民法と商法ではどちらが優先される?

商法は、商売人同士の取引を定めた法律だ。しかし契約について定めた民法もある。商取引も契約に基づいて行われるものであり「民法と商法でどちらが優先されるのか」という問題がある。

民法と商法との関係

商法の第1条第1項では、以下の定めがある。

「商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる」
出典:e-Gov

つまり商法は、第1条で商人の営業や商行為、その他商事について定めた法律であることを宣言している。また同法第1条第2項では、以下の定めがある。

「商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる」
出典:e-Gov

また法律には「一般法」と「特別法」があり、商法は民法の「特別法」の関係にある。一般法をさらに細かく規定したものが「特別法」だ。民法と商法に重複する内容の規定がある場合には「特別法」である商法が優先される。つまり民法と商法の優先順位は、商事に関していえば「商法>商慣習>民法」という順位で適用されることになるのだ。

民法と商法とで異なる規定がある

民法と商法で異なる規定があるのでその例をいくつか見てみよう。

・商行為における承諾

商法第508条
商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
出典:e-Gov

民法第525条
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
出典:e-Gov

商法では「相当の期間内に承諾がなかったときは効力を失う」ことになるが、民法では「相当な期間が経過するまでは撤回ができない」ことになり意味が異なる。商法では、事業の停滞がないように速やかな措置がとられている。

・商行為の代理

商法第504条
商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
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民法第99条
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
出典:e-Gov

商法では、代理人が本人のためにすることを示さなくても効力が生じる点が民法とは異なる。民法での代理人は顕名主義がとられているが、商法では依頼人が推定できればよいと言っているのだ。もちろん、代理人であることを知らなかったときは、その代理人に対して履行を請求できる。

・商行為の債権の利息

以前は、商行為の債権の利息は年6%、民法の法定利率は年5%と異なる利率であったため、商行為に該当の有無で適用する利率を使い分ける必要があった。しかし2020年4月の民法改正に伴い、商法の法定利率は廃止され年3%に統一されている。ただし2020年4月1日より前に発生した商事債権により発生した利息は、商法上の債権の利率が適用されるため注意が必要だ。