会社エイチーム代表取締役社長
1971年、岐阜県土岐市出身。1997年に個人事業としてエイチームを創業、ソフトウェアの受託開発を開始。2000年に有限会社エイチームを設立し、代表取締役社長に就任。2012年4月に東証マザーズ上場後、史上最短の233日で東証一部への市場変更を実現。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

バックグラウンドにあるのは「このサービスはずっと続くのだろうか」という不安

冨田:2012年の上場ですよね、当時まだ証券会社にいたためよく覚えています。当時はエンターテインメント事業とライフスタイルサポート事業の2軸だったと思いますが、近年はEC事業も独立させているかと思います。何をベースに、また軸にして事業を展開されているのでしょうか。会社によってはユーザー視点、プラットフォーム視点など色々なパターンがあると思いますが、林社長の考えを教えていただければと思います。

:創業当時は企業向けのシステム開発を請け負っていました。ただ、下請けが性に合わなかったため、フィーチャーフォン、いわゆるガラケー向けのゲーム開発に事業をシフトさせていきました。

ゲーム開発はある程度うまくいきましたが、一方で「このようなガラケーによるコンテンツの配信サービスが長く続くのだろうか」とずっと思っていましたね。当時のインターネットの主流はガラケーではなくパソコンで、パソコンを使ったもっと違うビジネスができないかと思っていたところ、ふとしたきっかけで、ライフスタイルサポート事業の前身となる引っ越し比較サイトを立ち上げることになりました。

創業から今日に至るまで、バックグラウンドにあるのは「このサービスはずっと続くのだろうか」という不安です。過去の産業の歴史を見ても、ひとつの事業が長く続くことはないと思います。そのため、ひとつの事業に固執するというよりも、我々はビジネス創出プラットフォーマーでいたいと思っています。実際、新規事業案コンテストが社内にあって、どんどん新しい事業アイディアが生まれてきています。

冨田:なるほど、その考えが、事業ごとに会社を作る組織形態につながっているのですね。

:そうですね。権限と責任を明確にして、経営者としての経験を積んでもらいたいという意図もあります。

冨田:複合企業はコングロマリットディスカウント(編集部注:複数の事業を有する企業の企業価値が、個別の事業の価値を合計した額よりも小さくなってしまう状態)の指摘もありますが、Google(Alphabet)が持株会社化したこともあり、再評価されつつあるようにも思います。日本でも、サイバーエージェントやGMOインターネットなどがこれに当たるかと思います。とはいえ、この形式を取っている会社は、まだそこまで多くないのではないでしょうか。

:ビジネスを立ち上げたり、展開したりするノウハウはある程度必要だと思います。「法則性を見つける」と言うと偉そうですが、勝ち筋を見つけて、道具を開発して、みんなで金脈を掘っていくイメージですね。

ここからは顧客基盤をうまく使っていくことが重要

エイチーム

冨田:こうやってライフサイクルに対して様々なサービスを展開している上で、楽天IDやリクルートIDのように、共通IDまでいくかはさておき、事業同士の連携、シナジー効果についてはどのようにお考えでしょうか。グループ全体をハンドリングするときに意識していることはありますか?

:今までは、事業を垂直的に立ち上げることによって、「こういう風にやると成功確率が高い」「このようにマーケティングやプロモーションすると効率が良い」といったノウハウベースでやってきましたが、ここからは顧客基盤をうまく使っていく、各事業を連携させていくことが重要だと考えています。

実際、「この事業とこの事業を組み合わせたらシナジーがありそうだな」といったスモールテストや調査を社内で始めています。グループ間の効率化を図るため、連結子会社の再編も先日発表しました。共通IDまではいかないと思いますが、ユーザーの属性を分析しきって、相互送客を実行するフェーズにやっと入ったと感じています。

引っ越しや自動車、結婚などのライフスタイルサポート系の当社の主力サービスは、人生で何回も使うものではありません。まだ詳細はお話できませんが、もっと長く使ってもらうサービスの検討も進んでいます。引っ越しや自動車、結婚といった「人生においてそこまで多く発生しないイベント」を通じて顧客と接点を持ち、ユーザーが必要とするサービスを適切なタイミングで提供し、LTVの向上を目指したいと思います。

冨田:21年9月10日に発表した「2021年7月期決算説明資料」も拝見しておりますが、「ゆりかごから墓場まで」と記載されており、まさにライフスタイルそのものですね(編集部注:以下の画像を参照)。例えば自動車であっても、今日では売買だけではなく、カーシェアリングという新しいマーケットが生まれてきています。まだ圧倒的なプレーヤーがいないとすれば、進出する価値はあるかもしれません。自動車はたまたま目に入っただけなので、これは一例に過ぎませんが、まだまだ広がる余地がありそうですね。

株式会社エイチーム
(画像=株式会社エイチーム 2021年7月期決算説明資料 P.12より引用)

:おっしゃるとおりですね。ただ、むやみやたらには立ち上げるわけではありません。それぞれの領域には、すでに競合がいます。しっかりと分析をして「勝ち目があるところはいく」という姿勢です。

冨田:これまではデジタルで完結することが多かったと思いますが、デジタルではない方向の拡大もあり得るのでしょうか?

:労働集約的でなければ、あり得ると思っています。例えば、結婚式場情報サイトの「Hanayume(ハナユメ)」では無料相談デスク(店舗)を全国に展開しています。

「いい人しか取らない」と決めている

冨田:ユーザーのカスタマージャーニーを考えて、リアル店舗があったほうが良い場合はアジャストされているのですね。ここからは御社の競争優位性についてお聞きしたいと思います。デジタルマーケティング、ポートフォリオ経営、人材育成などが色々あると思いますが、林社長が思う競争優位性は何でしょうか?

:IRでもよく聞かれるのですが、「いい人材が多い」という答えになると思います。私だけが言っているわけではなく、経営陣で当社の強みを話し合ってもそこにたどり着きます。昔、人でかなり苦労した経験があり、人が事業のブレーキにもなり得ると身をもって知ったので、「いい人しか取らない」と決めています。

倍率で言うと、100倍から200倍でしょうか。中途採用は少し前まで毎月約2,000人の応募があり、そこから採用するのは約10人でした。新卒採用は年間で約1万人の応募があって、採用するのは20人くらいです。

ただ、何をもって「いい人」なのかは極めて定性的です。そこで去年、初めて「いい人」の言語化をしました。それが、8項目から構成されている「“Ateam People”(エイチームピープル)」です。当社が大切にする価値観であり、このような価値観を持つ人たちのことを指す言葉でもあります。

求めているのは、一言で言えば「協調性が高い人」です。当社はビジネスモデル上、競争的よりも協調的でないとうまくいきません。実際、中途採用の人が入って驚くのが「いい人が多いですね」ということです。サービス間においても壁がなく、学んだことを出し惜しみすることもありません。そのような環境だと仲間に貢献したくなり、事業が成長し、また「いい人」が入ってくる。正のスパイラルがうまく回っていると思います。

冨田:前職は野村證券でプライベートバンカーをやっていましたが、「バランスシートに現れていない無形資産を見ろ」と教えられてきました。それが情報ギャップとなり、有望投資先の発掘につながるためです。御社には、まさにバランスシートに現れていない無形資産があるのだと感じました。

“Ateam People”の8つをすべて実践するだけで相当レベルが高いと思いますが、それだけの採用応募が来ることにも何か工夫があるのではないかと思いました。財務諸表として発表している販管費や採用費は、あまり分類を細かく発表しないことが多いと思いますが、どんなに苦しい時期でも一定額は採用費に投下し続けた、新卒は取り続けた、などといった採用の工夫もあったのでしょうか?

:採用に関しては、あまり上手ではなかったと思います。ご多分に漏れず失敗ばかりでした(笑)。採用費が異常に高いということもありません。ただ、色々なサービスを運営しているので目に付きやすく、自分の能力をどこかの事業では生かしやすい、という要素はあると思います。

また、名古屋を本拠地にしている企業では比較的珍しい企業ですので、メディアに取り上げていただく機会も多いですね。名古屋圏においては、一定の知名度があると思います。地方の戦い方ですね。

いち早く新しいプラットフォームに乗り続けることができるか

エイチーム

エイチーム

冨田:意思決定で重要視しているポイントはありますか?

:そんなに複雑なポイントはないですが、新規事業においては「誰がやるのか」が一番大事だと思っています。新規事業で想定どおりいくことは滅多にありませんし、困難も多いものです。そのようなとき、できない理由を説明する人ではなく、「どうやったらできるのか」を考えることができるタフな人に任せるようにしています。

冨田:最後に、思い描いている未来構想について教えていただけますでしょうか。

:それぞれの事業は、まだまだ成長段階だと思います。ビジネスの効率をさらに高めていき、極めたところでプロモーションをかけて、規模を変えていきたいと思っています。そして、事業間のシナジーを高めて、ユーザーのLTVを最大化していきたいと思います。

1997年に個人事業を始めてから、プラットフォームが移り変わり続けています。創業の頃はウィンドウズ95が主流でしたが、インターネットが普及し、ガラケーが普及し、今はスマートフォンが主役です。

振り返ってみると、「そこ(新しいプラットフォーム)にいち早く私が乗り続けた」ということが言えると思います。ガラケーからスマートフォンに主役が移るとき、うまく事業転換ができずに消えていった企業は多くありました。「いち早く新しいプラットフォームに乗り続けることができるか」これがビジネスで重要なことです。大きな夢を描くよりも、先にやるべきことだと思います。そのような意味では、スマートグラスには注目しています。

新しいプラットフォームに乗るときに重要視されるのは、持っている情報量とブランドです。例えば、リクルートさんは紙媒体の圧倒的な情報量があり、「求人広告と言えばリクルート」というブランドがあったから、プラットフォームが紙からインターネットに移ったあとも、インターネット上でポジションを確立することができました。

情報量を持つ、有識者になる、ブランドを確立する、それが既存事業の参入障壁になり、新しいプラットフォームに参入するときの競争優位性になると考えています。それらを一歩一歩進めていきたいですね。

また今年中には、満を持して、すごくエネルギーをかけて作ってきたゲームを発表できると思いますので、ご期待ください。エンターテインメント事業はグローバルで一気に広がる可能性がありますので、隠し玉ではありませんが、当たる(ヒットする)といいなと思っています。

冨田:それぞれの分野で面を取っていたことが有機的につながっていき、まさに全体のLTVを高めていくフェーズにあるのだと思います。ゲームのお話も楽しみです。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
林 高生
会社名
株式会社エイチーム
役職
代表取締役社長