運送業経営者必須の知識 商法改正のポイント

冒頭で述べたように商法は、過去にも何度か改正されている。直近では、商法のなかで規定されている運送・海商に関するルールを現代の社会経済情勢に対応させるべく「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」が2018年5月に成立。2019年4月1日から施行されている。

近年は、バイクや自転車などを使って個人で宅配サービスを行う人も出てきており、これまでにない新しい分野の企業が現れている。2020年以降はコロナ禍により物流ニーズが爆発的に高まった。そのため運送を業とする人は、あらためて義務・責任・免責事項などを確認しておく必要がある。

ここでは、物品運送に関する主な法改正内容を解説していく。

運送全般のルールが新設

これまでは、航空運送や陸・海・空を組み合わせた複合運送に関する規定がなかったが、それらは現代の社会において一般的に行われている。そのため現代の社会情勢に対応することを目的に運送全般に関する共通ルールが新設された。商法では、物品運送や運送事業者の保護、法律関係の早期画一的処理を図ることを目的に多くの規定が定められている。

これにより航空運送や複合運送にも商法が適用されることになった。また陸・海・航の運送を組み合わせ複合運送では、例えば配送された荷物が壊れていた場合、どのように運送事業者へ損害賠償請求をするのかが問題になっていたが、そのような問題に対応するための規定が創設された。

危険物に関する荷送人の通知義務の明文化

送り主は、ガソリン、灯油、高圧ガス、火薬類などの「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの(危険物)」の運送を依頼する際、運送品引き渡しの前までに運送事業者に対して品名、性質など安全な運送に必要な情報を通知しなければならないことが明文化された。通知をしなかった場合、送り主が運送事業者に対して損害賠償の責任を負う。

ただし送り主に落ち度がないことを証明した場合は、この限りではない。

全部滅失の場合でも荷受人は損害賠償請求が可能

送られたはずの荷物が運送中に滅失し、荷受人の手元に届かない事例もあるが、法改正前は一部でも荷物が届かなければ荷受人が損害賠償を請求できない問題があった。改正後は、運送品の全部が滅失し荷受人がなにも受け取っていない場合でも、荷受人は物品運送契約によって生じた運送事業者の権利と同一の権利を取得し損害賠償を請求できる。

ただし、受取人が運送品の引き渡しやその損害賠償の請求をしたときには、荷送人はその権利を行使できない。また、この規定は任意規定となっているため、契約書などの契約内容で商法と異なる規定を設けることも可能だ。契約締結の際には、損害賠償の規定に細心の注意を払い、内容を確認する必要がある。

なお、荷送人には荷主からの依頼を取り次ぎ、運送手段を手配する宅配業者なども含まれるため宅配業を営む人は注意が必要だ。

荷物の滅失損傷に対する運送人の責任期間が1年に短縮

法改正前において運送事業者が運んだ荷物が壊れていた場合、運送事業者の責任は指定された受取人に荷物を引き渡してから最長で5年の間と定められていた。運送事業者が損傷を知らなかった場合は1年、知っていた場合は5年の消滅時効となっていたのだ。

そのため引き渡しから1年以上経過後「運送事業者が損傷を知っていたはず」と主張されても運送事業者は知らなかったことを証明することが困難となり地位が不安定になる問題があった。改正後は、膨大な荷物を扱う運送事業者のリスク管理の観点から除斥(じょせき)期間として運送事業者の責任は、指定された受取人に荷物を引き渡してから一律1年となっている。

除斥期間は、消滅時効と異なり中断や停止が認められず期間の経過によって権利が消滅する。届いた荷物が壊れていた場合、運送事業者に損害賠償請求をするケースもあると思われるが、消滅時効を知らないと大きな損害を被る可能性があるのだ。受取人は、1年の制限期間内に損害賠償の請求をしなければならないため注意しなければならない。

旅客運送事業者の免責特約の効力に関する規定が新設

商法には、タクシーやフェリー、旅客機などの旅客運送もあるが運送業者を免責するような特約を規制する規定はなかった。そのため事故が起こった際、賠償額の上限を決める特約を設けたり運送業者が責任を負わない内容の誓約書を求めたりする事例が問題視された。改正後は、共通ルールとして旅客の生命・身体が損なわれた場合の運送事業者の損害賠償責任を軽減・免除するような特約は原則無効だ。

旅客の生命・身体の侵害についての運送業者の責任を減免する特約は、無効とする規定を新設し損害賠償が不当に制約されることを防止した。ただし以下のような例外事項もあるため、注意しておきたい。

  • 旅客列車における到着の遅れなど運送の遅延を原因とするもの
  • 被災地に救援物資を届ける人を運送する場合
  • 大規模な火災や震災などが発生した場合
  • 重病患者を搬送する場合など

高価品の損害についての運送人の責任が変化

高価品の損害の場合、運送業者の責任に変化があることにも注目したい。従前は、運送を委託する場合に高価品であることを通知しなければ運送業者は損害賠償の責任を負うことはなかった。しかし改正後は、以下のような場合、運送業者は損害賠償責任を負うため、注意が必要だ。

  • 物品運送契約の締結当時に運送品が高価品であることを運送業者が知っていたとき
  • 運送業者の故意・重大な過失によって高価品の滅失、損傷、延着が生じた場合